原発をめぐる判断の混乱【言論アリーナ報告】
アゴラ運営のインターネット放送「言論アリーナ」。4月29日に原発をめぐる判断の混乱−政治も司法も合理的なリスク評価を」を放送した。
出演は原子力工学者の奈良林直さん(北海道大学大学院教授・日本保全学会会長)、経済学者の池田信夫さん(アゴラ研究所所長)が出演した。司会はジャーナリストの石井孝明だった。
奈良林さんは日本の原子力設計、安全工学の第一人者で、原子力の規制、安全対策について提言を重ねてきた。また池田さんは、原子力・エネルギー政策の問題点をこれまで指摘してきた。放送では地震と原子力規制問題を考えた。
原子力と地震、尽きぬ不安
司会・4月に原子力発電と地震をめぐる問題が続けて起きました。4月26日に志賀原発をめぐって原子力規制委員会の有識者会合が重要施設の下に活断層があるという報告書を公表しました。4月中旬から続く九州地震では鹿児島県にある川内原発を停止するかが問題になりました。3月に大津地裁が、関西電力高浜原発(福井県)の運転差し止めの判決を下し、再稼動した同原発は停止しました。福島第一原発事故のためか、地震について人々の心配は根強いものがあります。
奈良林・まず活断層の説明をしましょう。地震を起こす活断層というのは、地下に震源があり、地震を引き起こす断層で、地下10キロ程度の震源と繋がっています。もちろん原発はそれを避けて建てられています。
(図1)2012年に決まった新規制基準では、活断層をめぐって、「耐震重要施設は、変位が生じる恐れがない地盤に設けなければならない」(3条)「変位とは将来活動する可能性のある断層等」(同条ただし書き)という規定があります。これは震災前の「活断層」よりも、定義の範囲を広げています。そして日本原電敦賀、東北電力東通、北陸電力志賀の各原発で、「将来動くことは否定できない」断層があると、認定されました。これは非科学的な判断で、原子力発電プラントを廃炉にさせかねません。
(図2)
(図3)池田・「将来動くことは否定できない」という文言で、断層という言葉の定義があいまいになっています。そしてこの取り組みは、一度つくられたプラントを、新たな法律に適用させる法の遡及適用、バックフィットの問題が生じます。原則として、こういうことは許されない。ところが原発だけ可能になっています。
奈良林・おかしな話です。新たな知見が見つかれば、それに対応することはありえるでしょう。福島事故は津波で発生したので、各原発では、津波防止対策を強化し、重要施設の水密性にする工事を行っています。建てた後に原子炉の近くに見つかる可能性はあるでしょう。それに対して工学的に補強工事をして対応することは可能です。活断層かどうかという議論で、原発を潰すのは無意味です。
池田・地震学者の人は、地震のリスクを最大限見積もり、原発はつくってはならないという人が多い。けれどその代替として石炭火力が増え、健康被害が増えたらどうするのかというと、ある有名な地震学者は「そういう議論はフェアではない」と返してきた。
奈良林・その考えはおかしい。深層防護という考えがあります。鉄壁な対策をつくったとしても、それをあえて否定して適切に行われなかった場合に別の対策をする。そういう多層な取り組みを事故以降取り入れ、日本の原子力発電所の安全性は高まっています。
新規制基準では、世界で観測された大きな災害をリストアップして、それに対応しています。例えば竜巻とか森林火災とかです。また「B5b」というテロ対策の取り組みが米国で行われました。「テロに送電線を切断され、海水冷却ポンプを破棄されても炉心溶融を起こさないように準備すること」というテロ対策を想定しています。福島事故では津波という自然災害で、このような状況が引き起こされました。この対応も取り入れています。私たち日本保全学会は、こうした基準作りを手伝いました。
(図4)ところが「羹に懲りて膾をふく」になってしまいました。安全対策は動かしながらできるのに、全部止めているわけですよね。どの国でも、国民に損害を与えていない形にして、原発の安全も高めている。日本はそうなっていない。事業者が利益を出さないと、安全対策の投資もできなくなるのです。
池田・法律上ではそうなっていますよね。そして国民に損害を与える形になっているわけです。こうした法律違反の可能性がある。
奈良林・アメリカの原子力規制委員会は、4000人の人員がいて約100基の原子力発電所を見ています。しかし重要なところだけチェックし、その他は事業者を信頼し、任せています。一方で、日本の規制庁は12年の発足当初は300人、現在1000人になりました。人が足りず、そして全部を見るから、時間がかかる。そして日本の規制は書類に片寄りすぎています。安全性は高まらないし、時間がかかるだけです。
地震と原発をめぐる認識の誤り
司会・4月から続く九州の地震で、鹿児島県北部にある九州電力川内原発に対して、不安が生じました。
奈良林・これまで話したように、断層は原発の周辺にありません。(図5)今回の地震では川内原発で観測された地震動はガルという単位で見ると、水平の振動は8.6ガルでした。事前想定では160ガル以上の振動で、原則として自動緊急停止することになっていますし、子の原発は640ガルで対策をしています。危険はかなり小さいのです。その事実を知っていただきたいです。
(図5)司会・そして裁判の問題が出ています。昨年4月、福井地裁が大飯原発(福井県)の差し止め訴訟でそれを認めましたが、12月に覆りました。今年3月には大津地裁で、稼動した高浜原発の差し止め請求の仮処分が認められてしまいました。
奈良林・いずれの裁判でも事実認定が間違いだらけなんです。今年3月」の内事実を元に裁判が行われ、あす。その前提事実が間違っています。一例ですが、大津地裁は、判定の前の前提事実として冷却材喪失事故(英語: loss-of-coolant accident :LOCA)を起こした場合に原子炉を冷やすことはできないとしています。
ところがそれを想定して、すべての原子炉に非常用炉心冷却装置(ECCS、Emergency Core Cooling System)がついています。前提事実そのものが間違っているのですから、判決はおかしいのです。
(図6)
(図7)池田・こうした停止によって、原発1基当たり、代替燃料費が1日1-2億円でます。それが妥当なのかという話です。規制は適切に行われるべきなのですが、費用、手間、便益のバランスを考えるべきなのに、その配慮が乏しいのです。
原子力をめぐって、感情的に対応するのではなく、奈良林先生が示されるように、合理的に事実に基づいた対応をするべきでしょう。
【ニコニコ生放送でアンケートをした。原発の再稼動について聞いた。急ぐべきが65 .7%、急ぐべきではないが34.3%になった。】
(2016年5月30日掲載)
関連記事
-
2年前の東日本大震災は地震と津波による災害と共に、もう一つの大きな災害をもたらした。福島第一原子力発電所の原子力事故である。この事故は近隣の市町村に放射能汚染をもたらし、多くの住人が2年経った現在もわが家に帰れないという悲劇をもたらしている。そして、廃炉に用する年月は40年ともいわれている。
-
改めて原子力損害賠償制度の目的に立ち返り、被害者の救済を十分に図りつつ原子力事業にまつわるリスクや不確実性を軽減し、事業を継続していくために必要な制度改革の論点について3つのカテゴリーに整理して抽出する。
-
核兵器の原料になる余分なプルトニウムを持たない。広島、長崎で核兵器の被害を受け、非核3原則のもと原子力の平和利用を進める日本は、こうした政策を掲げる。しかし原子力発電の再稼動が遅れ、それを消費して減らすことがなかなかできない。
-
Caldeiraなど4人の気象学者が、地球温暖化による気候変動を防ぐためには原子力の開発が必要だという公開書簡を世界の政策担当者に出した。これに対して、世界各国から多くの反論が寄せられているが、日本の明日香壽川氏などの反論を見てみよう。
-
福島県では原発事故当時18歳以下だった27万人の甲状腺診断が行われています。今年2月には「75人に甲状腺がんとその疑いを発見」との発表が福島県からありました。子どもの甲状腺がんの発生率は、100万人に1〜2人という報道もあります。どのように考えるべきでしょうか。中川 これは、原発事故の影響によるものではありません。
-
原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査に合格して、九州電力の川内原発が再稼動した。この審査のために原発ゼロ状態が続いていた。その状態から脱したが、エネルギー・原子力政策の混乱は続いている。さらに新規制基準に基づく再稼動で、原発の安全性が確実に高まったとは言えない。
-
3月9日、大津地方裁判所は、福井県の高浜原発3・4号機の運転差し止めを求める仮処分決定を行なった。その決定には、これまでにない特徴がみられる。
-
IAEA(国際原子力機関)は8月31日、東京電力福島第一原発事故を総括する事務局長最終報告書を公表した。ポイントは3点あった。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














