欧州洋上風力の物理的限界と日本への警鐘:第7次エネルギー基本計画を問い直す

2026年01月11日 06:40
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技術士事務所代表

MR1805/iStock

はじめに

日本が、第7次エネルギー基本計画で進めている“洋上風力発電”について、デルフト工科大学などが、2025年にレポートを発表した。日本にも重要な示唆を与えるレポートなので、概要を紹介する。

Offshore wind turbines steal each other’s wind: yields greatly overestimated – Clintel

1. レポート要約:露呈した「風の盗み合い」と予測の乖離

欧州のグリーンディール政策において、洋上風力発電は脱炭素の柱とされてきたが、最新の研究(デルフト工科大学等、2025年発表)は、その計画が「物理的な天井」に直面していると警告している。

研究の核心
風力発電所が大規模化・密集化するにつれ、それらは地表から数キロメートルの高さにまで及ぶ「大気境界層」の下部からエネルギーを奪い取る。抽出されたエネルギーは上層から補充される必要があるが、気象学および地球物理学的な原理に基づくと、この補充量には限界がある。つまり、風力タービンが過密に設置されると、タービン同士が「風を盗み合う」現象が発生し、個々の発電効率が劇的に低下する。研究チームは、世界72カ所の風力発電所の実測値を基にした検証モデルにより、この物理的な「天井」が存在することを証明した。

実際、オランダ政府の計画では設備利用率を51〜56%と見込んでいたが、実績値は37〜38%に留まっており、約49%もの過大評価が判明した。これは、技術革新では克服できない「大気の物理的制約」を無視した結果であり、欧州ではすでに入札不成立や事業停滞という形で経済的ひずみが表面化している。

2. 日本への警鐘:第7次エネルギー基本計画の「罠」

この欧州の教訓は、現在日本が進めている「第7次エネルギー基本計画」に対する強力な警鐘となる。日本は2040年度までに30〜45GWという膨大な洋上風力を導入する目標を掲げているが、そこには3つの重大なリスクが潜んでいる。

デルフト工科大学らの研究が突きつけた事実は、日本のエネルギー政策が陥る可能性のある「3つの罠」を浮き彫りにしている。

「カタログスペック」という罠:設備利用率の過大評価

欧州の研究では、オランダ政府の想定する設備利用率(51〜56%)に対し、実際の実績は37%程度に留まっていた。日本においても、環境省や事業者のシミュレーションでは30〜40%台の高い設備利用率が期待されている。

しかし、日本海側の風況は欧州に似ているとはいえ、夏場の風速低下や台風のリスクなど、気象条件はより複雑である。欧州のような「広大で浅い北海」という好条件ですら物理的制約により予測が5割も外れているのだ。

島国日本が同様の、あるいはそれ以上の密度でタービンを並べた際、政府が描く「安価で安定した電源」というシナリオが根底から崩れるリスクは極めて高い。

「過密設置」という罠:狭い海域での風の奪い合い

日本は排他的経済水域(EEZ)こそ広いが、急深な地形のため、建設コストが安い「着床式」を設置できる海域は極めて限定的である。その結果、特定の好適地にタービンが密集せざるを得ない。

欧州の報告が明かした「大気境界層のエネルギー枯渇(風の盗み合い)」は、面積あたりの設置密度が上がるほど深刻化する。日本が限られた浅瀬にタービンを詰め込めば、個々の発電効率は劇的に低下し、投資に見合わない「負の遺産」を海上に並べることになりかねない。

「関連投資のドミノ倒し」という罠:水素・蓄電池への波及

日本政府は洋上風力の変動を補うため、蓄電池や水素製造への巨額投資を計画している。しかし、これら二次インフラの経済性は、元となる風力発電が「想定通りに発電すること」を前提としている。

もし欧州のように発電量が予測の半分近くになれば、水素製造プラントの稼働率は下がり、蓄電池は空のまま放置される。一つの計算違いが、エネルギー転換に関わるすべての投資を赤字に追い込み、そのコストは最終的に国民の電気料金として跳ね返ってくる。

日本が取るべき「防衛策」

欧州の失敗を繰り返さないために、日本は以下の視点を持つべきである。

  • 「物理限界」を組み込んだシミュレーション: 単体の風車性能ではなく、大気の回復力を考慮した広域モデルでの再評価。
  • 配置の最適化(低密度化): 効率を優先し、無理な密集を避ける空間計画の策定。
  • 浮体式への早期移行とコスト検証: 着床式の過密化を避けるため、より広い海域を使える浮体式への期待は大きいが、これもまた「大規模化による効率低下」の物理法則からは逃れられないことを直視すべきである。

「ネットゼロ」という美名の下で、科学的な物理限界を無視した数値目標を突き進むことは、将来世代に巨額の負債を押し付けることに等しい。欧州の「不都合な真実」を今こそ謙虚に学び、日本のエネルギー計画を「物理学」に裏打ちされた現実的なものへと修正すべきである。

結論:今こそ「物理学」に根ざした計画への修正を

第7次エネルギー基本計画を「絵に描いた餅」にしないためには、政治的な数値目標ありきの議論から脱却する必要がある。

日本は今すぐ、欧州の失敗を「他山の石」として、大気の回復力を考慮した現実的な発電シミュレーションをやり直すべきだ。科学的な物理限界を直視した、控えめながらも堅実なエネルギー戦略こそが、真の脱炭素と経済安全保障を両立させる唯一の道だ。

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