今週のアップデート — 再生可能エネルギーに未来はあるのか(2012年4月30日)

2012年04月30日 11:00

今週のコラム・記事

再生可能エネルギーの先行きについて、さまざまな考えがあります。原子力と化石燃料から脱却する手段との期待が一部にある一方で、そのコスト高と発電の不安定性から基幹電源にはまだならないという考えが、世界のエネルギーの専門家の一般的な考えです。

1) 経済成長を続けるインドは、その土地の広大さを背景に、再生可能エネルギーへのシフトを進めようとしています。調査会社インフォブリッジマーケティング&プロモーションズの代表の繁田奈歩さんに「成長のインド、エネルギーでビジネスチャンス−石炭火力からの脱却で自然エネルギー投資拡大」を寄稿いただきました。

インドは広大な土地を活かし、太陽光と風力発電によって、石炭火力からエネルギー源シフトを行おうとしています。その事情を紹介しています。この寄稿では触れられていませんがインドは原発増設にも積極的です。現時点で約20基の原発があり、30年ごろまでに軽水炉で25〜30基の新設を計画しています。

2) 日本では今年夏から、再生可能エネルギーの強制的買取制度(フィード・イン・タリフ:FIT)が始まります。焦点となっていた太陽光価格の案が1kWh(キロワットアワー)当たり42円となりました。既存の電力システムの発電単価が6円前後であることを考えると異常な高額です。しかもドイツなどでこの政策は失敗したと評価できます。

この事情について、GEPR編集部は「42円の太陽光買い取り価格、巨額の経済負担の懸念=補助金の拡大、電力系統見直しコスト…経済を壊す政策がなぜ?」を提供します。この決定の問題点を多角的に分析しています。

3) NPO法人国際環境経済研究所から、民間有志の電力改革研究会の記事「【書評】情報に惑わされないための食の安全に関する入門書「「安全な食べもの」ってなんだろう?放射線と食品のリスクを考える」を提供いただきました。国立医薬品食品衛生研究所の研究者である畝山智香子さんが日本評論社から刊行した本の書評です。

今週のリンク

1) ダニエル・ヤーギン氏と、ビル・ゲイツ氏の対談がサイト「ゲイツ・ノート」で公開されています。(英語)An Energy Briefing with Daniel Yergin: Opportunities for Developing Countries(ダニエル・ヤーギンとビル・ゲイツのエネルギーをめぐる対話:開発途上国の機会について)ヤーギン氏は著名なエネルギー・アナリストで、最新刊の「探求」(翻訳は日本経済新聞出版社刊)では、福島事故後のエネルギーの分析をしています。ゲイツ氏は、エネルギー不足が貧困と結びついているが、この大きな問題を解決できるのかと疑問を投げかけました。ヤーギン氏はこれから世界で20億人の人がミドルクラス入りし、エネルギーを求めようとしている現状は大変難しい状況にあると指摘する一方で、シェールガスなど天然ガスの供給拡大の可能性があるなど、前向きな変化に期待を示しました。(近日中にポイントを公開します)

2)米紙ワシントンポスト社は4月22日の社説「原子力をとめること」で原発の停止により、化石燃料の使用増加で日本の温室効果ガスの削減とエネルギーコストの増加が起こっていることを指摘。再生可能エネルギーの急増の可能性も少なくエネルギー源として「原子力の維持を排除すべきではない」と見解を示しています。

3)経済産業省は再生可能エネルギーの振興に積極的になっています。METI Journal 経済産業ジャーナル平成24年4・5月最新号の特集は「「育エネ時代」−みんなで広げる再生可能エネルギー」。この種のエネルギーの長所と同省の振興政策が取り上げられています。同省はこれまで、再生可能エネルギーについてはコストを注視しながら、少しずつ増やすという立場でした。福島原発事故と民主党政権の政治主導の影響ですが、その政策転換はかなり唐突な感じがします。

4)経済産業省の再生可能エネルギーホームページ「なっとく!再生可能エネルギー」同省の振興策、政策について紹介しています。FITについては4月30日時点でホームページは工事中です。

This page as PDF

関連記事

  • はじめに 原発は高くなったと誤解している人が多い。これまで数千億円と言われていた原発の建設費が3兆円に跳ね上がったからである。 日本では福島事故の再防止対策が膨らみ、新規制基準には特重施設といわれるテロ対策まで設置するよ
  • 本原稿は2012年5月の日本原子力産業協会の年次総会でバーバラ・ジャッジ氏が行った基調講演要旨の日本語訳である。ジャッジ氏、ならびに同協会の御厚意でGEPRに掲載する。
  • 「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
  • 「電力システム改革」とはあまり聞きなれない専門用語のように思われるかもしれません。 これは、電力の完全な自由化に向けて政府とりわけ経済産業省が改革の舵取りをしています。2015年から2020年にかけて3ステップで実施され
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。  今週のアップデート 1)トウモロコシ・エタノール、米国農家が日本に販売を期待 米国の農
  • 東日本大震災とそれに伴う津波、そして福島原発事故を経験したこの国で、ゼロベースのエネルギー政策の見直しが始まった。日本が置かれたエネルギーをめぐる状況を踏まえ、これまでのエネルギー政策の長所や課題を正確に把握した上で、必要な見直しが大胆に行われることを期待する。
  • 日本の核武装 ロシアのウクライナ侵攻で、一時日本の核共有の可能性や、非核三原則を二原則と変更すべきだとの論議が盛り上がった。 ロシアのプーチン大統領はかつて、北朝鮮の核実験が世界のメディアを賑わしている最中にこう言い放っ
  • 電力需給が逼迫している。各地の電力使用率は95%~99%という綱渡りになり、大手電力会社が新電力に卸し売りする日本卸電力取引所(JEPX)のシステム価格は、11日には200円/kWhを超えた。小売料金は20円/kWh前後

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑