再エネ先進地域九州の電力事情②〜非化石電源比率44%の達成に向けて〜
前回(https://www.gepr.org/ja/contents/20180710-02/)、簡単に九州電力管内の電力需給事情を概観したが、今回は「CO2削減」をテーマに九州の電力需給の在り方について考えてみたい。
まずは議論の前提について確認する。
我が国はパリ協定に基づく温室効果ガスの排出削減目標を「2030年度に2013年度比26.0%削減」と定めている。これは低炭素社会実現向けての我が国の国際公約と言える。政府はこの目標を達成するために、2030年度の電源構成比率の目標(エネルギーミックス)を定めており、非化石電源については再生可能エネルギー(22~24%程度)、原子力(20~22%)、としている。両者を合計すれば非化石電源の比率の合計は42%~46%になるわけだが、目標を定めるだけでは当然その達成は難しい。そのため、経済産業省はこの目標を達成するために、エネルギー供給構造高度化法において、小売電気事業者に対して2030年度までに販売する電気の非化石電源比率を44%以上にすることを義務付けている。さらに、これと相まって省エネ法において火力発電の高効率化を義務付けることで、2016年度現在0.516kg-CO2/kWhと高止まりしているCO2の排出係数0.37kg-CO2/kWhにまで引き下げることを目指している。
小売電気事業者にこのような規制がかかっている以上、当然、送配電側においても非化石電源比率44%以上という目標を達成することが求められることになる。今回は、この目標が九州電力管内においても達成可能なものなのか、簡単に検討してみる。
2017年度現在の九州電力管内の電源別の発電量比率を見ると、非化石電源については多い順に、(原子力:13.9%)(太陽光:8.9%)(水力:5.0%)(地熱:1.1%)(風力:0.5%)(バイオマス:0.2%)となっており、総計29.5%を占めている。これはあくまで発電量との関係における比率で、このうちの相当量は関西方面に連携線を通して供給されているため、九州電力管内の需要との関係における電源構成比ではないことに留意する必要がある。ただ、関西方面で電力が不足している傾向は、原発の再稼働とともに徐々に解消されることが見込まれるため、このような構造が長期的に続く可能性は低く、将来的には地産地消的な性格を高めていくことになると予測される。
したがって、必ずしもこの比率が九州で小売されている電気の非化石電源比率を示すとは言えないのだが、一つの目安として「現状の延長線上で九州電力管内の非化石電源別の発電比率(以下単に「非化石電源比率」という)が44%を達成できるかどうか」ということについて、この指標を通じて考えてみたい。
「九州電力データブック2013」によると、原発が全て停止していた2012年度の非化石電源の発電比率は概ね、水力8%、地熱・新エネルギー(≒再生可能エネルギー)4%で合計12%となっている。前述した通り、現状では水力5.0%、地熱1.1%、太陽光8.9%、風力0.5%、バイオマス0.2%と合計15.7%弱となっており、水力発電の稼働率がやや落ちて、再生可能エネルギーの設備増強が太陽光発電を中心に進んだことが見て取れる。併せて、原子力発電の再稼働も一定程度進んで13.9%にまで発電比率が増えており、仮に、この非化石電源間のバランスがそのまま続いて比例的に電源が増強された場合、非化石電源44%を達成できるかどうか考えてみたい。
上の図は2030年度に2017年度比で非化石電源の発電量が1.5倍になることを想定し、(A原子力)(B水力+地熱)(C太陽光+風力)に分類して、それぞれの電源種別の発電量を九州電力管内における2017年度の電力需要で除した「電力需要比」を積み上げたものである。導入量を1.5倍としたのは九州電力管内の2017年度の非化石電源比率は現状で29.5%なので、単純に44%を29.5%で除して小数点第2位で四捨五入したからである。
ご覧になっていただければわかるように、太陽光発電の稼働時には常時非化石電源のみで九州電力管内の需要を大きく超過するようになる。想定ケースでは最も発電量の需要比が大きくなる日は、5/14の10:00~10:59の時間帯で電力需要比で164.2%となった。内訳は(A原子力:34.4%)(B水力+地熱:22.0%)(C太陽光+風力:107.9%)となっており、そのほとんどが太陽光発電で、これだけで九州地区の全需要を超える計算になっている。現実にはこれに負荷追従用の火力発電の比率分(40%程度)が足されることになるので、発電量が需要比の200%を超過することになってしまうことになる。当然これほどの超過発電分を吸収する調整力は無いため、太陽光発電の出力はあらかじめ抑制され電力の過半が送配電網に流されないことになるだろう。
つまり、現状の延長線上では非化石電源比率44%という目標の達成は難しく、この目標を達成するには異なるアプローチが必要になってくるということをこの図は示している。具体的には、①原子力発電の稼働率を上げる、②バイオマス・地熱発電の開発を活発化する、③多目的ダムの規制緩和などを通した水力発電のポテンシャルのさらなる活用、などの手法が考えられる。あわせて当然ながら調整力の増強などの施策も必要になってくるだろう。次回以降はこうした点について考察していきたい。

関連記事
-
原子力規制委員会、その下部機関である原子力規制庁による活断層審査の混乱が2年半続いている。日本原電の敦賀原発では原子炉の下に活断層がある可能性を主張する規制委に、同社が反論して結論が出ない。東北電力東通原発でも同じことが起こっている。調べるほどこの騒動は「ばかばかしい」。これによって原子炉の安全が向上しているとは思えないし、無駄な損害を電力会社と国民に与えている。
-
昨年9月1日に北海道電力と東北電力の電力料金値上げが実施された。これで、12年からの一連の電力値上げ申請に基づく料金値上げが全て出そろったことになる。下表にまとめて示すが、認可された値上げ率は各電力会社の原発比率等の差により、家庭等が対象の規制部門で6・23%から9・75%の範囲に、また、工場やオフィスビルを対象とする自由化部門で11・0%から17・26%である。
-
このような一連の規制が、法律はおろか通達も閣議決定もなしに行なわれてきたことは印象的である。行政手続法では官庁が行政指導を行なう場合にも文書化して根拠法を明示すべきだと規定しているので、これは行政指導ともいえない「個人的お願い」である。逆にいうと、民主党政権がこういう非公式の決定を繰り返したのは、彼らも根拠法がないことを知っていたためだろう。
-
サウジアラビアのエネルギー・産業・鉱物資源省(石油担当)大臣で、国営石油会社のサウジアラムコ会長を兼ねるカリード・A・アル・ファーレフ氏が9月1日の東京のセミナー「日本サウジアラビア〝ビジョン2030〟ビジネスフォーラム」で行った発言の要旨が公表された。
-
福島第一原子力発電所事故以来、国のエネルギー政策上の原子力の位置づけは大きく揺らいできた。政府・経産省は7月に2030年度の最適電源構成における原子力比率を20~22%とすることをようやく決定したが、核燃料サイクル問題については依然混迷状態が続いている。以下、この問題を原点に立ち返って考えて見る。
-
米軍のイラク爆撃で、中東情勢が不安定になってきた。ホルムズ海峡が封鎖されると原油供給の80%が止まるが、日本のエネルギー供給はいまだにほとんどの原発が動かない「片肺」状態で大丈夫なのだろうか。 エネルギーは「正義」の問題
-
前回に続き「日本版コネクト&マネージ」に関する議論の動向を紹介したい。2018年1月24日にこの議論の中心の場となる「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の第二回が資源エネルギー庁で開催されたが、
-
12月1日付GEPRに山家公雄氏の解説記事(「再エネ、健全な成長のために」)が掲載されており、「固定価格買取制度(FIT)とグリッド&マーケット・オペレートが再エネ健全推進の車の両輪である」との理論が展開されている。しかしドイツなど先行国の実例を見ても再エネの健全な推進は決して実現していない。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間