インフラ整備は温室効果ガスの削減より効率的だ
台風19号の被害は、14日までに全国で死者46人だという。気象庁が今回とほぼ同じ規模で同じコースだとして警戒を呼びかけていた1958年の狩野川台風の死者・行方不明は1269人。それに比べると台風の被害は劇的に減った。
このように水害が減ったのは、台風が減ったからではない。台風や集中豪雨の頻度は、ここ100年ほとんど変わっていない。自然災害が減らなくても被害が減った最大の原因は、台風情報が正確になり、堤防やダムが整備されたことだ。

城山ダムの天端を走る国道413号(Wikipedia)
地球規模でみても、IPCCが指摘するように、熱帯のインフラ整備は足りない。今後80年に予想される海面上昇は最大でも80cm程度なので、堤防の建設で防げる。
他方、温室効果ガスを削減するコストは非常に高い。ロンボルグの計算では、パリ協定のすべての当事国が約束草案を2030年まで完全実施しても、2100年の地球の平均気温は0.05℃抑制できるだけだが、これには毎年1兆ドル以上のコストがかかる。
それに対して地球温暖化に適応するメリットは、そのコストより大きい。そういう投資を促進するために、ビル・ゲイツや潘基文などがGlobal Commission on AdaptationというNGOを設立した。
その報告書によれば、次の図のように台風警報などの早期警戒システムのメリットはコストの9倍、堤防などのインフラ整備は約5倍、干魃に適応する農業技術の開発は約5倍である。こうした投資は途上国の経済成長によってインフラ整備を促進する効果もある。
これに対して「インフラ整備で温暖化は止められない」という批判があるが、地球の平均気温を下げることは目的ではない。大事なのは、温暖化による人間の被害を最小化することだ。その費用対効果の高い対策を優先的に実施すべきである。
経済成長を阻害して巨額のコストがかかる温室効果ガスの削減より、投資収益の上がるインフラ整備のほうがはるかに効率的だ。こういう適応政策はパリ協定などのアジェンダには含まれていないが、最近はIPCCも提言している。日本の環境行政も発想を転換するときだ。

関連記事
-
政府は脱炭素政策を進めているが、電気料金がどこまで上がるかを分かりやすい形で公表していない。本稿では、公開資料を元に具体的に何円になるのか計算してみよう。 日本の電気料金は東日本大震災以降、大幅に上昇してきた(図1)。
-
日本での報道は少ないが、世界では昨年オランダで起こった窒素問題が注目を集めている。 この最中、2023年3月15日にオランダ地方選挙が行われ、BBB(BoerBurgerBeweging:農民市民運動党)がオランダの1つ
-
気候・エネルギー問題はG7広島サミット共同声明の5分の1のスペースを占めており、サミットの重点課題の一つであったことが明らかである。ウクライナ戦争によってエネルギー安全保障が各国のトッププライオリティとなり、温暖化問題へ
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新しました。
-
2017年1月からGEPRはリニューアルし、アゴラをベースに更新します。これまでの科学的な論文だけではなく、一般のみなさんにわかりやすくエネルギー問題を「そもそも」解説するコラムも定期的に載せることにしました。第1回のテ
-
EU農業政策に対する不満 3月20日、ポーランドのシュチェチンで農民デモに遭遇した。主要道路には巨大なトラクターが何百台も整然と停まっており、その列は延々と町の中心広場に繋がっていた。 広場では、農民らは三々五々、集会を
-
IPCCの報告が昨年8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 米国オバマ政権の科学次官を務めたスティーブ・クーニンの講
-
環境税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。 もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのよう
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間