東京電力発注のスマートメーター通信機能基本仕様に対する意見書
(GEPR編集部より)GEPRは民間有識者などからなるスマートメーター研究会(村上憲郎代表)とともに、スマートグリッドの研究を進めている。東京電力がスマートメーターを今年度300万台、今後5年で1700万台発注のための意見を募集した。(同社ホームページ)同研究会の意見書を公開する。また一般読者の方も、これに意見がある場合に、ご一報いただきたい。連絡先は info@gepr.org この意見書についての解説記事
「スマートメーター通信機能基本仕様に対する意見」
2012年4月20日
スマートメーター研究会
代表 村上 憲郎
事務局長 石井 孝明
要旨
東京電力が調達を検討しているスマートメーターの仕様には、以下の4点で問題があると当研究会は考える。
1.この仕様は現在の垂直統合・地域独占の電力構造を固定するものであり、国の定めた電力改革の方向に逆行する。
2.スマートメーターは電力網と情報通信網が融合する時代の中核となることが期待されるが、今回の仕様にはその配慮がなく、特にインターネットとの相互運用性に欠ける。
3.通信規格が東電の独自仕様で他社と互換性がなく、国際標準にも配慮していない。これはメーターの「ガラパゴス化」をもたらし、日本の電機・通信産業の競争力を失わせる。
4.スマートメーターは国の方針として電力需要抑制(Demand Response)のツールとして使われる予定だが、現行の仕様にはDRへの配慮がない。
1.電力自由化に逆行する
電力事業については、電力会社以外の発電事業者の新規参入を可能にする方針が決まっているが、家庭用(契約電力50kW以下)の料金はまだ規制されている。昨年12月には枝野幸男経済産業大臣が全面自由化、発送電分離の検討、地域独占の見直しを表明した。スマートメーターは、こうした改革と整合的なものでなければならない。
ところが今回の東電仕様は、従来の手動検針を自動化して30分ごとにデータを送るだけの低機能で、そのデータも東電だけが利用できるものである。送信データが30分ごとでは、他の発電事業者は「30分間平均の需要電力の3%誤差範囲の供給」という供給基準を満たすことができない。
しかも6月をめどに仕様を決定するという早急な導入スケジュールが設定され、すでに4社に発注してプロトタイプまでできている。これは従来、東電が随意契約で発注してきた「ファミリー企業」による実質的な独占を維持するものであり、国際入札を形骸化し、新規参入を阻害するものといわざるをえない。
一般家庭に今回の仕様のスマートメーターが取り付けられた場合には、政府の検討している発送電分離は不可能になり、東電以外の発電事業者は新たにメーターを設置しないと家庭用電力に参入できない。このメーターの価格は、総括原価主義のもと、電力料金に内包して強制的に徴収できる一方、需要家が、新規の発電事業者を選んだ場合や、単品、あるいは、HEMS等との複合機という形で、電器店や、HEMS業者から、あるいは、スマートハウスの一部として購入した場合、東電メーターを東電に返却した場合、相応の代金の払い戻しが受けられるのかどうかも、全く不明である。
今回の独自技術による低機能の設計は、東電の垂直統合・地域独占を守り、家庭用電力の自由化を妨害するための参入障壁として設計された疑いがある。
2.電力網と情報通信網の融合に配慮していない
スマートグリッドの本質は、電力網と情報通信網が融合することによって、「賢い」効率的な電力制御が行われることにある。消費電力の「見える化」や、それと連動した電機製品の制御によって、エネルギー管理を中心とした新産業の創出が期待できる。その中核になるのがスマートメーターである。
こうした期待を背景に、官民でつくる日本スマートコミュニティアライアンス(JSCA)は今年2月、のスマートハウス標準化検討会の下に、HEMS(Home Energy Management System)タスクフォースおよびスマートメーター・タスクフォースをつくり、スマートメーターとHEMS間のインターフェースを検討している。欧米のインフラや大規模サービスではまず「モノのインターネット(Internet of Things)」という通信インフラと関連づけた社会全体の将来像をまず想定し、その上で設計が行われている。
しかし今回の仕様では、スマートメーターとHEMSとのインターフェース(いわゆるBルート)は「IP準拠」としている一方、東電との間の通信プロトコル(いわゆるAルート)は「マルチホップ」(TCP/IPプロトコル非実装)など東電独自の仕様で、通信業者には開放されておらず、既存の通信網との相互運用性もない。東電は、このために独自の無線通信網と光ファイバー網まで建設する予定と伝えられる。
財務的に危機的な状況にあり、多額の公的資金が投入されて実質的に国有化される予定の東電が、通信ネットワークの発達した首都圏で新たに自前の通信網を建設することは無謀な投資であり、税金の浪費である。通信網の仕様については通信事業者や電機メーカーと協議して国際標準に準拠し、3Gや4Gなどの既存の通信網との共用化をはかり、インターネットにつながるオープンな仕様にすべきである。
3.独自規格による「ガラパゴス化」の懸念がある
重要なのは、多くの企業が参加できるオープンな規格にすることである。米国ではAMI(Advanced Metering Infrastructure)と呼ばれるスマートグリッドのインフラが開発され、物理層からアプリケーション層まで標準化してエネルギー機器の相互運用性を保証するSEP (Smart Energy Profile) 2.0が公表されている。今後こうした国際標準に準拠した製品群によって電力網が通信網と統合されるものと予想される。
これに対して東電のスマートメーターも、HEMS規格であるECHONET Liteも、国際的に通用しない「ガラパゴス規格」であり、日本の電機メーカーが携帯電話のようにグローバル競争に取り残されるおそれが強い。電力会社の独自規格や「日の丸標準」へのこだわりを捨て、国際的なオープン・スタンダードに準拠する必要がある。
4.需要抑制への配慮が乏しい
スマートメーターの一つの目的は、電力供給の危機的な状況に対応するための需要抑制(DR)にある。特に真夏のピーク時の消費電力を削減して計画停電などの事態を避けるため、政府は2011年度第三次補正予算で300億円に上るBEMS・HEMS普及予算を計上した。スマートメーターはDRの重要なツールであり、こうした政策と連携しなければならない。
しかし今回の基本仕様にはDRへの配慮が乏しい。スマートメーターが実現する機能として、30分検針値の収集と計量器の遠隔設定・制御程度しか盛り込まれておらず、リアルタイムの情報送信や家電機器の自動制御といった機能が対象外となっている。
東電は30分ごとの時間帯別料金で電力需要を制御することを「DRの実現」ととらえているようだが、その効果は疑わしい。米国ではDRのためのリアルタイム価格(RTP)と、ニア・リアルタイムでの電力使用量計測、かつリアルタイムでの価格情報提供ができる通信インフラの構築、BEMS・HEMSの利用が目指されている。
DRを有効に働かせピーク需要削減を図るためには、現在東電が考えているスマートメーター通信ネットワークの前提条件(30分検針値収集、HEMSインターフェースも使用電力量の30分積算値)では不十分である。少なくとも5分間隔での電気使用の計測と、その計測値を測定のつど送信できる通信ネットワークとの連携を考えなければならない。
こうした仕様については「家庭用の需要の価格弾力性は低い」とか「過剰性能で高コストになる」といった反論も予想される。しかしスマートメーターは今後10年以上は使われるものであり、今回のような低機能でクローズドな規格で配備されると、今後の変更ができない。
上記のような機能を今すぐすべて実装する必要はないが、今後あらたな技術が開発されたとき拡張できる、インターネット時代にふさわしいオープンで柔軟な設計にする必要がある。今回のような低機能のメーターを急いで設置する必要はない。現在の仕様は撤回し、抜本的に再検討すべきである。
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