「30年代に原発ゼロ」を決めた「革新的エネルギー・環境戦略」の要旨

2012年09月18日 12:00

政府は内閣府に置かれたエネルギー・環境会議で9月14日、「2030年代に原発の稼動をゼロ」を目指す新政策「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめた。要旨は以下の通り。

野田佳彦首相は「困難でも課題を先送りすることはできない」と述べる一方、「あまりに確定的なことを決めてしまうのは無責任」とも語り、見直しをする可能性も示唆しているが、問題だらけの文章だ。相互の政策が矛盾し、実現可能性を検証していない。

(参照・「支離滅裂な「革新的エネルギー・環境戦略」」アゴラ研究所 池田信夫所長)

政府の革新的エネルギー・環境政策は以下3つの柱を置く。

  1. 「原発に依存しない社会」の一日も早い実現。2030年代に原発ゼロを目指す。
  2. 「グリーンエネルギー革命」の実現として再生可能エネルギーの普及。
  3. エネルギーの安定供給。そのための火力の効率化、省エネ、次世代エネルギーの確保。

原子力発電については以下の原則で運営するという。

  1. 40年運転制限制を厳格に適用する。
  2. 原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする
  3. 原発の新設・増設は行わない。

また他のエネルギーの確保の手段として、次の指針も定めた。

  1. 30年までに1割以上の節電、再生可能エネルギーを3倍にする。こうした工程表を年末までにまとめる。
  2. 電力システム改革の方法について年末をめどにつくる。
  3. 30年時点の温室効果ガスの排出量は90年比で2割減を目指す。
  4. 使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクル政策は維持。

その他

  1. 内閣府の原子力委員会を、廃止を含めて見直し。
  2. 原発廃炉などに必要なため、技術の維持と人材の確保を行う。
  3. 高速増殖炉の「もんじゅ」は維持。ただし研究計画と成果を検証。
  4. 青森県に再処理関連施設が集まっているが、そこを使用済み核燃料と核廃棄物の最終処理地にしない。

GEPRの参考情報

アゴラ研究所 池田信夫所長
エネルギーの本当のコスト

GEPR編集部
現実的な「原子力ゼロ」シナリオの検討−石炭・LNGシフトの困難な道のり

GEPR編集部
間違った情報で日本のエネルギーの未来を決めるのか?=「エネルギー・環境会議」選択肢への疑問 ― 誤った推定、経済的悪影響への懸念など試算は問題だらけ

(2012年9月18日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 前回予告したように、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会での議論の問題点を考えてみよう。もともと低すぎるではないかとの批判が強かった原子力発電のコストを再検証しつつ、再生可能エネルギーの導入を促進するために、再生可能エネルギーのコストを低めに見積もるという政策的結論ありきで始まったのだろうと、誰しもが思う結果になっている。
  • 筆者は、三陸大津波は、いつかは分からないが必ず来ると思い、ときどき現地に赴いて調べていた。また原子力発電は安全だというが、皆の注意が集まらないところが根本原因となって大事故が起こる可能性が強いと考え、いろいろな原発を見学し議論してきた。正にその通りのことが起こってしまったのが今回の東日本大震災である。
  • 地球が将来100億人以上の人の住まいとなるならば、私たちが環境を扱う方法は著しく変わらなければならない。少なくとも有権者の一部でも基礎的な科学を知るように教育が適切に改善されない限り、「社会で何が行われるべきか」とか、「どのようにそれをすべきか」などが分からない。これは単に興味が持たれる科学を、メディアを通して広めるということではなく、私たちが自らの財政や家計を審査する際と同様に、正しい数値と自信を持って基礎教育を築く必要がある。
  • 福島では原子力事故の後で、放射線量を年間被曝線量1ミリシーベルトにする目標を定めました。しかし、この結果、除染は遅々として進まず、復興が遅れています。現状を整理し、その見直しを訴える寄稿を、アゴラ研究所フェローのジャーナリスト、石井孝明氏が行いました。
  • 丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 5月22日に放映されたNHK・ETVの「サイエンスZERO」では、脱炭素社会の切り札として水素を取り上げていたが、筆者の目からは、サイエンス的思考がほとんど感じられない内容だっ
  • 全原発を止めて電力料金の高騰を招いた田中私案 電力料金は高騰し続けている。その一方でかつて9電力と言われた大手電力会社は軒並み大赤字である。 わが国のエネルギー安定供給の要は原子力発電所であることは、大規模停電と常に隣り
  • EUタクソノミーとは 欧州はグリーンディールの掛け声のもと、脱炭素経済つまりゼロカーボンエコノミーに今や邁進している。とりわけ投資の世界ではファイナンスの対象がグリーンでなければならないという倫理観が幅を効かせている。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑