湿原破壊を費用換算するとメガソーラーのコストは倍になる

Osamu Ito/iStock
政府の発電コスト試算を見ると、2040年のモデルプラント方式では、事業用太陽光は比較的安価な電源として示されている。下の図は、政府の発電コスト検証ワーキンググループによる2040年試算の結果である※1)。

図1 政府の発電コスト試算における2040年モデルプラント方式の比較
出典:発電コスト検証ワーキンググループ資料
この図だけを見ると、メガソーラー(図の一番左、中の太陽光・事業用)は低コスト電源に見える。
だが、この試算はあくまで発電設備そのもののコストを比較するものであり、どこに建てるかによって生じる自然資本の損失までは反映していない。
そこで、釧路湿原のような湿原およびその周辺湿地を改変してメガソーラーを設置する場合を考える。詳細な計算は、CIGSワーキングペーパー「メガソーラーによる湿原損失の費用評価」※2)に示したので、ここでは結論だけを述べる。
環境省は、湿原が持つ生態系サービスの経済価値を公表している。そこでは、二酸化炭素吸収、水量調整、水質浄化、生物多様性保全、自然景観保全といった価値が金銭換算されている。これを合計すると、湿原の価値は約662万円/ha/年となる※3)。
他方、1haあたり0.67MW、設備利用率12%というメガソーラーを想定すると、年間発電量は約70.4万kWh/ha/年である。したがって、湿原価値の喪失を発電量で割ると、外部費用は約9.4円/kWhとなる。
政府の2040年モデルプラント試算で示された事業用太陽光のコストに、この湿原損失コストを上乗せすると、発電コストは大きく変わり、ほぼ倍増する。

図2 事業用太陽光に湿原損失コストを加えた社会的費用
注:政府の2040年モデルプラント方式における事業用太陽光の図示値に、環境省積上げケースによる湿原価値喪失9.4円/kWhを加算。
これは筆者の独自推計ではなく、飽くまでも、環境省が公表している湿原の経済価値を使った計算である。
メガソーラーは、湿原の損失を伴う場合は、社会的費用が高くなることが示された。脱炭素の名の下に自然資本を毀損する政策は、環境政策として本末転倒ということになる。
なお以上の計算は、大量導入時に発生する「系統統合コスト」(=出力制限や蓄電池設置等によるコスト)を含んでいない。系統統合コストを含むと、このメガソーラーのコストはさらに高くなる:

図3 統合コストの一部を考慮した発電コスト
出典:発電コスト検証ワーキンググループ資料
【参考文献】
- ※1)発電コスト検証ワーキンググループ(2025)『発電コスト検証に関するとりまとめ』令和7年2月6日。
- ※2)杉山大志(2026)『メガソーラーによる湿原損失の費用評価』CIGS Working Paper Series No. 26-006J、2026年5月29日。
- ※3)環境省(2014)『湿地が有する生態系サービスの経済価値評価』。
■
関連記事
-
6月29日のエネルギー支配(American Energy Dominance)演説 6月29日、トランプ大統領はエネルギー省における「米国のエネルギーを束縛から解き放つ(Unleashing American Ener
-
【気候変動 climate change】とは、人為的活動等に起因する【地球温暖化 global warming】などの気候の変化であり、関連して発生するハザードの問題解決にあたっては、過去の定量的評価に基づく将来の合理
-
ドイツ銀行傘下の資産運用会社DWS、グリーンウォッシングで2700万ドルの罰金 ロイター ドイツの検察当局は、資産運用会社のDWSに対し、2500万ユーロ(2700万ドル)の罰金を科した。ドイツ銀行傘下のDWSは、環境・
-
あまり報道されていないが、CO2をゼロにするとか石炭火力を止めるとか交渉していたCOP26の期間中に中国は石炭を大増産して、石炭産出量が過去最大に達していた。中国政府が誇らしげに書いている(原文は中国語、邦訳は筆者)。
-
合理性が判断基準 「あらゆる生態学的で環境的なプロジェクトは社会経済的プロジェクトでもある。……それゆえ万事は、社会経済的で環境的なプロジェクトの目的にかかっている」(ハーヴェイ、2014=2017:328)。「再エネ」
-
2024年11月9日20時22分、四国電力管内で最大36万5,300戸の停電が発生した。今回の停電は、送電線が停止してその先に電気が送れなくなったことによるものではなく、他電力との連系線の制御がうまくいかず、四国管内の需
-
なぜ浮体式原子力発電所がいま熱いのか いま浮体式原子力発電所への関心が急速に高まっている。ロシアではすでに初号基が商業運転を開始しているし、中国も急追している。 浮体式原子力発電所のメリットは、基本構造が小型原子炉を積ん
-
以前、尾瀬の自然保護活動に関して「仮想評価法(CVM)」という手法を使ってその価値の計測を試みたことがある。ハイカーが押し寄せて自然が荒廃した1960年代の尾瀬の写真と、保護活動により回復した現在の尾瀬の写真を2つ提示し、尾瀬の美しい自然価値に対して自分が支払ってもいいと考える評価額(支払い意思額)を聞いたものだ。回答のなかには驚くほど高額の回答もあり、平均すると年間で1人1000円超となった。担当者としては、尾瀬の自然に高い価値を感じてくださっていることを嬉しく思うと同時に、その場で自分が支払うわけではない「架空の財布の紐」は緩いのだとも感じた。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















