テレビ東京渾身の訴え「国民負担2.7兆円の衝撃」は必見
昨年11月17日、テレビ東京の「ワールド・ビジネス・サテライト」がこれまでテレビでは取り上げられることのなかった切り口で、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度を取り上げた。同局のホームページには当日放送された内容が動画で掲載されている(下記URL参照)。
(2015年1月8日現在は閲覧可能であるが、問い合わせたところ、放送からある程度日が経つと削除されてしまうようなので下記に概要をご紹介する。番組ホームページ)
番組は、電気代上昇に対する負担感を訴える消費者の声から始まる。夫婦と子供二人という一般的な家庭で、2010年6月の電気料金は約5000円だった。しかし今年(2014年)の6月には1万1256円と倍以上にはねあがっている。主要因は原発停止による電気料金の上昇であるが、検針票に記載されている「料金内訳」の中に「再エネ発電賦課金」という新たな項目が加わっていることへの驚きと、それがさらに電気代上昇につながることへの懸念が述べられる。
「福島原子力発電所事故以降原子力だけには頼れないので、多少の負担は仕方ないと思っていたが、これ以上上がると生活への負担が・・」というのは、多くの消費者に共通する素直な思いであろう。
一方で再エネ事業への投資商品販売が好調だ。平均分配率は8.5%、100万円投資すると20年後には170万円にもなる。この低金利時代にあって相当魅力的な商品だ。番組は、その原資は再エネ発電賦課金であり、国民負担が重すぎるのではないかという疑問を太陽光発電事業者にぶつけている(動画4:00)。
事業者からの回答は、「国民の負担が重いという意見を出すのはほとんど、固定価格買い取り制度に参加できない人。逆に言えば再生可能エネルギーの投資に参加すれば取り戻せる」というものだった。しかし、続いて登場する弊研究所の澤所長が指摘する通り(4:30)、太陽光発電事業などの投資に参加できるのはそもそも高額所得者であり、不公平さを助長する制度にもなっている。
そして番組は、この制度ができた経緯をたどる。再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度導入を訴える集会で、「私の顔を本当に見たくないのであればこの法案だけは通したほうが良い、という作戦で行こうと思います」と挨拶する菅元総理(5:35)、「粘り倒して!この法案だけは絶対に通して欲しい!」と絶叫するソフトバンクの孫社長。それに拍手喝采する世論。この異様な雰囲気の中で、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(再エネ特措法)は可決され、その第七条には「経済産業大臣は、集中的に再生可能エネルギー電気の利用の拡大を図るため、この法律の施行の日から起算して三年間を限り、調達価格を定めるに当たり、特定供給者が受けるべき利潤に特に配慮するものとする。」(下線筆者)などという文言が盛り込まれた。
さらに番組は、日本の全量固定価格買取制度がここまで早く行き詰まる原因となった買取価格の高さの原因をたどる。2012年3月19日、経済産業省の「調達価格等算定委員会」にはソフトバンクの孫社長が出席し、「(筆者補:メガソーラーの買取価格が1kWhあたり)40円を下回るとかなり苦しい、我々としては少なくとも難しい」と訴えている(6:40)。(同委員会の議事録)
しかし全国に14基あるソフトバンクのメガソーラーは最も買取価格が高かった初年度に事業認定を受けているため、発電する電気の全てを40円/kWhで20年間買い取ってもらえ、20年間の売電収入は少なく見積もっても1000億円以上であると番組は指摘する(7:10)。
最後に、ソフトバンクの100%子会社であるSBエナジーの藤井副社長にインタビューを行っている。再エネ発電賦課金が適正水準かどうかを確認しようにも、同社は売上や利益を公表しておらず、コスト構造が不明だからだ。しかしこのインタビューでも、案件によって利益率は異なること、太陽光発電事業は初期投資以外にそれほどコストがかからないのではないかという指摘は「誤解だ」という主張しかなされていない。
再エネ事業者は、発電した電気を一般電気事業者に販売しているだけであり、政府から補助金を受けているわけではないのでコスト構造を明らかにする必要がないというのであれば、それは詭弁だ。高い買取価格を賄うために国民は広く再エネ発電賦課金を負担しているのであり、消費者にとっては税金にも等しいものだ。再エネ事業への支援を適正なものにするために必要な情報を、各事業者は積極的に開示すべきであろう。
上記のウェブサイトで見られる動画はここまでだが、当日の番組ではその後スタジオでの議論があった。その際紹介されていたアンケートが興味深かったので紹介させていただく。再エネの全量固定価格買取制度による国民負担に対して、「負担は仕方ない:23%」、「負担が重いのでやめてほしい:39%」、「電気代が安くなるなら原発再稼働して欲しい:21%」、「わからない:17%」となっている。再エネ発電賦課金は今はまだ標準家庭で月225 円程度であるが、今までに事業認定された設備が全て稼働すればその負担が935円になるとされている。家庭の負担感もさることながら、問題は減免措置を受けられない中小企業である。(実際の電気料金データを提供してくださった関東の印刷会社の方についての記事「再生可能エネルギーの普及策 抜本的見直しを(前・後編)」を参照頂きたい)
今の時点で「負担が重いのでやめてほしい」が4割に達していることは重く受け止められるべきであろう。
(2015年1月13日掲載)

関連記事
-
国際エネルギー機関(IEA)は毎年11月にリポート「ワールドエネルギーアウトルック」(概観)を公表している。その2012年版の「報道向け要約」を紹介し、日本への影響を考える。同リポートは、世界のエネルギーの主なポイントを示し、その議論をリードする。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
世界の先進国で、一番再生可能エネルギーを支援している国はどこであろうか。実は日本だ。多くの先行国がすでに取りやめた再エネの全量買い取り制度(Feed in Tariff:FIT)を採用。再エネ発電者に支払われる賦課金(住宅37円、非住宅32円)は現時点で世界最高水準だ。
-
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCAR)は現在、福島で起こった原発事故の評価、また放射線の人体への影響をめぐる議論を重ねている。海外の報道WNN(World Nuclear News)の記事「UN approves radiation advice」を参考に、それをまとめる。これは米国の原子力情報を提供するニュースサイト。
-
(GEPR編集部より)12月8日に開催されたアゴラシンポジウムで行われた、原子力委員会の鈴木達治郎氏の基調講演で使われた、プレゼンテーション資料を公開します。鈴木様に感謝を申し上げます。内容をたどれば、基調講演の内容が、ほぼ分かります。
-
原子力発電の再稼働が遅れている。原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査が進まないためだ。 再稼働の第一号は九州電力川内原発になる見込みだ。これは今後の再稼働のモデルケースになるであろう。そこで規制当局とその関係者の間で、どのような手続きが行われたのかを、公開資料で検証してみた。
-
12月1日付GEPRに山家公雄氏の解説記事(「再エネ、健全な成長のために」)が掲載されており、「固定価格買取制度(FIT)とグリッド&マーケット・オペレートが再エネ健全推進の車の両輪である」との理論が展開されている。しかしドイツなど先行国の実例を見ても再エネの健全な推進は決して実現していない。
-
経済産業省は1月14日、資源・エネルギー関係予算案を公表した。2015年度(平成27年度)当初予算案は15年度7965億円と前年度当初予算比で8.8%の大幅減となる。しかし14年度補正予算案は3284億円と、13年度の965億円から大幅増とし、総額では増加となる。安倍政権のアベノミクスによる積極的な財政運営を背景に、総額での予算拡大は認められる方向だ。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間