炭素税を「国境調整」する保守派の提案
パリ協定を受けて、炭素税をめぐる議論が活発になってきた。3月に日本政府に招かれたスティグリッツは「消費税より炭素税が望ましい」と提言した。他方、ベイカー元国務長官などの創立した共和党系のシンクタンクも、アメリカ政府が炭素税を採用するよう求める提言を出した。彼らの柱は4つある:
- ゆるやかに炭素税を増税し、40ドル/トン程度にする
- 炭素税の収入は一般財源として全国民に還元する
- 国際的な炭素税率の違いは国境調整し、アメリカ国内で課税する
- 環境規制を大幅に緩和する
この提言のポイントは、炭素税による国際競争力の低下を国境調整することだ。炭素税の最大の問題は、高い税率をかけると製造業の国際競争力が低下することだが、彼らの提言では、国内で払った炭素税は輸出するとき払い戻され、輸入品には国境で(両国の差に相当する)炭素税をかける。
これは共和党が提案している税制改革案の考え方で、すべての輸入品に20%の関税を課し、輸出品に20%の補助金を出す。フェルドシュタインの説明では、国境税は輸入減と輸出増をもたらすので、アメリカの貿易赤字は減るが、貿易収支はその国の投資と貯蓄の差額に等しいので、国境調整で変化しない。変化するのは為替レート、つまりドル高だ。たとえば日本からの輸入品には20%の関税がかかるが、円が20%下がると、その効果は相殺される。
フェルドシュタインやマンキューが提案していることでわかるように、国境調整税は保護主義ではない。これは課税ベースを(個人や法人の)所得から支出に切り替え、その負担を国際的に均等化するものだ。彼らの炭素税も、需要を抑制する消費税の代わりに「外部性」を内部化する炭素税をかけようというものだ。
たとえばアメリカが40ドル/トンの炭素税をかけると、炭素税のない国はそれに「ただ乗り」して輸出できる。このときアメリカが輸入品にも40ドルの炭素税をかけ、輸出品には炭素税を払い戻せば、貿易収支に中立になる。日本で財界が炭素税に反対しているのも「国際競争力」が理由だが、これも国境調整すれば炭素税のバイアスはなくなる。
しかし国際調整税は保護主義的なイメージが強いので、輸入コストの上がる流通業界や石油業界などが反対している。足元のふらついてきたトランプ政権が、石油業界の反対を押し切って実行できるかどうかも不明だが、もしアメリカがこういう課税の国際的な均等化を始めると、税制の枠組が大きく変化する可能性がある。

関連記事
-
昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。 何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。 気候モデルが過去を再現できないという話は何度
-
新型コロナ騒動は客観的には大勢が決したと思うが、世論は意外に動かない。NHK世論調査では「緊急事態宣言を出すべきだ」と答えた人が57%にのぼった。きょう出るとみられる指定感染症の見直しについても、マスコミでは否定的な意見
-
GEPRの運営母体であるアゴラが運営するインターネット放送の「言論アリーナ」。6月25日の放送は「原発はいつ再稼動するのか--精神論抜きの現実的エネルギー論」をまとめました。
-
東京都に引き続いて川崎市も太陽光パネルの住宅への設置義務条例を審議している。まもなく3月17日に与野党の賛成多数で可決される見込みだ。 だが太陽光パネルには問題が山積していることはすでにこの連載で述べてきた。 そして自身
-
原子力の論点、使用済核燃料問題についてのコラムを紹介します。
-
日本でもメガソーラーや風力発電の立地に対する反対運動が増えているが、米国でも事情は同様だ。ロバート・ブライスは、再エネ却下データベース(Renewable Rejection Database)にその事例をまとめて、無料
-
日韓関係の悪化が、放射能の問題に波及してきた。 このところ立て続けに韓国政府が、日本の放射能について問題提起している。8月だけでも、次のようなものが挙げられる。 8月8日 韓国環境部が、ほぼ全量を日本から輸入する石炭灰の
-
新たなエネルギー政策案が示す未来 昨年末も押し迫って政府の第7次エネルギー基本計画案、地球温暖化対策計画案、そしてGX2040ビジョンという今後の我が国の環境・エネルギー・産業・経済成長政策の3点セットがそれぞれの審議会
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間