地球温暖化は熱帯の防災問題である
グレタ・トゥーンベリの演説を聞いた人は人類の絶滅が迫っていると思うかもしれないが、幸いなことにそうではない。25日発表されたIPCCの海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)では、従来の気温上昇予測(第5次評価報告書)にもとづいて海面上昇がどうなるかを予測している。

2300年までの海面上昇の予測(SROCC Fig.4.8)
今世紀末までに地球の平均気温が今より4.8℃上昇する最悪のシナリオ(RCP8.5)では、北極や南極の氷が溶け、2100年に世界の海面は60~110cm上昇する。パリ協定の2℃目標が実現した場合(RCP2.6)には、30~60cm上昇する。
まずRCP2.6は除外してよい。各国に義務のないパリ協定の実施は不可能であり、完全実施したとしても、2100年までに0.05℃ぐらいの効果しかないからだ。
RCP8.5は何も対策をしないで、途上国が石炭の消費をどんどん増やす最悪のシナリオである。その後はこのトレンドを延長しているだけで、厳密な計算ではない。
最悪の場合、2100年までに何が起こるだろうか。SROCCは、次のように予測している。
- ヨーロッパやアジアの小さな氷河は80%以上溶ける
- 今後80年で平均84cmぐらい海面が上昇する
- 熱帯では洪水が増える
- 太平洋の小島が水没する
- サイクロンや豪雨が増える
- 海洋熱波は20倍から50倍に増える
- 海水温が上がって海中の生態系が変わる
- 熱帯では漁獲が減るが、南極海では増える
このリストを見てもわかるように、被害は熱帯に集中している。先進国で考えられるのは毎年1cmぐらいの海面上昇で、これは堤防で対応できる。大地震などの災害に比べると防災コストは小さく、緊急性も低い。

国連サイトより
グローバルにみると、地球温暖化は熱帯の防災問題である。その被害は再生可能エネルギーで防ぐことはできない。いくら再エネを増やしても、電力は1次エネルギー供給の25%なので、エネルギー全体の数%にすぎない。
世界の温室効果ガスの半分以上を出す途上国(中国やインドを含む)が化石燃料の消費を増やすかぎり温暖化は止まらず、止めるべきでもない。彼らが豊かになってインフラ整備することが最善の温暖化対策である。
これはあまりセクシーな話ではないが、開発援助の問題としては重要だ。IPCCも、そういう温暖化への適応について各国政府の対策を呼びかけている。

関連記事
-
人工衛星からの観測によると、2021年の3月に世界の気温は劇的に低下した。 報告したのは、アラバマ大学ハンツビル校(UAH)のグループ。元NASAで、人工衛星による気温観測の権威であるロイ・スペンサーが紹介記事を書いてい
-
コロナ後の経済回復を受けて米国で石炭ブームになっている。米国エネルギー省の見通しによると、今年の石炭生産量は6億1700万トンに上り、1990年以降最大になる見通しである(p47 table 6)。 更に、アジアでの旺盛
-
世界のエネルギーの変革を起こしているシェールガス革命。その中で重要なのがアメリカのガスとオイルの生産が増加し、アメリカのエネルギー輸入が減ると予想されている点です。GEPRもその情報を伝えてきました。「エネルギー独立」は米国の政治で繰り返された目標ですが、達成の期待が高まります。
-
G7貿易相会合が開かれて、サプライチェーンから強制労働を排除する声明が発表された。名指しはしていないが、中国のウイグル新疆自治区における強制労働などを念頭に置いたものだとメディアは報じている。 ところで、これらの国内の報
-
米軍のソレイマニ司令官殺害への報復として、イランがイラク領内の米軍基地を爆撃した。今のところ米軍兵士に死者はなく、アメリカにもイランにもこれ以上のエスカレーションの動きはみられないが、原油価格や株価には大きな影響が出てい
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦(1月9日放映)」を見た。一部は5分のミニ動画として3本がYouTubeで公開されている:温暖化は新フェーズへ 、2100年に“待っている未
-
日米原子力協定が自動延長されたが、「プルトニウムを削減する」という日本政府の目標は達成できる見通しが立たない。青森県六ヶ所村の再処理工場で生産されるプルトニウムは年間最大8トン。プルサーマル原子炉で消費できるのは年間5ト
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間