2050年CO2ゼロでも、0.01℃も下がらないし豪雨は1mmも減らない

2020年10月07日 17:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

2050年にCO2をゼロにすると宣言する自治体が増えている。これが不真面目かつ罪作りであること前に述べた

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

本稿では仮に、日本全体で2050年にCO2をゼロにすると、気温は何度下がり、豪雨は何ミリ減るか計算しよう

すると、気温は0.01℃も下がらず、豪雨は1mmも減らないことが分かる

つまり日本が2050年までにCO2をゼロにするかどうかは、日本の防災には殆ど全く関係が無い。自治体にせよ、政府にせよ、このことをきちんと理解し、住民にも説明すべきである。それ無くして「2050CO2ゼロ」を安易に宣言してはならない。 

1 計算方法

計算方法は以前述べたが、以下におさらいをしよう。

気温上昇は、TCRE= 1.6(℃/兆トンC)という係数を使って、累積の排出量を用いて以下のように計算できる。この方法は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)報告によるものだ。

気温上昇(℃)= 1.6(℃/兆トンC×累積CO2排出量(兆トンCO2 (1)

降水量は、気温1が上がると水蒸気量が増え、引いては降水量が6%増えるというクラウジウス・クラペイロン関係を用いる。

降水量増加(% = 気温上昇(℃)×6 (%/)       (2)

2 計算手順

(1)(2)を用いて2050年について計算すると、表のようになる。順に説明しよう。

まずATCREである。TCREは1兆トンCあたりで1.6℃である。

BCO2排出量が現状(=10億トン)から2050年まで30年間にわたり横ばいで推移したと仮定した場合の累積の排出量である

Cは、その時の2050年における気温上昇を(1)を用いて計算したもの。備考のところで、3.67で割っているのは、TCREがトンCあたりで定義されているので、トンCO2あたりに直すためである。CO2の分子量が44 Cの分子量が12なので、3.67で割っている。

Dは、2050年にCO2をゼロにした場合の気温低下である。2021から直線的にCO2をゼロにするとなると、今後30年間の平均でのCO2の排出削減量はBの半分になるから、気温低下DCの半分になる。

Eは、(2)を用いて、1日で500mmの豪雨の降水量が、Dの気温低下によって、どれだけ減少するかを計算したものである。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)


3 計算結果とその意味

表から、日本全体で2050年にCO2ゼロを達成することによる気温の低下(D)は0.0065℃であり、つまり0.01℃にもならないことが分かった。またこのときの豪雨の減少(E)0.196mmであり、つまり1mmにもならないことが分かった。

なぜこのように僅かなのか。理由は2つある。

1は、温暖化は緩やかな変化だからだ。過去にも温暖化は起きてきたが、同じく緩やかであった。台風豪雨猛暑の何れにも、殆ど温暖化の影響は無かった

2は、日本の排出量は世界の内で僅かだからだ。図を見ると、日本の排出は世界の3%に過ぎないことが分かる。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • (見解は2016年11月18日時点。筆者は元経産省官房審議官(国際エネルギー・気候変動担当)) (IEEI版) 米大統領選当選でドナルド・トランプ氏が当選したことは世界中を驚かせた。そのマグニチュードは本年6月の英国のE
  • 日本国内の報道やニュースクリップ等々を見ると、多くの人は気候変動対策・脱炭素は今や世界の常識と化しているような気になってしまうだろう。実際には、気候変動対策に前のめりなのは国連機関・英米とそれに追随するG7各国くらいで、
  • グレタ・トゥーンベリの演説を聞いた人は人類の絶滅が迫っていると思うかもしれないが、幸いなことにそうではない。25日発表されたIPCCの海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)では、従来の気温上昇予測(第5次評価報告書)にもと
  • 著名なエネルギーアナリストで、電力システム改革専門委員会の委員である伊藤敏憲氏の論考です。電力自由化をめぐる議論が広がっています。その中で、ほとんど語られていないのが、電力会社に対する金融のかかわりです。これまで国の保証の下で金融の支援がうながされ、原子力、電力の設備建設が行われてきました。ところが、その優遇措置の行方が電力自由化の議論で、曖昧になっています。
  • シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCCでは北半球の4月の積雪面積(Snow
  • IPCCの気候モデルによるシミュレーションは、観測値と比較して温暖化を過大評価していることは以前にも何回か述べてきた。過大評価の程度は、地域・期間・高度などによって異なるが、米国の元NOAAのロイ・スペンサーが、特に酷い
  • 日経新聞によると、経済産業省はフランスと共同開発している高速炉ASTRIDの開発を断念したようだ。こうなることは高速増殖炉(FBR)の原型炉「もんじゅ」を廃炉にしたときからわかっていた。 原子力開発の60年は、人類史を変
  • (GEPR編集部より)サウジアラビアの情勢は、日本から地理的に遠く、また王族への不敬罪があり、言論の自由も抑制されていて正確な情報が伝わりません。エネルギーアナリストの岩瀬昇さんのブログから、国王の動静についての記事を紹介します。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑