非在来型ウランの埋蔵量について

2013年02月12日 17:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

きのうのG1サミットの内容が関係者にいろいろな反響を呼んでいるので、少し補足説明をしておく。

放送でもいったことだが、核燃料サイクルの問題は技術ではない。高速増殖炉の技術に大きな問題があるわけではない。もんじゅの事故は単なる配管の破断であり、原子炉そのものに欠陥があるわけではない。致命的な問題は、採算性である。

河野太郎氏も指摘したように、もんじゅや六ヶ所村のプラントには想定をはるかに超えるコストがかかって実用化が40年後に遅れているばかりでなく、そもそも再処理の目的である高速増殖炉(FBR)が経済的に意味をなさないのだ。

FBRはプルトニウムを燃料にしてそれより多くのプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」といわれているが、1970年代に核燃料サイクルの計画が始まったときは、ウランの埋蔵量が数十年しかなく、世界で原子力開発が進んだら枯渇してしまうという危機感があった。このため、国内でエネルギーを生産できる「準国産エネルギー」としてFBRが期待されたのだ。

しかし最近の「非在来型エネルギー」の開発によって、この根本前提がゆらいできた。OECDの報告書はこう書いている:

1980年代以来、ウラン探鉱は限定的にしか行われてこなかったが、2002年以降はウラン価格の上昇を受け、探鉱活動は以前の3倍以上に増加した。近年の探鉱活動が活発でなかったにも関わらず、現在の消費量に対する既知のウラン資源の割合(=可採年数)は、他の鉱物エネルギー資源とほぼ同等で、約100年である。さらに現在の地質学的情報に基づいて発見が見込まれる資源を加えると、可採年数は300年分近くになる。また、「非在来型」資源、具体的にはリン鉱石中に含まれるウランも加えると、この数字は約700年にまで延びる。

通常のウラン(価格130ドル/kg以下)の埋蔵量は、世界全体で630万トン程度と推定され、これは世界のウラン消費量(約6.3万トン)の100年分ぐらいだが、それ以上のコストで採掘可能な非在来型ウランの埋蔵量は、IAEAによれば3500万トンある。これは世界の消費量の550年分である。OECDは2200万トンという数字を「きわめて保守的な推定」として紹介しているが、これでも350年分である。

さらに海水中にはほぼ無尽蔵のウランが含まれているが、その精製コストも下がり、日本の原子力委員会の報告によれば25000円/kgまで下げられる。これは通常のウランの価格基準(130ドル)の2倍程度で、今後の技術進歩で在来型のウランと競争できる可能性もあり、そのコストは核燃料サイクルよりはるかに低い。

そういうわけで、たとえFBRが完璧で安全な技術だとしても必要ないのだ。使用ずみ核燃料を直接処分したほうが安いからである。そしてFBRが必要なくなると、核燃料サイクルは宙に浮いてしまう。プルサーマルは核燃料サイクルを延命するための技術で、再処理から撤退すれば必要ない。こういう事実認識は、河野太郎氏から電力会社に至るまでほぼ同じだ。必要なのは政治的な決断だけである。

(2013年2月12日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 東京都知事選投票日の翌朝、テレビ取材のインタビューに小泉純一郎氏が晴れ晴れとして応えていた。この歳になってもやれると実感したと笑みをこぼしていた。なんだ、やっぱり寂しい老人の御遊びだったのか。インタビューの随所からそんな気配が読み取れた。
  • 日本では原発の再稼動が遅れているために、夏の電力不足の懸念が広がっています。菅直人前首相が、政治主導でストレステストと呼ばれるコンピュータシュミレーションを稼動の条件としました。それに加えて全国の原発立地県の知事が、地方自治体の主張が難色を示していることが影響しています。
  • 【概要】特重施設という耳慣れない施設がある。原発がテロリストに襲われた時に、中央操作室の機能を秘匿された室から操作して原子炉を冷却したりして事故を防止しようとするものである。この特重施設の建設が遅れているからと、原子力規
  • 日本経済新聞は、このところ毎日のように水素やアンモニアが「夢の燃料」だという記事を掲載している。宇宙にもっとも多く存在し、発熱効率は炭素より高く、燃えてもCO2を出さない。そんな夢のようなエネルギーが、なぜ今まで発見され
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 地球温暖化が起きると、海水が熱膨張し、また氷河や南極・グ
  • 2050年にCO2をゼロにすると宣言する自治体が増えている。これが不真面目かつ罪作りであることを前に述べた。 本稿では仮に、日本全体で2050年にCO2をゼロにすると、気温は何度下がり、豪雨は何ミリ減るか計算しよう。 す
  • 福島第一原発の「廃炉資金」積み立てを東京電力に義務づける、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の改正案が2月7日、閣議決定された。これは原発の圧力容器の中に残っているデブリと呼ばれる溶けた核燃料を2020年代に取り出すことを
  • 過去の気温上昇について、気候モデルは観測に比べて過大評価していることは何回か以前に書いた(例えば拙著をご覧頂きたい)。 今回は、じつは海水温も、気候モデルでは熱くなりすぎていることを紹介する。 海水温は、気候システムに余

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑