今週のアップデート — チェルノブイリ事故で何が起こったか? 最新のロシア政府報告で示された事実(2012年1月23日)
今週のコラム
エネルギー政策の見直し議論が進んでいます。その中の論点の一つが「発送電分離」です。日本では、各地域での電力会社が発電部門と、送電部門を一緒に運営しています。
21世紀経済研究所の研究主幹である澤昭裕氏にこの問題について分析するコラム「拙速な発送電分離は危険」を寄稿いただきました。澤氏は、福島原発事故によって電力不足に直面した日本で、これまで機能してきたエネルギー政策を急いで変える必要はあるのかと疑問を示しています。
今週の紹介論文・報告書
1)2011年にロシア政府がまとめた最新の報告書『チェルノブイリ事故25年 ロシアにおけるその影響と後遺症の克服についての総括および展望1986〜2011』より、最終章「結論」を紹介します。この文章は中川恵一東京大学医学部附属病院 放射線科准教授 緩和ケア診療部長の「放射線医が語る被ばくと発がんの真実」(ベストセラーズ)に掲載されたものです。中川先生のご厚意によって紹介します。
ロシア政府報告書によれば、事故処理による被曝による死者は50人以下。事故の影響による死者の数は、とても少ないものでした。
ロシア政府は事故そのものよりも社会混乱、経済的損失、心理的な圧迫による損害が大きかったと分析しています。福島の健康被害の可能性は大変小さいものなのに、社会混乱による損害が広がっています。チェルノブイリと状況が似ています。私たち日本人は福島事故の処理で、その失敗を繰り返してはいけません。
1986年に起こったチェルノブイリ事故で何が起こったのか。これまでGEPRでは、ロシア政府などの3カ国とIEAなどの8国際機関の報告書「チェルノブイリの遺産」(2006)、またUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の報告書(2008)を紹介しました。
2)「東日本大震災からの農林水産業の復興に向けて ― 被害の認識と理解、復興へのテクニカル リコメンデーション」
この論文は農業の技術的な提言に加えて、日本の現状を分析しています。
「放射能汚染を受けた地域の農業関係者に共通するのは、風評被害に対する恐怖である。それが、極端にいえば、「村に一切の放射能がない状態への復元」という実現不可能な除染を望む声を生み、結果的に除染が一向にすすまない状況を生んでいる場合さえある。」
「 消費者が、事故発生時点の「何が起こったか分からない」という状況で、事故地周辺の農産物を避けたのは正当なリスク回避の一つであったともいえよう。しかし、現在、放射性物質による汚染がほぼ正確に理解され、出荷、流通段階での検査等で安全性が確認された状況で、同じことをするのは公正な市場を損ねることになりかねない。」
「残念ながら、ときに、他地域の地方自治体と住民までが「風評加害者」となり、放射能汚染は、差別のような日本人の心の汚染にまで広がっているという
指摘さえある。」
いずれも重要な指摘です。
3) 【映像資料】にグロービス特別セミナー「東大・中川氏 正しい放射線・放射能・被ばくに関する対応とは」を更新しています。
関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを行進しました。
-
7月22日、インドのゴアでG20エネルギー移行大臣会合が開催されたが、脱炭素社会の実現に向けた化石燃料の低減等に関し、合意が得られずに閉幕した。2022年にインドネシアのバリ島で開催された大臣会合においても共同声明の採択
-
以前、大雨の増加は観測されているが、人為的なものかどうかについては、IPCCは「確信度は低い」としていることを書いた。 なぜかというと、たかだか数十年ぐらいの観測データを見て増加傾向にあるからといって、それを人為的温暖化
-
都知事選では、原発を争点にすべきではないとの批判がある。まさにそうだ。都知事がエネルギー政策全体に責任を持てないし、立地自治体の首長でもないから、電力会社との安全協定上の意見も言えない。東電の株主だと言っても、原発は他の電力会社もやっている。
-
アサヒ飲料が周囲のCO2を吸収する飲料自動販売機を銀座の商業施設内に2日間限定で展示したとの報道があった。内部に特殊な吸収剤を搭載しており、稼働に必要な電力で生じるCO2の最大20%を吸収することが出来るそうだ。使い終わ
-
ロシアのウクライナ侵攻という暴挙の影響で、エネルギー危機が世界を覆っている。エネルギー自給率11%の我が国も、足元だけではなく、中・長期にわたる危機が従前にまして高まっている。 今回のウクライナ侵攻をどう見るか 今回のロ
-
原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
-
長崎県の宇久島で計画されている日本最大のメガソーラーが、5月にも着工する。出力は48万kWで、総工費は2000億円。パネル数は152万枚で280ヘクタール。東京ディズニーランドの5倍以上の巨大な建築物が、県の建築確認なし
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間













