エネルギー政策の混迷をもたらしている地球温暖化対策(上) — 対策の一つ原子力の検証
(IEEI版)
地球温暖化防止に全く機能しない京都議定書方式
20世紀末の地球大気中の温度上昇が、文明活動の排出する膨大な量のCO2などの温室効果ガス(以下CO2 と略記する)の大気中濃度の増加に起因すると主張するIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)による科学の仮説、いわゆる「地球温暖化のCO2原因説」に基づいて、世界各国のCO2排出削減量を割当てた京都議定書の約束期間が終わって、いま、温暖化対策の新しい枠組みを決めるポスト京都議定書のための国際間交渉が難航している。
では、各国がその約束量を守れなかった時の罰則まで設けた京都議定書の成果はどうであったのか?エネルギー経済統計データ(以下、エネ研データ、文献 1)から、基準年の1990 年と2010年の世界および各国のCO2 排出量(2010年の値で排出量の多い順に)を比較して図1に示した。世界では2010年の対1990年比で1・43 倍に増加している。これには、CO2 の排出大国の中国での3・15倍、米国の1・35倍などの寄与が大きい。
この2 大国では、中国は途上国として削減義務を課されず、米国は京都議定書から離脱してしまった。一方、6・8% の削減義務を持つ日本でも8・3%の増加になっている。石油危機以降の省エネ努力で、CO2排出削減余地が少ないという事情にある一方、森林のCO2 吸収効果として3・8% の削減率が交渉上認められているので、それを考慮したとしても、このデータでみる限り、国内の措置だけでは約束の目標値を守ることは難しいとみられる。

(エネ研データ(文献1 )、IEAデータを基に作成)
(文献1)日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2012年版」(省エネルギーセンター)
各国ごとにCO2排出量が違いすぎる
京都議定書の削減義務を課されている国のなかには、これまで世界のCO2排出量への寄与の小さかった途上国は含まれていなかった。しかし図1に見られるように、すでに世界一の排出大国になった中国や、人口の大きいインドなどの新興途上国が応分の削減義務を負わなければ、到底、世界のCO2 排出削減は難しいとされて、ポスト京都議定書の協議では、地球上の全ての国が、削減に協力するとの合意は得られている。
先進諸国と途上国との間の経済的な利害関係が絡んでくる具体的な削減割り当て数値(そもそも数値目標が決められるかどうか不明だが)は未だ決められないでいる。それは、この割り当て数値を決める際の国際的な公平性の指標となる各国の一人当たりの CO2排出量の値が図2に示すように、各国間、特に先進国と途上国の間で余りにも大きな違いがあるからである。例えば、各国が1990年の世界平均値を目標とした場合には、中国でも多少の削減義務が生じるが、フランスを除いて、米国をはじめ先進諸国では、とても実現可能とは考えられない大きな削減が必要になる。
いま、ポスト京都議定書での国際間協議の場では、CO2 排出量が、途上国にとっての経済発展のために必要なお金を引き出すための取引の道具にされているように見える。しかし、このような方法で、世界のCO2 排出量を大幅に低下させることはどだい無理な話で、途上国の省エネでのCO2排出量の削減が、せいぜい経済発展に伴うCO2排出量の増加をキャンセルできるぐらいではなかろうか。CO2排出量の大幅削減には、どうしても、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の利用による創エネ(自然エネルギーから化石燃料代替のエネルギーを生産すること)が必要となるが、現状では、これには大変お金がかかる。先進国が、このお金を途上国の創エネ事業に支出するのであれば、先進国が自国でやる方が効率がよいであろう。このように考えると、これからのポスト京都議定書の国際協議の場では、澤(文献2)が主張するように、これまでとは全く違った新しい考えで対応をしなければならないと考えるべきである。
(文献2)「温暖化交渉:COP18を越えて、日本が取るべきスタンスを考える」(澤昭裕、アゴラ)
現状でCO2 排出削減に最も有効なのは原発なのだが
図2に示した各国の一人当たりのCO2 排出量の値に見られるように、先進国のなかで、フランスの値が際立って小さいのが目立つ。これは、図3に示した各国の発電量のなかの原子力の比率の値に見られるように、フランスでの値が76・1%と際立って大きいことに起因している。すなわち、原発電力の生産ではCO2 の排出が無いとされてその排出量が計算されているからである。実際には、原発電力の生産でも化石燃料が消費されるから、原発電力利用での CO2排出削減の有効比率は93% と推定される(原発設備の製造での化石エネルギー消費量を考慮して求めた。文献3)。
それはともかく、現状において、国民の生活と産業の振興に欠かせないエネルギー(ただし、電力)の安定な供給を確保しながら、最も効率よくCO2の排出を削減する方法は原発の利用である。これが地球環境問題でメデイアに洗脳された国民から政権交代のための選挙の票を稼ぐことに成功した民主党が、無謀にも打ち出した鳩山25%のCO2排出削減目標を達成するための2010年のエネルギー基本計画の改訂で、発電量基準での原発の利用比率を当時の値、約25% から50 %まで引き上げようとした理由である。
では、この原発の倍増計画で、どれだけCO2 排出を削減できるのであろうか?エネルギー資源量としての一次エネルギー国内供給のなかの一次エネルギー消費(電力)の比率が1/2で、その電力のなかの原発比率が25%であった(2010年、文献1)から、原発の比率を50% に増加した場合の概算(水力発電の存在を無視した)であるが、 CO2 の排出量は、原発増設前の値の 0・875(= 1 —0・5×0・25)倍、すなわち、CO2排出削減比率は約 12・5%と鳩山25%の半分程度に止まる。しかし、このような計算数値とは無関係に、その翌年に起こった福島原発事故により、このもくろみは露と消えたと言ってよい。
(文献3)「新しいエネルギー政策における安全保障と自給率の限界」(久保田宏、IEEI)
原子力は増やせず、解決策にはならない
ところで、世界の原発の利用拡大で、地球のCO2 の大幅な排出削減が図れるかと言うと、実は、そう簡単ではない。それは、1970年代の比較的早い時期からその利用を開始した先進諸国における原発の発電量が2000年代に入り、その伸びを停止しているからである。理由は、需要の負荷変動に弱いベース電力としての原発電力の電力合計に対する比率が、経済的な利用効率の面から、図3に示したように、ほぼ20% 程度に止まっていると見られるからである。フランスでの特別に大きい値には、EU圏内で電力が融通できる特殊事情がある。
今後、現状で原発比率の小さい新興途上国での原発比率の増加も期待されるが、福島原発事故の影響も予想され、これらの国での原発発電量に多くを期待することは難しくなることも考えられる。世界の現状(2010年)の一次エネルギー消費(原子力)の世界の一次エネルギー消費合計に対する比率は6・1% である。将来の、世界の一次エネルギー供給のなかの電力の比率を約1/2(2010年では39・2 % )、その中の原子力の比率を上記の20%にできたとして、CO2を排出しないとした原発の利用による世界のCO2 排出削減比率は、せいぜい10% 程度に止まるとみてよい。
全三回・残りは10月15日掲載予定
(2013年10月7日掲載)
関連記事
-
以前にも書いたことであるが、科学・技術が大きく進歩した現代社会の中で、特に科学・技術が強く関与する政策に意見を述べることは、簡単でない。その分野の基本的な知識が要るだけでなく、最新の情報を仕入れる「知識のアップデート」も
-
【要旨】 放射線の健康影響に関して、学術的かつ定量的に分析評価を行なっている学術論文をレビューした。人体への影響評価に直結する「疫学アプローチ」で世界的にも最も権威のあるデータ源は、広島・長崎の原爆被爆者調査(LSS)である。その実施主体の放射線影響研究所(RERF:広島市)は全線量域で発がんリスクが線量に比例する「直線しきい値なし(LNT)仮説」に基づくモデルをあてはめ、その解析結果が国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に反映されている。しかしLNT仮説は低い線量域(おおむね100mSv以下)では生物学的に根拠がない(リスクはもっと小さい)とする「生物アプローチ」に基づく研究が近年広くなされている。
-
新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」
-
ドイツの温室効果ガス排出量、前年比10%減 3月15日、ドイツ連邦政府は2023年の同国の温室効果ガス排出量が前年比10%減少して6億7300万トンになったとの暫定推計を発表した※1。ドイツは温室効果ガス排出削減目標とし
-
米国のプロフェッショナル・エンジニアであるRonald Stein氏と、3度目の共同執筆を行ったので、その本文を紹介する。 Net Zero emission ideologies is destructive to f
-
横浜市が市内の小中学校500校のうち65校の屋根にPPAで太陽光発電設備を設置するという報道を見ました。記事からは分かりませんが、この太陽光パネルの製造国はどこなのでしょう。 太陽光発電、初期費用なしPPAが設置促す 補
-
エネルギーで考えなければならない問題は、原子力だけではありません。温暖化、原発の安全管理、エネルギー供給体制など、さまざまな課題があります。
-
23年間の大きな変化 6月17日、第52回G7エヴィアンサミットが閉幕した。 前回、エヴィアンでサミットが開催された2003年はロシアを含めたG8の時代であり、中国はまだ「世界の工場」として台頭途上であった。原油価格は上
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
- COPの理想論に冷水:S&Pグローバルが描く2060年のエネルギー
- 廃棄物もCO2も捨てたら価値はゼロになるのか? 炭素というレンズで読む思想史
- データが示す石油輸入の中東依存度の実態
- 秋田に2兆円AIデータセンター:「風力発電が決め手」は本当か
- 系統用蓄電池の問題点とはなにか?
- 全世界の町工場まで炭素簿記を義務化? E-ledgersという無理ゲー
- AfD排除で進む「ドイツ民主主義の侵食」:ベーメ=ネスラー教授の警告
- モデルは未来を設計できるのか:現代社会にとっての「設計主義」とは?
- 産業空洞化に揺れる欧州:見直しを迫られたEU-ETS
- スコープ3に代わる新たな炭素会計?「E-ledgers/E-liability」とは














