トリチウム処理水は早く海洋放出を開始せよ

福島第1原発のALPS処理水タンク(経済産業省・資源エネルギー庁サイトより:編集部)
はじめに
トリチウム問題解決の鍵は風評被害対策である。問題になるのはトリチウムを放出する海で獲れる海産物の汚染である。地元が最も懸念しているのは8年半かけて復興しつつある漁業を風評被害で台無しにされることである。
その対策は3つある。第一は希釈放出に技術的問題がないことを一丸となって世界に向けて発信すること。第二はそれを様々な国際会議で確認すること。第三は風評被害にならぬ様、言いがかり的な苦情を端的に論破できるように準備することである。
トリチウム以外の基準超え放射能は希釈前に二次処理すべし
これは国の委員会で東電が実施すると約束していることであるが、基本的なことなので間違いなく実施してほしい。敷地境界の線量は図1に示す通り法的基準を満たしている[注1]。

図1 敷地境界線量「評価値」(エネ庁HPから)
しかし一部の核種の放射能が海洋放出基準をオーバーしている。ALPSは本来62種の核種を全て海洋放出基準以下に処理することになっているが、ALPSが出来る前の処理水やALPSが故障していた際の処理水があってこのようなことになっている。
放射能核種の内訳はセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106、コバルト60、アンチモン125等である[注2]。
図1を見ると事故当初は基準値をオーバーしていたが、高性能ALPSが投入された2015年度末以降は基準値以下になっている。
福島の地元は技術的問題でなく風評被害を懸念している
福島県の漁協が気にしているのは魚の放射能ではない。福島の海産物が売れなくなることだ。売れたとしても買い叩かれて安くなってしまうことを懸念している。
消費者は少しでも安く買おうとするから、影響が無いことを承知の上でトリチウム問題を持ちだす可能性を否定できない。その人達に技術的説明をするのは無駄である。
ではどうすれば良いか。処理水の海洋放出を止めるのではなく、トリチウムを海洋放出しても海産物に影響が出ないことを常識化することであろう。そうすれば海産物を買い叩こうとしてトリチウム問題を持ち出されても何も恐れることはない。何を言われても反論できるよう理論武装しておけば良いだけのことである。
海洋放出せず処理水を貯め続けると2022年夏頃処理水が溢れる
海洋放出せず処理水をタンクに貯め続ける現在の方式は果たしていつまで続けられるか?
① 2020年から海洋放出する場合は1年当たりのトリチウム量の減少幅が、2041年末完了、2051年末完了で、それぞれ約39兆ベクレル、約27兆ベクレルとなり、想定保有水量はタンク容量を上回ることはない。
② 2025年、2030年、2035年から海洋放出を開始する場合は、いずれも2022年夏頃に想定保有水量がタンク容量を上回り、2035年ケースでは、処分開始時に保有水量が約200万㎥に達する[注3]。
海洋放出した場合の放射線影響解析結果-自然放射線の3400分の1-
資源エネルギー庁がトリチウム処理水の海洋放出による放射線影響について、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の評価モデルを用いた評価結果を示した。
海洋放出については、砂浜からの外部被ばくと海洋生物による内部被ばくを考慮し、仮に、タンクに貯蔵されている処理水すべてを1年間で処理した場合、放射線による影響は年間約0.052~0.62マイクロシーベルトと、自然放射線の年間2.1ミリシーベルトと比較し3400分の1と十分小さいとしている[注4]。
[注1] エネ庁「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策①「ALPS処理水」とは何?「基準を超えている」のは本当?」
[注2] 同上
[注3] エネ庁多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第15回)資料5「多核種除去処理水の貯蔵・処分の時間軸」
[注4] エネ庁多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第15回)資料3「ALPS処理⽔の放出による放射線の影響について」
関連記事
-
(前回:米国の気候作業部会報告を読む⑫:CO2の価格は何ドルなのか) 気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発表さ
-
脱炭素、ネットゼロ、水素社会。ここ数年、これらの言葉を耳にしない日はない。水素は「次世代エネルギーの本命」として語られ、ブルー水素やグリーン水素は、脱炭素・ネットゼロを実現するための生命線とまで位置づけられている。 しか
-
いまイギリスで急速に支持を伸ばしているのが、右派政党の改革UK(Reform UK)だ。今年の世論調査では、ついに労働党や保守党を抑え、支持率で第一党に躍り出たとの報道もあった。背景にあるのは、不法移民問題に加え、生活費
-
少し前の話になりますが、2016年12月20日に経済産業省に設置されていた「東京電力改革・1F問題委員会」において、「東京電力改革提言」なる報告書がまとめられました。この提言では福島における原発事故の対策費用の全体像が初
-
今年7月末に「『気候変動・脱炭素』 14のウソ」という日本語の書が出版された。著者は渡辺正博士。全体は「気候変動」編と「脱炭素」編に分かれ、それぞれ7つの「ウソ」について解説されている。前稿の「気候変動」編に続き、今回は
-
菅首相が10月26日の所信表明演説で、「2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す」旨を宣言した。 1 なぜ宣言するに至ったか? このような「2050年ゼロ宣言」は、近年になって、西欧諸国
-
福島県内で「震災関連死」と認定された死者数は、県の調べで8月末時点に1539人に上り、地震や津波による直接死者数に迫っている。宮城県の869人や岩手県の413人に比べ福島県の死者数は突出している。除染の遅れによる避難生活の長期化や、将来が見通せないことから来るストレスなどの悪影響がきわめて深刻だ。現在でもなお、14万人を超す避難住民を故郷に戻すことは喫緊の課題だが、それを阻んでいるのが「1mSvの呪縛」だ。「年間1mSv以下でないと安全ではない」との認識が社会的に広く浸透してしまっている。
-
昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。 何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。 気候モデルが過去を再現できないという話は何度
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















