世界最大の牛肉加工業者JBSもネットゼロ目標を撤回

inga/iStock
ブラジルに拠点を置く多国籍食品企業であり世界最大の牛肉加工業者であるJBSフーズが、2040年までにバリューチェーン全体でネットゼロを達成するというCO2排出削減目標を撤回しました。
今回の見直しによって、JBSは2030年にスコープ1とスコープ2のCO2排出原単位を30%削減する従来の目標を継続するとともに、新たに2050年に両スコープでCO2排出原単位の70%削減をめざすとのことです(2030年目標、2050年目標のいずれも2019年比)。スコープ3の目標はすべて撤回されました。
ESG Todayによれば、JBSのグローバル最高サステナビリティ責任者がスコープ3のネットゼロ目標について次のように述べたそうです。
「実行が進むにつれて、数十か国の数千万ヘクタールに及ぶ数十万人の独立系農業生産者が、それぞれに異なる農法や基準を持ち、標準化された測定インフラが整っていないため、バリューチェーンのネットゼロ目標が非常に困難であることが明らかになってきた。」
世界最大と言われる食品加工多国籍企業のサステナビリティ責任者がこの程度の認識だったとは。。JBS社内のサステナビリティ部門担当者とサプライチェーンに関連する農家さんたちのご苦労は想像に耐えません。こんなことはスコープ3に取り組む前にちょっと考えれば誰でも想像がつくのです。筆者は以前から指摘してきました。
スコープ3の算定・開示が義務化された世界を想像してみます – NPO法人 国際環境経済研究所
では、もとのJBSのネットゼロ計画とはどんなものだったのかと思って探してみたのですが、同社ウェブサイト上のネットゼロ特設ページはすでに削除されたようです。それでもあれこれ探してみたところ、Edie2021年3月24日付記事にネットゼロイニシアチブへの署名といった周辺情報も合わせて出ていました。以下、抜粋します(太字は筆者)。
JBSは、2040年までにバリューチェーン全体でネットゼロを達成するという新たなコミットメントを発表した。JBSは2019年と比べて2030年までにスコープ1および2の排出原単位を少なくとも30%削減することを目標としている。対象は同社のグローバル事業と、南米、北米、ヨーロッパ、英国、オーストラリア、ニュージーランドにまたがるサプライチェーンをカバーする。
(中略)
食品加工産業でネットゼロを約束する最大企業であるJBSは、1.5°Cの野心に向けた科学的目標イニシアチブ(SBTi)基準に沿った中間目標を策定した。同社はまた、国連グローバルコンパクトの「ビジネス・アビション・フォー・1.5°C」イニシアチブにも署名しており、これは地球温暖化を抑制するパリ協定の最も野心的な目標と一致している。
(中略)
その他のコミットメントには、2040年までに全施設で100%再生可能エネルギーを調達するRE100に取り組むことや、気候関連財務開示タスクフォース(TCFD)イニシアチブに沿って気候変動に関連する財務リスクの進捗を毎年開示することが含まれる。
こりゃびっくり。見直し前の計画の時点でまったくネットゼロへの筋道ができていなかったことが明らかです。
2030年の目標がスコープ1・2の排出原単位30%削減なのに、たった10年後の2040年にバリューチェーン全体、つまりスコープ3のネットゼロ(=CO2絶対量ゼロ)と全施設の再エネ100%調達なんてできるわけがありません。
排出原単位ということは売上高などの単位当たりCO2排出量やエネルギー利用効率などを30%改善するという目標なので、CO2絶対量が横ばいや増加していても2030年原単位目標は達成可能なのです。
こんな杜撰な計画であるにもかかわらずJBSはSBTi、国連グローバルコンパクト、RE100などにコミットしていたというのですから、これら脱炭素イニシアチブの基準も推して知るべしです(要は、根拠はともかく言ったもん勝ち)。
最後に、今回JBSが見直した「スコープ1・2排出原単位を2030年に30%削減、2050年に70%削減」という目標は企業経営として現実的であり、かつ現場の皆さんのやる気も出るとてもよい目標になったと筆者は評価しています。日本企業もJBSに続いてほしいものです。以前アゴラで紹介した豪州旅行会社のネットゼロ目標撤回事例もぜひご覧ください。
豪旅行会社が脱炭素目標撤回、SBTi離脱を表明 | アゴラ 言論プラットフォーム
同社のリリースで特に感銘を受けたのが、CO2の絶対量は増えてしまうため原単位目標に切り替えることを表明した点です。すばらしい!原単位をひっくり返すと環境効率になります(後述)。筆者は、事業活動における環境効率の向上こそ企業に与えられた命題、めざすべき普遍的な環境目標だと考えています。
事業会社が無理くり脱炭素(絶対量削減)をめざしても行きつく先はビジネスの縮小しかありません。脱炭素目標を掲げているすべての経営者が、知ってか知らずか事業縮小をめざしていることになります。一方で、環境効率を高める(=分母・分子を逆にすれば排出量原単位を下げる)目標であれば、すべての経営者が賛同できるはずです。達成できないと分かっている脱炭素目標を維持するのではなく、企業が本来めざすべき環境効率目標へ転換することこそ企業価値の向上につながります。日本の産業界がイントレピッド社に続くことを願います。
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