日本のプルトニウム利用計画に対する内外の理解を深めよ――原子力委員会による「上限」設定に反対する
3.11から7年が経過したが、我が国の原子力は相変わらずかつてない苦境に陥っており、とくに核燃料サイクルやバックエンド分野(再処理、プルトニウム利用、廃棄物処分など)では様々な困難に直面している。とりわけプルトニウム問題については、周知のように我が国は現在、国内外に合計47トンの分離プルトニウムを所有していることから、反原発派やマスコミは、「日本は原爆6,000発分のプルトニウムを持っており、国際的に疑惑を招いている」等と言い触らして、ことさら一般市民の不安を煽っている。
日本が所有する分離プルトニウムのうち、大部分(約37トン)は英仏で再処理されたもので、現在も両国に保管され、厳重に管理されている。残りの約10トンが実際に日本に保管されているが、周知のように、これらのプルトニウムは、全国の原子力発電所の核燃料、研究炉の燃料のみならず、およそ原子力平和利用に係るあらゆる核物質と共に、すべて、核不拡散条約(NPT)に基づき、国際原子力機関(IAEA)の保障措置・査察下に置かれており、軍事転用はできない仕組みになっている。また、とくに青森県・六ケ所村の再処理工場には、稼働開始後は、IAEA査察官が常駐し、24時間査察可能になっている。 なお、プルトニウムの在庫量はキログラム単位で毎年原子力委員会によって公表されているが、このようなことを実施しているのは世界中で日本だけだ。
しかも、我が国が保有するような、軽水炉の使用済み燃料から抽出されたプルトニウム(原子炉級プルトニウム)では、不純物が多く、実用的な核爆弾は製造できないとされている。原爆6,000発分というのは全く不正確で誤解を招くものだ。しかも、これだけのプルトニウムが日本国内に裸のまま蓄積されていて、いつでも核兵器製造に転用される危険性があるかのように言うのは故意によるものであり、日本の核燃料サイクル政策を貶めるものと言わざるを得ない(こうした諸点については、昨年末出版された拙著『小池・小泉「脱原発」のウソ』(飛鳥新社)の第6,第8章、特にp.209~214で詳しく解説してある。)
こうしたプルトニウムを含む核物質の管理状況は日頃一般市民の目に触れることは無く、実態はほとんど全く理解されていない。このため、上記のような偏向した報道に基づく誤解や不安が一般市民の間に広がっており、それが原子力発電に対する不安や海外における疑惑を増幅する原因となっていると考えられる。現実には、上述のように、日本の核物質管理と保障措置・査察の受け入れ状況は、長年の地道な努力と実績によりIAEAも太鼓判を押しているところで、日本はNPT/IAEA体制下の模範生と自他ともに認められているが、このことも残念ながら一般にはほとんど全く理解されていない。
他方、3.11以後原発再稼働は遅れており、現在再稼働は9基のみ。そのうち、「プルサーマル」(MOX燃料使用)が行われるのは4基(高浜3,4号、伊方3号、玄海3号)。「もんじゅ」は2016年に廃棄が決定し、フルMOXの大間原発の建設工事も停滞しているため、プルトニウムの早期の大量消費のめどは立っていない。このような状況で、もし六ケ所再処理工場が3年後に本格的操業を開始すれば、約8トン(年間平均)のプルトニウムが生成されるので、トータルのプルトニウムの在庫量は増加する。反原発市民団体や一部メディアはこの点を問題視し、六ケ所工場の廃止を叫んでいる。
こうした反対派の宣伝活動に影響されたせいか、原子力委員会は、いわゆる「余剰プルトニウム(使用目的の無いプルトニウム)を持たない」との原則に基づき、今後は、分離プルトニウムの在庫量を無暗に増加させないために、六ケ所村再処理工場の稼働率に一定の上限を設けることを検討中で、7月17日の現行日米原子力協力協定の自動延長の機会に、日米共同声明を発出する意向とも伝えられる(各紙報道参照)。
しかしながら、六ケ所工場の稼働率は、民間電力会社が主として経済的、経営的観点から合理的に決定すべきものであって、原子力委員会がアプリオリに決定するのは筋違いである。まして、プルトニウムの在庫量削減について日米政府で共同声明を出すのは愚策であり、その必要はないと考える。原子力委員会は従来から国内におけるプルトニウムの在庫量を毎年1回公表しているので透明性は十分確保されており、「余剰(使用目的の無い)プルトニウムは持たない」との既存の方針を再確認するだけに止めるべきである。
さらに、原子力委員会は、原子力規制委員会と共同して、この際改めて、日本における核不拡散、核物質管理、保障措置・査察(safeguards)、核セキュリティ・テロ対策など、とりわけプルトニウム管理の状況について、一般市民の理解促進に努めるべきである。さらに、海外に対しても積極的に実情を説明し、唯一の被爆国である日本の原子力平和利用活動の現状について正しい理解が得られるように、そして、いつまでも「痛くもない腹」を探られることがないように、内外向けの広報活動を一段と強化すべきである。
関連記事
-
小泉純一郎元総理(以下、小泉氏)は脱原発に関する発言を続けている。読んでみて驚いた。発言内容はいとも単純で同じことの繰り返しだ。さらに工学者として原子力に向き合ってきた筆者にとって、一見すると正しそうに見えるが、冷静に考えれば間違っていることに気づく内容だ。
-
1ミリシーベルトの壁に最も苦悩しているのは、いま福島の浜通りの故郷から避難している人々だ。帰りたくても帰れない。もちろん、川内村や広野町のように帰還が実現した地域の皆さんもいる。
-
未来の電力システムの根幹を担う「スマートメーター」。電力の使用情報を通信によって伝えてスマートグリッド(賢い電力網)を機能させ、需給調整や電力自由化に役立てるなど、さまざまな用途が期待されている。国の意向を受けて東京電力はそれを今年度300万台、今後5年で1700万台も大量発注することを計画している。世界で類例のない規模で、適切に行えれば、日本は世界に先駆けてスマートグリッドを使った電力供給システムを作り出すことができる。(東京電力ホームページ)
-
2050年にCO2ゼロという昨年末の所信表明演説での宣言に続いて、この4月の米国主催の気候サミットで、菅首相は「日本は2030年までにCO2を46%削減する」ことを目指す、と宣言した。 これでEU、米国・カナダ、日本とい
-
小泉・細川“原発愉快犯”のせいで東京都知事選は、世間の関心を高めた。マスコミにとって重要だったのはいかに公平に広く情報を提供するかだが、はっきりしたのは脱原発新聞の視野の狭さと思考の浅薄さ。都知事選だというのに脱原発に集中した。こんなマスコミで日本の将来は大丈夫かという不安が見えた。佐伯啓思・京大教授は1月27日付産経新聞朝刊のコラムで「原発問題争点にならず」と題して次のように書いた。
-
ネット上で、この記事が激しい批判を浴びている。朝日新聞福島総局の入社4年目の記者の記事だ。事故の当時は高校生で、新聞も読んでいなかったのだろう。幼稚な事実誤認が満載である。 まず「『原発事故で死亡者は出ていない』と発言し
-
9月25日、NHK日曜討論に出演する機会を得た。テーマは「1.5℃の約束―脱炭素社会をどう実現?」である。 その10日ほど前、NHKの担当ディレクターから電話でバックグラウンド取材を受け、出演依頼が来たのは木曜日である。
-
6月1日、ドイツでは、たったの9ユーロ(1ユーロ130円換算で1200円弱)で、1ヶ月間、全国どこでも鉄道乗り放題という前代未聞のキャンペーンが始まった! 特急や急行以外の鉄道と、バス、市電、何でもOK。キャンペーンの期
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














