原子力・エネルギーと報道を考える【シンポジウム報告4の2】

2015年12月14日 19:00

映像「原子力報道 メディアの責任を問う【アゴラ・シンポジウム】」「4−1」より続く。

(写真1) 12月8日に行われたシンポジウム

リベラル、思想の影響する原発問題

田原・政権はメディアに圧力を露骨にかけるということはほとんどない。もし報道をゆがめるとしたら、大半の問題は自己規制であると思う。そしてメディアは今、経営が厳しくなっているからネットに対抗しようとして、目立とうと主張が極端になっていく。先ほど述べたように、「何でも反対」に加え、そうした傾向が強まっている。それは気をつけた方がいい。

池田・原子力と報道をめぐる問題は、慰安婦の報道問題と似ている面があります。慰安婦問題の場合は、最初、慰安婦が強制連行されたと思ってみんな押しかけた。ところがそんな事実はなかったわけです。ネタが怪しいなといって、みんな引いたのですが、最初に報道した朝日新聞だけはずっと主張を続け、引っ込みがつかなくなった。原発事故でも、何かが起こると思って過激な報道が続きました。しかし、これだけ情報が明らかになっているのに、健康被害は見つからない。それなのに、今でもメディアは、福島は危険とする情報を発信し続け、原発をやめろと主張する。福島原発事故直後は誰も知らないから混乱は仕方がなかったでしょう。しかし、今続ける理由が分からない。

田原・日本で力が強かった「左派」や「リベラル」という政治グループが、原発に懐疑的であったのが、混乱の長引いた問題であると思う。思想で動かされている面がある。モーリーさんの指摘通り、安全保障と、エネルギーは結びついて政治の場で語られる。日本はそうではない。安全保障について語ると「保守反動」とレッテルを貼られることもあった。

池田・これは世界基準ではかなりおかしいですよね。

ロバートソン・かなり違います。日本のリベラルの人は、傍観をしているように思うのです。この日本の今の平和は奇跡的に保たれているのですがそれに気づいていない。自分たちの問題として、平和の維持、エネルギーの供給を考えていないのです。テロとの戦いで、米英のリベラルの立場の人は、テロ組織ISへの空爆に賛成しています。現実的であるのです。

他の言語を学び、メディアで接すれば、そして最低でも英語の情報を読めば、エネルギーで国際政治が動き、ドイツやフランス、英国など他国がエネルギーの安定供給に苦労していることを知るはずです。他国の視点で見れば、日本の膠着した議論から、脱するきっかけになるはずです。そして未来のリスクにも備えられるでしょう。

池田・これまでメディアの中心だった、新聞とテレビは若い世代が注目しなくなっていますね。

松本・東大の学生たちに聞くと、全員がネット情報と答えます。しかし、新聞を自分で取り、読んでいるという学生はほとんどいません。新聞は図書館でたまに読み比べるという学生が大半です。テレビは見ますが、親ほど見ないそうです。こうした力が弱っているということは、メディアを考える際に認識した方がよいでしょう。

池田・会場の皆さんからの質問を最後に聞いてみましょう。

(司会)事前にいただいた質問を読み上げます。「報道は、どの程度、政治や行政の現場影響しているのでしょうか」。

松本・政府、企業関係者は、報道にかなり配慮しています。社会との接点はメディアだからです。先ほど、メディアの報道の問題、低下を指摘しましたが、今でもその影響は大きなものと言えます。

ロバートソン・日本の企業も、政府も、メディアを気にしすぎているように思います。クレーマーや取材に対応しすぎでしょう。安倍首相も「独裁者だ」と日本国内で言われますが、そんなことはありません。他国のリーダーと比べると、物事を引っ張る強さが見られません。企業も政治家も、メディアや世論の力を、自分の想像の中で、大きくしすぎている面があります。おかしな報道には反論とか、クレームは打ち切るとか、そうしないとコストがかなり大きなものになっています。

池田・報道する方が、自分が影響力を持っていると感じていないことが多いのです。そして権力者を監視しないといけないと思い込んでいる。そこにゆがみが生じてしまうと思います。

(司会)「原子力発電の未来についてどのように考えますか」という質問がありました。

田原・原発については現時点で破棄ということはあり得ない。しかし、長いスパンで見ると、使用済み核燃料など、原子力の後始末の問題があり、将来性はあまりないと思う。またいろいろな問題が放置されている。そうしたものを、政治が片付けないと先に進めない。先ほど、浜岡原子力発電所の補強工事を見たと述べた。私も現時点では中部地方の経済のために浜岡原発は再稼動すべきであると思う。ただし、原子力は、解決しなければならない課題がたくさんあるので、それに向き合わなければならないだろう。

(司会)「中部電力浜岡原子力発電所はいつ、稼働するのでしょうか」という質問がありました。中部電力に申し込んだところ、その発電所を見学させていただきました。まだ稼働の予定は明確ではないですが、現在は補強工事が行われています。

ロバートソン・浜岡原子力発電所を見ました。22メートルの巨大な防潮堤、地震、災害対応 など、世界の原子力発電所の中で、類例がない厳重な工事に驚きました。もちろん、私は絶対安全であるとは言いませんが、浜岡の対策には「A+」の評点を与えてもいいと思います。

ただし見ていて、過敏に反応しているようにも思えました。アメリカなら、コストと効果を考え、工事よりも、万が一の事故対策、避難方法を考えるでしょう。福島事故を起こした東電に代わって中部電力が社会におわびしているように見えたのです。

これは社会全体の甘えに見えます。リスクが存在するのです。電力会社に責任をすべて負わせるのではなく、市民も行政もそれに向き合って、リスクを減らすことを考えるベきではないでしょうか。

松本・私も同じ感想を抱きました。中部電力の方は「世界で一番安全な原発にする」という熱意を持って、規制への対応に加え、上乗せをして安全性を高めていました。頭が下がります。しかし、そうして徹底した対策をしないと、日本の場合に、周辺住民、世論、メディア誰もが、納得しない面があります。安全対策を進め、理解を深める取り組みを進めることで、安全な原発を活用していただきたいと思います。

池田・浜岡原子力発電所は、法的根拠がないまま、2011年に当時の首相の菅直人氏の要請で決まりました。そこから原子力・エネルギー政策のボタンの掛け違いが始まりました。その後もさまざまな法律が明確になっていない。原子力規制委員会の行政活動によって、原発が停まり、原子力発電所の運用が混乱しています。もう事故から4年が経過しています。当時の混乱の中で出された政策を検証していくことが必要です。

(写真2)中部電力浜岡原発を見学する参加者たち。防潮堤は高さ22メートル。同地の津波はこれまで被害はほとんどなく、最悪の場合に備えたという。

(司会)最後に、メディアとの向き合い方についてコメントをください。

松本・メディアを信じないのも、また信じすぎるのも、今の世の中では適切ではないでしょう。繰り返されてきたようにメディア・リテラシー、つまりメディアの発する情報を分析する力を高めることしかないでしょう。その際には、田原さんが指摘したように「リアリティ」の有無が重要な判断のきっかけになるでしょう。共にそうした力を養っていければと思います。

ロバートソン・今、メディアの再編が世界中で起こって、弱体化しています。日本も新聞、テレビの影響は低下しています。必然的に、人目をひこうと、情報を扇動しがちです。は過激になりがちです。自覚しないと、そうした弱ったメディアの負のスパイラルに巻きこまれる危険があります。また物事を複数の視点から見ることは、ジャーナリズムの基礎です。そういう基礎体力を付けて、情報を正しいかを、複数の視点から見る習慣をつけるべきであると思います。

田原・これまで繰り返したように、メディアは偏向してしまうもの。リアリティを持った情報を、選び出してほしいです。

池田・きょう言われたことですが、私たちがリテラシーを持ち、エネルギー問題でも、それ以外でも、情報を検証することが今まで以上に必要になっていると思います。本日はありがとうございました。

(2015年12月14日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 要旨「数値目標を1%上積みするごとに、年間1兆円の費用がかかる。これは1トンCO2あたり10万円かかることを意味する。数値目標の本当のコストは途方もなく大きいので、安易な深掘りは禁物である。」
  • 日米の原子力には運転データ活用の面で大きな違いがある。今から38年前の1979年のスリーマイル島2号機事故後に原子力発電運転協会(INPO)が設立され、原子力発電所の運転データが共有されることになった。この結果、データを
  • 今年5月9-13日、4年に一度開催される放射線防護学の国際会議IRPA(国際放射線防護学会:International Radiation Protection Association)が南アフリカ共和国で開催された。IRPA14ケープタウン会議である。私は福島軽水炉事象の20km圏内の低線量の現実を報告するために、片道30時間をかけて現地へ向かった。福島は国際核事象尺度INESでレベル6であると評価引き下げを提案した私の報告は議長をはじめ参加した専門家たちの賛同を得た。
  • エネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)を運営するアゴラ研究所は、旬な政策テーマを選び、識者・専門家と議論する映像コンテンツ「言論アリーナ」を提供している。9月9日夜は1時間に渡って「どうなる福島原発汚染水問題・東電常務に田原総一朗が迫る」を放送した。
  • アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。今回のテーマは「次世代原子炉に未来はあるか」です。 3・11から10年。政府はカーボンニュートラルを打ち出しましたが、その先行きは不透明です。その中でカーボンフリーのエネ
  • 2015年2月3日に、福島県伊達市霊山町のりょうぜん里山がっこうにて、第2回地域シンポジウム「」を開催したのでこの詳細を報告する。その前に第2回地域シンポジウムに対して頂いた率直な意見の例である。『食べる楽しみや、郷土の食文化を失ってしまった地元民の悲しみや憤りは察してあまりある。しかし、その気持ちにつけこんで、わざわざシンポジウムで、子供に汚染食品を食べるように仕向ける意図は何なのか?』
  • 原子力発電所の安全目標は長年店晒しだった 福一事故の前、2003年に旧原子力安全委員会が安全目標案を示している。この時の安全目標は以下の3項目から構成されている。 ①定性的目標:原子力利用活動に伴って放射線の放射や放射性
  • 池田・2022年までに、電力では発送電分離が行われる予定です。何が行われるのでしょうか。 澤・いろいろな説明の仕方がありますが、本質は料金設定の見直しです。規制のかかっていた4割の家庭用向けを自由化して、総括原価と呼ばれる料金算定方法をなくします。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑