地球温暖化のスピードは減速する
昨年11月に発表されたIEA(国際エネルギー機関)のWorld Energy Outlookが、ちょっと話題を呼んでいる。このレポートの地球温暖化についての分析は、来年発表されるIPCCの第6次評価報告書に使われるデータベースにもとづいているので、その先行リリースともいえるものだが、これまで悲観的になる一方だった推定が楽観的になっているのだ。

Cheryl/flickr(編集部)
2013年に発表されたIPCCの第5次評価報告書の最悪のRCP8.5シナリオ(温暖化対策なし)では、2100年の地球平均気温は2000年から2.6~4.8℃上昇すると推定されていた。この4.8℃がマスコミによく出てくる数字だが、今回のIEAの推定では、これが大幅に下方修正されている。
IEAの推定は2040年までだが、このCO2増加率がそのまま2100年まで続くと想定したHausfather-Ritchieの推定によると、図1のようにCO2の実質排出量は、IPCCの”No Policy”シナリオ(RCP8.5)の半分以下になる。

図1
その結果、図2のようにIEAの最悪シナリオであるCPS(現在の温暖化対策のまま)でも、2100年までの気温上昇は2.0~3.8℃と、IPCCのRCP6.0(対策をやや強化する)に近く、中央値(2.9℃)はRCP8.5の4.6℃より大幅に低い。モデルの誤差を勘案した最悪の場合でも3℃程度の気温上昇ですむだろう、とHausfather-Ritchieは予測している。

図2
このようにIPCCの見通しが下方修正された大きな原因は、再生可能エネルギー、特に太陽光パネルの急速な普及である。図3のようにIEAの太陽光発電容量の予測は2005年ごろからつねに大幅な過少評価になっており、その傾向は2019年も続いている。

図3
2010年代に再エネの固定価格買取制度が世界に広がり、再エネが急成長したことが、 IPCCの温暖化予測が裏切られた原因である。その傾向は今後も変わらないので、今回のIEAの予測は上限に近いと思われる。
IPCCの”No Policy”シナリオ(IEAのCPS)は何も温暖化対策をしないということではなく、新たな政策を加えないということだから、今後対策が追加されるとCO2の増加はさらに減速し、図1のように21世紀後半にはピークアウトする可能性がある。
温暖化の脅威を強調する人々が再エネを普及させたことで、温暖化が減速したのは皮肉である。彼らが敵視している石炭火力も、2010年代には増加率が下がった。今後は「脱炭素化」だけではなく、途上国の生活水準など多面的な基準でエネルギー問題を考える必要があろう。
関連記事
-
9月11日に日本学術会議が原子力委員会の審議依頼に応じて発表した「高レベル放射性廃棄物の処分について」という報告書は「政府の進めている地層処分に科学者が待ったをかけた」と話題になったが、その内容には疑問が多い。
-
東京都や川崎市で、屋上に太陽光パネル設置義務化の話が進んでいる。都民や市民への事前の十分な説明もなく行政が事業を進めている感が否めない。関係者によるリスク評価はなされたのであろうか。僅かばかりのCO2を減らすために税金が
-
洋上風力発電入札の経緯 そもそも洋上風力発電の入札とは、経済産業省が海域を調査し、風況や地盤の状況から風力発電に適していると判断された海域について、30年間にわたり独占的に風力発電を行う権利を、入札によって決定するという
-
福島第一原発事故から3年3カ月。原発反対という声ばかりが目立ったが、ようやく「原子力の利用」を訴える声が出始めた。経済界の有志などでつくる原子力国民会議は6月1日都内で東京中央集会を開催。そこで電気料金の上昇に苦しむ企業の切実な声が伝えられた。「安い電力・エネルギーが、経済に必要である」。こうした願いは社会に広がるのだろうか。
-
ここ数回、本コラムではポストFIT時代の太陽光発電産業の行方について論考してきたが、今回は商業施設開発における自家発太陽光発電利用の経済性について考えていきたい。 私はスポットコンサルティングのプラットフォームにいくつか
-
日本の学者、国会議員らが、4月に台湾(中華民国)の学会の招待で、台湾のシンポジウムに参加し、馬英九総統と会見した。その報告。日台にはエネルギーをめぐる類似性があり、反対運動の姿も似ていた。
-
茨城大学理学部の高妻孝光教授は、福島第1原発事故以来、放射線量の測定を各地で行い、市民への講演活動を行っています。その回数は110回。その取り組みに、GEPRは深い敬意を抱きます
-
経済産業省は再エネ拡大を「燃料費の大幅削減策」として繰り返し訴えている。例えば2024年1月公表の資料では〈多大な燃料費削減効果を有する〉と強調した※1)。 2022年以来、未曽有の化石燃料価格高騰が起きたから、この局面
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















