防災白書が温暖化の悪影響を誇大に書いている
令和2年版の防災白書には「気候変動×防災」という特集が組まれており、それを見たメディアが「地球温暖化によって、過去30年に大雨の日数が1.7倍になり、水害が激甚化した」としばしば書いている。
だがこれはフェイクニュースである。
悪いのは防災白書だ。
まず記述を引用しよう。
「日降水量200mm以上の大雨の年間発生日数は増加しており、最近30年間(1990~2019年)と統計開始の30年間(1901~1930年)で比較すると約1.7倍となっているなど、大雨の頻度は強度と共に増加している」
そして以下の図が掲載してある。これは気象庁ホームページで見ることが出来る:

図1 過去45年間の大雨の傾向
これを見ると、確かに豪雨の日数が増える傾向があるように見え、今後も増大していきそうに見える。
しかし、じつはこの期間より前の1940年から1975年の間も、豪雨の日数の多い年は沢山あった。同じ気象庁ホームページのラジオボタンを操作すると、過去120年のデータをダウンロードできる:

図2 過去120年間の大雨の傾向
この図2でもまだ右肩上がりの回帰線が書いてあるが、図1よりもだいぶ緩やかである。それに、この図2の傾きは1940年以前のデータにだいぶ依存している。1940年以降を見れば、殆どフラットだ。
1940年以前に大雨が少なかった理由はよく分からないが、昔のことなので、誤差かもしれない。1940年頃に突然地球温暖化が起きたわけでもないから、1940年の前後の変化は自然変動であろう。
さて防災白書の「気候変動×防災」特集を読むと、図1だけを示して、如何にもこれが地球温暖化に起因するものであり、このせいで近年に水害が激甚化したかのように書いている。
だが、地球の気候を少しでも知っている人であれば、気候には数十年規模の振動が幾つもあるので、過去45年だけのデータから傾向を読み取ってはいけないことは解っているはずだ。
それを知らずに防災白書を書いたとしたらそれだけでも問題ありだが、おそらく知っていて書かなかったのであろう。というのは、図1の下には、もっと長い期間を見ないと、地球温暖化との関連は評価できない、とはっきり書いてあるからだ:

図3 気象庁ホームページ(図1)の注釈。赤線は筆者による
図3の気象庁ホームページ(図1)の注釈には、
「地球温暖化の影響の可能性はありますが、アメダスの観測期間は約40年と比較的短いことから、地球温暖化との関連性をより確実に評価するためには今後のさらなるデータの蓄積が必要です。」
と書いてある。
防災白書は、国民の命と財産を守るための重要な資料である。地球温暖化については、その影響を誇大に言ったり、誤解を招くデータを示したりするのではなく、正確を期するべきであろう。改善を要望する。
なお豪雨について筆者は何度かこのコラムで書いているので併せて参照されたい。

関連記事
-
日本の電力料金は高い、とよく言われる。実際のところどの程度の差があるのか。昨年8月に経済産業省資源エネルギー庁がHPに掲載した資料によれば、為替レート換算、購買力平価換算とも2000年時点では、日本の電力料金は住宅用・産業用とも他国と比較して非常に高かった。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新しました。
-
福島第一原発事故による放射線被害はなく、被災者は帰宅を始めている。史上最大級の地震に直撃された事故が大惨事にならなかったのは幸いだが、この結果を喜んでいない人々がいる。事故の直後に「何万人も死ぬ」とか「3000万人が避難しろ」などと騒いだマスコミだ。
-
先日、「国際貿易投資ガバナンスの今後」と題するラウンドテーブルに出席する機会があった。出席者の中には元欧州委員会貿易担当委員や、元USTR代表、WTO事務局次長、ジュネーブのWTO担当大使、マルチ貿易交渉関連のシンクタンク等が含まれ、WTOドーハラウンド関係者、いわば「通商交渉部族」が大半である。
-
厄介な気候変動の問題 かつてアーリは「気候変動」について次の4点を総括したことがある(アーリ、2016=2019:201-202)。 気候変動は、複数の未来を予測し、それによって悲惨な結末を回避するための介入を可能にする
-
明るいニュースは米国から:大学に新設されるマイクロリアクター 最近届いた明るいニュースでは、米国の大学構内に研究用のマイクロ原子炉が新設されるという。 今年4月2日に、米国のナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuc
-
欧米各国は、水素利用計画に熱心に取り組んでいる。例えばEUでは、2022年5月に欧州委員会が公表したREPowerEU計画において、2030年に水素の生産と輸入を各1000万トンとして、エネルギーのロシア依存を脱却すると
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難②) 田中 雄三 ドイツ事例に見る風力・太陽光発電の変動と対策 発展途上国で風力・太陽光発電の導入は進まない <問題の背景> 発展途上国が経済成長しつつGHGネットゼロを目指すな
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間