「再エネ最優先」がもたらす大停電の危機
![](https://agora-web.jp/cms/wp-content/uploads/2021/08/iStock-522394296-660x440.jpg)
tzahiV/iStock
第6次エネルギー基本計画は9月末にも閣議決定される予定だ。それに対して多くの批判が出ているが、総合エネルギー調査会の基本政策分科会に提出された内閣府の再生可能エネルギー規制総点検タスクフォースの提言は「事実誤認だらけだ」と委員から集中砲火を浴びた。
これについて再エネTFの原英史氏が反論しているが、批判に「レッテル貼り」というレッテルを貼っているだけで反論になっていない。
安定供給のコストを負担しないフリーライダー
再エネTFの提言は、今後の電力供給は「再エネ最優先」にし、「2030年に再エネ36~38%という目標は低い」という。そのために彼らが要求しているのは「再エネに有利なルールにしろ」ということで、再エネへの優先給電や、住宅用太陽光設備の義務化や、出力抑制に対する補償を求めている。
この提言をRITEの秋元圭吾氏が「事実誤認だ」と批判した。特に次の指摘は的確だ。
再エネが安価でポテンシャルも豊富だと主張するなら、再エネ政策は不要ということになるはずだが、主張が一貫的ではない。容量市場の凍結の主張も同様である。2021年1月のスポット市場高騰の批判を強くしておきながら、容量市場は凍結すべきと主張する。科学的な整合性はほとんどない。
原氏は「日本には、耕作放棄されて荒れ果てた荒廃農地は28万haある。ここに太陽光を導入すれば230GWのポテンシャルがある。住宅の屋根おき太陽光のポテンシャルは210GWだ」などと太陽光が安くて豊富にあると主張するが、それなら行政が支援する必要はない。
彼らは「再エネは火力や原発より安い」と主張するが、それならFIT(固定価格買取制度)で補助する必要もない。市場で自由競争したら、再エネはおのずから100%になるだろう。
綱渡りの電力供給をどうするのか
原氏もいうようにエネ基の数字は辻褄が合っていないので、電力供給は100%にならない。再エネにはもう適地がないので、このまま「脱炭素化」を進めると、石炭火力が減ってLNG火力が増えるだけだ。そしてLNGの価格が上がると、今年初めのような大停電の危機が起こるだろう。
古い石炭火力が閉鎖され、原発が動かせないため、今でも日本の電力供給は綱渡りの状況だ。この夏はなんとか乗り切ったが、今年の冬はまた逼迫すると経産省は警戒を呼びかけている。
ところが再エネTFは「柔軟性重視の原則」なるものを掲げ、再エネを優先して、ベースロード電源の火力や原子力を減らせという。この柔軟性とは天気まかせで出力が変動するということだ。安定供給が至上命令の電力供給に、柔軟性の価値などというものはない。電源の不安定性はマイナス要因であり、それを火力や原子力が補完しているのだ。
ところがそれにただ乗りしている再エネ業者は、電力供給の安定性に価値を認めない。電力関係者の怒りを買ったのは、再エネTFの反論の次の記述だ。
再エネの統合コストについて、昨日のコスト検証WGでは、「再エネの統合費用」と称して、『火力のバックアップの費用』などが入れ込まれているが、これは、もともと火力発電事業のコストで、再エネが入ろうが入るまいが発生している費用である。つまり、再エネが増えることによって火力発電がビジネスチャンスを失ったとしても、既に火力発電に投資した発電事業者の損失となるもので、追加費用ではなく、回収できない固定費である
もうけは再エネが取り損害は電力会社に押しつける
再エネの変動をカバーする大手電力会社の損害は「統合費用」には入れるなという。天気がよくてもうかるときは新電力がもうけ、電力会社は火力を止める。天気が悪くなったら新電力は電力会社から電気を買うが、そのとき火力を止めた損害は負担しないというのだ。
原氏はまさかLCOE(均等化発電原価)の意味を知らないわけではあるまい。これは(固定費+変動費)/総発電量だから、分母の総発電量が減るとコストは上がる。たとえば再エネ優先で火力の稼働率が50%に落ちたらコストは2倍になるので、採算の取れない発電所は廃止されるだろう。
そのとき新電力は、それをバックアップする発電所を建てるのか。それとも天気が悪くなったら停電するにまかせるのか。そういう安定供給を保障するために容量市場が設置されたが、河野規制改革相や再エネTFはこれにも「新電力の負担増になる」と反対している。
それは本当は再エネのコストが高いからだ。日本の面積あたり再エネ発電量はすでに世界一で、もう適地が残っていない。蓄電や送電やバックアップなどの統合費用を算入すると、カーボンニュートラルを再エネ最優先で実現する電力コストは2倍になるというのがRITEの計算である。
これから火力や原子力などのベースロード電源が減ったら、停電が頻発するだろう。それは電力自由化で電力供給を効率化するコストである。電気代が中国の7倍になり、電力供給が不安定な国からは自動車メーカーも鉄鋼メーカーも出て行くので、雇用は失われるがCO2の排出量は減る。それが日本が「脱炭素化」する最短の道である。
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
トヨタ自動車が、ようやく電気自動車(EV)に本腰を入れ始めた。今までも試作車はつくっており、技術は十分あるが、「トヨタ車として十分な品質が保証できない」という理由で消極的だった。それが今年の東京モーターショーでは次世代の
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回の論点⑳に続いて「政策決定者向け要約」の続き。前回と
-
菅首相が10月26日の所信表明演説で、「2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す」旨を宣言した。 1 なぜ宣言するに至ったか? このような「2050年ゼロ宣言」は、近年になって、西欧諸国
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。毎週月曜日更新ですが、編集の事情で今回水曜日としたことをお詫びします。
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回のテーマは食料生産。以前、要約において1つだけ観測の統計があったことを書いた。 だが、本文をいくら読み進めても、ナマの観測の統計がとにかく示
-
2/27から3/1にかけて東京ビッグサイトにおいて太陽光発電の展示会であるPV expoが開催された。 ここ2年のPVexpoはFIT価格の下落や、太陽光発電市場の縮小を受けてやや停滞気味だったが、今年は一転「ポストFI
-
3・11の福島原子力事故は、日本のみならず世界の原子力市場に多大なる影響を及ぼした。日本では、原子力安全のみならず原子力行政そのものへの信頼が失墜した。原子力に従事してきた専門家として、また政府の一員として、深く反省するとともに、被災者・避難を余儀なくされている方たちに深くお詫び申し上げたい。
-
実は、この事前承認条項は、旧日米原子力協定(1988年まで存続)にもあったものだ。そして、この条項のため、36年前の1977年夏、日米では「原子力戦争」と言われるほどの激しい外交交渉が行われたのである。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間