小泉進次郎環境相は日本経済の疫病神
このところ小泉環境相が、あちこちのメディアに出て存在をアピールしている。プラスチック製のスプーンやストローを有料化する方針を表明したかと思えば、日経ビジネスでは「菅首相のカーボンニュートラル宣言は私の手柄だ」と語っている。
私は安倍前政権下で環境大臣に就いて以降、さまざまな外交の現場で日本の気候変動政策がなかなか前に動いていないという批判を一身に受けてきました。環境大臣として、2050年までのカーボンニュートラル宣言を早くすべきだと政府に働きかけ続けていましたが、残念ながら安倍政権のうちに実ることはありませんでした。それが菅総理の宣言で大きく変わりました。
小泉氏といえば無内容な「ポエム」でネタになっていたが、今は内閣のカーボンニュートラル路線の中核として、急速に存在感を増している。ここでは菅首相の「2050年カーボンニュートラル」は自分の功績だと強調している。
正確にいうと、これを小泉氏と首相に売り込んだ黒幕は、経産省参与だった水野弘道氏である。彼はテスラの社外取締役である。それを週刊新潮に「利益相反ではないか」と指摘されて参与を辞任し、国連特使に転じた。
脱炭素は「経済成長のエンジン」になるのか
小泉氏はこういう。
これまで経済界にとって環境省とは、規制ばかりを唱える「経済成長の足かせ」のような存在でした。それが今や環境と経済成長の好循環を実現すべく、経団連と合意書を交わし、定期的に意見交換するまでになっています。日本は一度方向が決まると変化が速い。
「環境と経済の好循環」という言葉は、安倍前総理も使っていました。環境はコストでなく、経済成長のエンジンであり源泉であると。菅総理はそれを明確に成長戦略の柱に、政権の看板政策に置きました。
これは日経新聞がはやしている「カーボンゼロ」キャンペーンと同じだが、それが「経済成長のエンジン」とはどういう意味か。脱炭素で成長率は上がるのだろうか。
たとえば日本製鉄は、カーボンニュートラル製鉄プロセスを発表した。常識で考えて、石炭を燃やしている高炉のCO2排出がゼロになるとは思えないが、それをカーボンフリー水素でやるという。電炉はカーボンフリー電力でやる。
それでもCO2排出はゼロにはならないので、これはCCUS(炭素貯留)でやるという。つまりカーボンフリー水素とカーボンフリー電力とCCUSという「3つの外部条件」がないと「カーボンニュートラル製鉄」はできないのだ。
これが小泉氏のいうイノベーションだが、それは成長を促進する「好循環」になるのだろうか。日鉄によると、ゼロカーボン製鉄には5000億円の技術開発費がかかるが、2050年の製鉄コストは2倍以上になるという。コストが2倍になって成長する産業があるだろうか。
製造業の「空洞化」が加速する
日鉄はカーボンニュートラル製鉄と同時に、今後5年間で2兆4000億円の設備投資で海外生産を増強する計画を発表した。同時に国内では高炉の休止を加速し、国内外の生産比率が逆転するという。
つまり脱炭素化は製造業の空洞化なのだ。それは資本主義としては当然である。資本に国境はないので、最小コストで生産できる拠点を求めて資本はグローバルに移動し、その利益が株主に還元されればいい。規制でコストが上がるなら、規制のないアジアに生産拠点を移すことが日鉄の株主にとっては合理的だ。
しかし国内の雇用は失われ、賃金は下がり、新しい雇用は非正社員になる。それが2000年代以降、日本経済が停滞し、デフレになった最大の原因だが、脱炭素化はそれを加速するのだ。
これが「カーボンニュートラル」で起こることだが、小泉氏はそういう経済のメカニズムを何も知らないで「今一番ホットな市場、伸びていく市場で勝負していく必要がありますが、日本はガラパゴスへの道をぎりぎりで踏みとどまった」と言っている。
これは日経新聞の「カーボンゼロ」キャンペーンの振りまいている幻想だが、カーボンニュートラル投資なるものは日鉄の例でもわかるようにコストを倍増する投資であり、補助金なしでは実現できないのだ。
しかも日鉄でさえ外部条件として「カーボンフリー水素」や「カーボンフリー電力」を前提にしている。水素のコストは石炭の5倍であり、カーボンフリー電力は原子力なしでは不可能だ。やろうと思うと、毎年100兆円以上のコストが必要になる。
このようにカーボンニュートラルは、本当にやったらGDPの20%以上の莫大なマイナス成長をもたらすのだ。日経のようにそれを知った上で幻想を振りまくのは詐欺だが、小泉氏のようにそれにだまされて国家権力を振り回すのは、日本経済を滅ぼす疫病神である。
このところ小泉環境相が、あちこちのメディアに出て存在をアピールしている。プラスチック製のスプーンやストローを有料化する方針を表明したかと思えば、日経ビジネスでは「菅首相のカーボンニュートラル宣言は私の手柄だ」と語っている。

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