ある医師からの手紙「放射能と健康についての知識を医師に学んでほしい」 — 「患者の利益のため」ヒポクラテスの教えに私たちは常に従う
GEPRに、医師王伯銘博士から投稿をいただいた。学問的な業績があり、治療活動も行う医師だ。王氏は日本の放射能と健康をめぐる現状について、科学的根拠のない危機感をあおる情報が流通していることを憂慮している。
残念ながら、現在の日本では「福島原発事故によって飛散した放射性物質によって健康被害が出る可能性は少ない」とする正確な 意見を表明すると、「なぜ放射能の危険を強調しないのか」と一部の人から感情的な反発がある。そうした状況でも、医師としての使命感から社会に意見を表明しようとする王氏に深い敬意を持つ。
GEPRは、正確な意見を社会に提供する専門家を支援し、自由な意見の流通を促す活動を続ける。
【以下本文】
福島原発事故の発生後、放射線被曝に対する関心が急速に高まった。原発事故による被曝被害は絶対に防がねばならないが、一方では過剰な報道により必要以上に一般市民を恐怖に陥れていることも事実である。
福島県産農産物の汚染に対する警戒心は理解できるにしても、薪や花火、コンクリートの橋桁の使用拒否はもはや、集団ヒステリックというほかない。本来ならこのような風評被害やいたずらに不安をあおる論調もある中で、正しい知識を持つ医師は積極的に発言し、啓蒙活動を進める必要がある。
だが、患者の恐怖心を和らげるような医師の発言は、往々にして「御用学者」の烙印を押される材料となり、必ずしも正しく認識、評価されていないのが現状である。放射能の風評被害に惑わされる前に、良識ある医師の発言に耳を傾けてほしい。
特に、母親たちに訴えたい。一部の報道によると、震災と原発事故後に、東北や関東から、沖縄や九州に放射能を恐れて「疎開」した子供が増えているという。私はこれほどまでに進んだ放射能の被曝に対する過剰反応に驚き、そして胸を痛めた。
避難した子供の多くには母親も連れ添い、その孤立を守るために全国規模のネットワークも設立されたという。しかし、これらの子供と母親は精神面、金銭面で大変な負担を受けるのではないだろうか。
原発事故により一定量の放射線物質が被災地以外にも飛散され、放射能被ばくは十分警戒しなければならないが、放射線量が比較的高い「ホットスポット」が検出されても日常生活において健康へ及ぼす影響はない程度のものだ。
このことを多くの良識ある医師が講演活動などを通じて説明し、冷静な行動を呼びかけている。「疎開」を考えている母親は冷静に判断してほしい。ヒポクラテスの教え(注)を誓った医師は患者の健康に害があることを決して選択させることはないのだ。
(注)ヒポクラテスの教え
「ヒポクラテスの誓い」とも言われる。紀元前4世紀の「医学の父」ヒポクラテスがまとめたとされる文章。16世紀から西欧の医師教育で使われ、現在も形を変えて各国の医師の行動規範になっている。医師は患者の健康と利益を最優先に活動することを誓う文章だ。ただし、現代の医学では、外科手術、女性の中絶は認められており、誓いの中のその部分は省略されている。
(以下、金沢医科大学ホームページより)
ヒポクラテスの誓い
医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、パナケイアおよびすべての男神と女神に誓う、私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。
- この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、わが財を分かって、その必要あるとき助ける。その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。
- そして書きものや講義その他あらゆる方法で私の持つ医術の知識をわが息子、わが師の息子、また医の規則にもとずき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
- 私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
- 頼まれても死に導くような薬を与えない。それを覚らせることもしない。
- 同様に婦人を流産に導く道具を与えない。(編注・婦人の流産についての部分は現代では省略される)
- 純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。
- 結石を切りだすことは神かけてしない。それを業とするものに委せる。(編注・この外科手術に関する部分は現代では省略される)
- いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷のちがいを考慮しない。
- 医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。
- この誓いを守りつづける限り、私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべての人から尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。
 
関連記事
- 
福島原発事故をめぐり、報告書が出ています。政府、国会、民間の独立調査委員会、経営コンサルトの大前研一氏、東京電力などが作成しました。これらを東京工業大学助教の澤田哲生氏が分析しました。
- 
この度の選挙において希望の党や立憲民主党は公約に「原発ゼロ」に類する主張を掲げる方針が示されている。以前エネルギーミックスの観点から「責任ある脱原発」のあり方について議論したが、今回は核不拡散という観点から脱原発に関する
- 
はじめに 欧州連合(EU)は、エネルギー、環境、農業、工業など広範な分野で「理念先行型」の政策を推進し、世界に対して強い影響力を行使してきた。その中心には「グリーンディール」「Fit for 55」「サーキュラーエコノミ
- 
「もんじゅ」の運営主体である日本原子力研究開発機構(原子力機構)が、「度重なる保安規定違反」がもとで原子力規制委員会(規制委)から「(もんじゅを)運転する基本的能力を有しているとは認めがたい」(昨年11月4日の田中委員長発言)と断罪され、退場を迫られた。
- 
経済産業省は1月15日、東京電力の新しい総合特別事業計画(再建計画)を認定した。その概要は下の資料〔=新・総合特別事業計画 における取り組み〕の通りである。
- 
人工衛星からの観測によると、2021年の3月に世界の気温は劇的に低下した。 報告したのは、アラバマ大学ハンツビル校(UAH)のグループ。元NASAで、人工衛星による気温観測の権威であるロイ・スペンサーが紹介記事を書いてい
- 
朝日新聞に「基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均」という記事が出ているが、送電線は8割も余っているのだろうか。 ここで安田陽氏(風力発電の専門家)が計算している「利用率」なる数字は「1年間に送電線に流せる電気の最
- 
先日、日本の原子力関連産業が集合する原産会議の年次大会が催され、そのうちの一つのセッションで次のようなスピーチをしてきた。官民の原子力コミュニティの住人が、原子力の必要性の陰に隠れて、福島事故がもたらした原因を真剣に究明せず、対策もおざなりのまま行動パターンがまるで変化せず、では原子力技術に対する信頼回復は望むべくもない、という内容だ。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















