世界の環境は改善されている
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2030年までに世界の平均気温が産業革命前より1.5℃(現在より0.5℃)上昇すると予測する特別報告書を発表した。こういうデータを見て「世界の環境は悪化する一方だ」という悲観的な話があるが、これは誤りである。世界の環境は大幅に改善されているのだ。
オクスフォード大学の“Our World in Data”というウェブサイトには、世界の環境問題について多くのデータが集められ、視覚的に表現されているが、それを見るとほとんどの指標は大幅に改善されている。たとえば1日1.9ドル以下の所得で暮らす貧困層の比率は、産業革命の前には94%だったが、今は10%以下になっている。
乳幼児死亡率(5歳以下)は43%から4.5%に下がった。
21世紀に入ってからは、感染症も激減している。たとえばマラリアの死者は2000年の83万9000人から、2015年には43万8000人にほぼ半減した。
このように世界の環境が改善した最大の原因は、発展途上国が豊かになったことだ。日本でも、すでに感染症や災害の被害は大幅に減った。たとえば最近の災害で被害が最大だったのは西日本豪雨の死者227人だが、伊勢湾台風の死者は5238人だった。被害が大きかったのは台風が大きかったからではなく、堤防などのインフラが整備されていなかったからだ。
地球温暖化の被害も、豊かになれば減らすことができる。2100年までに世界の平均気温が2℃上昇すると海面が約60cm上昇するが、この程度はインフラ整備で対応できる。途上国ではそれより深刻な問題がたくさんあり、少なくとも死者を基準に考えると最優先の問題は地球温暖化ではない。
途上国で最大の問題の一つは、大気汚染である。特に室内で木を燃やす煙で年間380万人が死んでいると推定されるが、これはガスや電力などのインフラ整備で減らすことができる。同じぐらい深刻な水汚染も水道設備で減らすことができ、感染症も医療で改善できる。そのために必要なのは、経済成長とインフラ整備である。
これは日本でも同じだ。地球温暖化が避けられなくても、その被害はインフラ整備で減らすことができる。その原資は経済成長である。目的は快適に生活することであって、特定の気温を保つことではない。必要なのは費用対効果を考えて、バランスよく環境を改善することである。

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