安定的で安価なエネルギー「サナエネミックス」はGXの換骨奪胎で実現すべし

2025年10月31日 06:45
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

首相官邸HPより

高市首相は所信表明演説で、エネルギー供給に関しては「安定的で安価」が不可欠だとした。該当箇所を抜粋すると「6 エネルギー安全保障 国民生活及び国内産業を持続させ、更に立地競争力を強化していくために、エネルギーの安定的で安価な供給が不可欠です。・・」となっている。

これは当たり前のことながら、これまでの菅・岸田・石破政権ではひたすら「脱炭素」に傾斜してきたことからすれば、画期的だ。

だがその具体的な手段は何か。言及されているのはガソリン減税と軽油減税である。もちろん減税で光熱費が下がることは国民にとって良いことだが、税収が減った分は、他の税で穴埋めするか、国債を発行しなければならない。つまりはお金を右の懐から左の懐に移す話であって、富を国全体として増やす話には直接にはならない(もちろん積極財政vs緊縮財政の議論はあるけれども、これは間接的な効果である)。

富を全体として増やす話として言及されてたのは原子力の推進であり、これは結構なことである。

ただし、本当に「安定的で安価」がサナエネミックスの大目標であるならば、光熱費高騰の元凶である再エネ推進政策を始めとしてグリーントランスフォーメーション(GX)政策を換骨奪胎しなければならない。これについては、高市首相は所信表明で特段のことは言っていない。ただし、気候危機とかCO2実質ゼロとかいった文言が一切出てこないところを見ると、GXの政策的優先順位が高いとは思っていないようだ。ちなみに日本政府がCO2実質ゼロを宣言したのは菅首相の所信表明演説であった。

さて高市首相はメガソーラーについては総裁選中に否定的な発言を繰り返していた。「これ以上、私たちの美しい国土を、外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」「だいたいおかしいと思いませんか。釧路湿原に太陽光パネルを敷き詰めるようなやり方は」「(太陽光などの)補助金制度の大掃除をして、本当に役に立つものに絞り込む」などである。

だが、メガソーラーについて環境規制を強化することは当然として、「安定的で安価」を本当に実現するためには、「再エネ最優先」という現行のエネルギー政策を見直さねばならない。

再エネ賦課金はすでに年間3兆円弱に達している。これに加えて、グリーントランスフォーメーション(GX)計画では今後10年で150兆円の投資を実現すると政府は言うが、この対象は太陽光発電、風力発電、アンモニア発電、水素利用、CO2回収貯留(CCS)など、いずれも高コストなものだ。このような投資を進めれば、光熱費は高騰する一方である。

三菱商事グループの洋上風力発電撤退の件においても、洋上風力が実は極めて高コストであることが改めてはっきりと示された。

GX計画における150兆円の投資を実現させるためとして、政府はCO2に関する規制や賦課金を次々に導入している。関連する法律を数えると既に18もあった。そしていま政府は新たに排出量取引制度と化石燃料賦課金の導入を進めている。だがこのような制度こそが光熱費高騰を招くのである。悉く廃止しなければならない。

米国トランプ政権は、バイデン政権時までに導入されたCO2に関する規制を悉く撤廃することで、史上最大の「1兆ドルの規制緩和」を実現すると表明した。日本も、GXを廃することで「150兆円の規制緩和」を実現するべきだ。これこそ、強く豊かな日本を造る「サナエノミクス」にとっても重要な課題である。

もっとも、日本政府のことだから、撤廃というよりは、転進したと言って取り繕いたいだろう(この性癖は80年前と何ら変わらない)。ならば、GXは換骨奪胎して、安定的で安価なエネルギーを実現し、それを利用する産業を育てる制度に変えればよい。

つまり高コストなグリーン技術への投資は止め、CO2に関する規制および賦課金は廃止するが、原子力および火力発電を推進し、またAI、半導体、自動車、バッテリー製造、それに加えて昔からある素材産業など、エネルギー多消費産業を育成するために投資をする。

じつはこれは全く目新しいことでもない。現行のGX計画では、その一部として、累積20兆円のGX経済移行債を政府が発行して投資することになっているが、これまで発行された4.2兆円については、蓄電池や半導体などの国内製造拠点整備が57%を占めている。つまり、政府によるGX投資は、すでに現実として、そのようなエネルギー多消費産業への投資になっている。

日米首脳会談で発表された覚書「日米間の投資に関する共同ファクトシート」では、日米の企業の協同による、米国の電力およびAIインフラへの総額4000億ドルの投資について関心を示す声明があった。

電力では原子力も言及されているが、米国の電力は火力発電が主力であることはこれからも変わらない。この一連の投資が日本企業にとってのビジネスになるならばそれは結構なことだが、それにしても思うのは、なぜこの投資の対象は、日本では無いのだろうか? 火力発電を悪者扱いし電気代を高騰させる愚かなGXは換骨奪胎して、安定的で安価な電力と、それを利用する産業への投資を、日本でこそ実現すべきではないのか?

サナエノミクスを実現するには、サナエネミックスが必須だ。それはすなわち、150兆円の規制緩和によって、安定的で安価なエネルギーを実現することである。それがAIインフラや半導体産業などへの投資も呼び込み、経済成長へとつながる。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

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