何がエネルギー貧困を作り出すのか — 政策の選択肢

2014年04月21日 11:00
アバター画像
常葉大学経営学部教授

国際環境経済研究所(IEEI)版

雑誌「プレジデント」の4月14日号に、「地球温暖化か、貧困か」とのサブタイトルで「 雑誌「プレジデント」の4月14日号に、「地球温暖化か、貧困か」とのサブタイトルで「注目のキーワード‐エネルギー貧困率」についての私のコメントが掲載された。記事の一部が分かり難いので、少し詳しく説明したい。

欧州では、ガス、電気のエネルギー関係料金の支払いに問題がある人が増えている。現在は人口の8・5%、4000万人を超えていると報道されている。むろん、この背景には、欧州の景気低迷・失業者の増加の問題があるが、エネルギー価格の上昇が問題をさらに大きくしている。

リーマンショック前からの欧州27カ国の家庭用ガス料金と電気料金の推移を図‐1に示している。ガス料金、電気料金共に上昇しているが、値上がり率は電気料金のほうが大きい。」についての私のコメントが掲載された。記事の一部が分かり難いので、少し詳しく説明したい。

ガス料金の値上がりの理由の一つは、EU内におけるガス生産数量の減少により、相対的に輸入量が増えていることだろう。輸入される天然ガスの価格は、世界的に原油価格に連動して動く「原油リンク」で決められていることが多い。この価格決定方式の見直しに欧州もアジア諸国の需要家も動いているが、まだ多くの契約は「原油リンク」だ。リーマンショックで下落した原油価格は、その後再度上昇し、2011年から時として1バレル100ドルを超えることもある。この原油の値上がりは天然ガス価格にも反映される。

電気料金が大きく上昇している理由はいくつかあるが、再生可能エネルギーによる発電が、多くの欧州諸国で増えていることも値上がりに影響を与えている。欧州主要国における再エネの発電比率は図‐2の通りに推移している。ドイツでは、再エネの発電による電気の買取りに関わる需要家の負担額、即ち買い取り価格と売電価格の差は、今年191億ユーロ(約2兆7000億円)と見積もられている。電気料金1kWh当たりでは6・24ユーロセント、円では約9円にもなり、標準家庭の負担額は年間3万円を超える。

化石燃料を使用せずに、二酸化炭素を排出しない再エネの導入が必要なことは言うまでもない。しかし、再エネの導入により必需品のエネルギー価格が上昇し、エネルギー貧困層が増えるのは確実だ。結果、気候変動問題の対策をとりながら、違う社会問題を発生させることになる。地球規模の問題に取り組み、自国では貧困の問題を悪化させるというのは、正しい選択だろうか。

どちらが、将来社会にとり大きなリスクなのか、問題解決への寄与度とその影響の度合いはどうなのか。再エネを最大限導入という政策を打ち出す前に、リスク分析と社会への影響が検討されるべきだった。

(2014年4月21日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 日本の鉄鋼業は、世界最高の生産におけるエネルギー効率を達成している。それを各国に提供することで、世界の鉄鋼業のエネルギー使用の減少、そして温室効果ガスの排出抑制につなげようとしている。その紹介。
  • 太陽光発電と風力発電をはじめとする自然変動電源に関しては、発電のタイミングを人為的にコントロールすることができないため、電力の需要と供給のタイミングが必ずしも一致しない。そのためしばしば送配電網の需給調整力の枠を超えた発
  • 国際エネルギー機関(IEA)の最新レポート「World Energy Outlook2016」は将来のエネルギー問題について多くのことを示唆している。紙背に徹してレポートを読むと、次のような結論が得られるであろう。 1・
  • G7伊勢志摩サミットに合わせて、日本の石炭推進の状況を世に知らしめるべく、「コールジャパン」キャンペーンを私たちは始動することにした。日出る国日本を「コール」な国から真に「クール」な国へと変えることが、コールジャパンの目的だ。
  • 下記のグラフは、BDEW(ドイツ連邦エネルギー・水道連合会)(参考1)のまとめる家庭用電気料金(年間の電気使用量が3500kWhの1世帯(3人家族)の平均的な電気料金と、産業用電気料金(産業用の平均電気料金)の推移である。
  • 世界の先進国で、一番再生可能エネルギーを支援している国はどこであろうか。実は日本だ。多くの先行国がすでに取りやめた再エネの全量買い取り制度(Feed in Tariff:FIT)を採用。再エネ発電者に支払われる賦課金(住宅37円、非住宅32円)は現時点で世界最高水準だ。
  • アゴラ研究所の運営するインターネット放送「言論アリーナ」。10月1日は「COP21に向けて-日本の貢献の道を探る」を放送した。出演は有馬純氏(東京大学公共政策大学院教授)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、司会はジャーナリストの石井孝明だった。
  • 1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所原子炉の事故は、原子力発電産業においてこれまで起きた中でもっとも深刻な事故であった。原子炉は事故により破壊され、大気中に相当量の放射性物質が放出された。事故によって数週間のうちに、30名の作業員が死亡し、100人以上が放射線傷害による被害を受けた。事故を受けて当時のソ連政府は、1986年に原子炉近辺地域に住むおよそ11万5000人を、1986年以降にはベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの国民およそ22万人を避難させ、その後に移住させた。この事故は、人々の生活に深刻な社会的心理的混乱を与え、当該地域全体に非常に大きな経済的損失を与えた事故であった。上にあげた3カ国の広い範囲が放射性物質により汚染され、チェルノブイリから放出された放射性核種は北半球全ての国で観測された。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑