米国に三度も梯子を外される愚かなCO2外交は避けろ

2021年04月28日 11:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

米国では温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生し、早速4月22日に気候サミットを主催することになった。これに前後してバイデン政権は野心的なCO2削減目標を発表すると憶測されている。オバマ政権がパリ協定合意時に提出した数値目標は2005年を基準として2025年までに26%ないし28%の削減というものだったが、これを深堀りするというものだ。

Petmal/iStock

日本でも、米国に合わせて数値目標を深堀りしようという意見がある。日本はいつも米国と横並びにしてきた。1997年に京都議定書に合意した時は米国の7%より1%だけ少ない6%だった。2015年にパリ協定に合意した時は米国と全く同じ26%だった。因みに基準年等の勘定方法が違うので数字の意味は全く異なる。見掛け上の数字と知りながらここまで合わせる涙ぐましさだ。

執筆時点ではバイデン政権がどのような数字を言うか分からない。だが何れにせよ、安易に追随するのは極めて危険だ。というのは、ほぼ確実に空約束になるからだ。

これには前例がある。京都合意の時も、パリ合意の時も、民主党政権は数値目標に国際合意したが、米国はやがて離脱した。京都合意の時は議会の支持が得られなかった。パリ協定の時は政権交代で離脱した。民主党政権に歩調を合わせた日本は、二度も梯子を外された。

今回もバイデン政権は議会の支持を得られない。

理由であるが、まず議会のほぼ半分を占める共和党はそもそも「気候危機」なる説を信じていない。NASAで地球気温の衛星観測を率いたジョン・クリスティ等の超一流の研究者が、毎年議会で証言し、ハリケーン等の災害の激甚化など全く起きていないこと、温暖化予測モデルが過去の再現すら出来ていないこと等を、ファクツに基づいて明確に説明しているからだ。共和党寄りのメディアであるフォックス・ニュースやブライトバートもこれを正確に報じている。徒らに気候危機だと煽るCNN等の民主党寄りメディアとは全く違う。

のみならず、米国は世界一の産油国・産ガス国であり、世界一の石炭埋蔵量を誇る。化石燃料産業は雇用も多い。民主党議員であっても自州の産業の為には造反し、共和党議員と共に温暖化対策に反対票を投じる。

このため環境税や排出量取引などの規制は議会を通ることは無い。米国はCO2を大きく減らすことは出来ないのだ。

従って、今後バイデン政権が野心的な数値目標を出した場合、日本は要注意である。歩調を合わせて日本も深堀りすると、またもや梯子を外されることになる。

米国との協力は、民主党・共和党が超党派で推進できることに絞るべきだ。これにはクリーンコール技術や原子力についての技術開発協力がある。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 世の中には「電力自由化」がいいことだと思っている人がいるようだ。企業の規制をなくす自由化は、一般論としては望ましいが、民主党政権のもとで経産省がやった電力自由化は最悪の部類に入る。自由化の最大の目的は電気代を下げることだ
  • 米国政府のエネルギー情報局(EIA)が、9月4日付で興味深いレポートを発表した。レポートのタイトルは「米国産の火力発電向け石炭輸出は欧州向けが減る一方、アジアとアフリカ向けが急増」である※1)。 ここでは米国からの火力発
  • 福島第1原発のALPS処理水タンク(経済産業省・資源エネルギー庁サイトより:編集部)
    トリチウムを大気や海に放出する場合の安全性については、処理水取り扱いに関する小委員会報告書で、仮にタンクに貯蔵中の全量相当のトリチウムを毎年放出し続けた場合でも、公衆の被ばくは日本人の自然界からの年間被ばくの千分の一以下
  • 拝啓 グーグル日本法人代表 奥山真司様 当サイトの次の記事「地球温暖化って何?」は、1月13日にグーグルから広告を配信停止されました。その理由として「信頼性がなく有害な文言」が含まれると書かれています。 その意味をグーグ
  • 広島、長崎の被爆者の医療調査は、各国の医療、放射能対策の政策に利用されている。これは50年にわたり約28万人の調査を行った。ここまで大規模な放射線についての医療調査は類例がない。オックスフォード大学名誉教授のW・アリソン氏の著書「放射能と理性」[1]、また放射線影響研究所(広島市)の論文[2]を参考に、原爆の生存者の間では低線量の被曝による健康被害がほぼ観察されていないという事実を紹介する。
  • 先日紹介した、『Climate:The Movie』という映画が、ネット上を駆け巡り、大きな波紋を呼んでいる。ファクトチェック団体によると、Xで150万回、YouTubeで100万回の視聴があったとのこと。 日本語字幕は
  • 「手取りを増やす」という分かりすいメッセージで躍進した国民民主党が自公与党と政策協議をしている。最大の焦点は「103万円の壁」と報道されている。 その一方で、エネルギーに関しては、国民民主党は原子力発電の推進、ガソリン税
  • 洋上風力発電事業を巡る汚職事件で、受託収賄容疑で衆院議員、秋本真利容疑者が逮捕された。捜査がどこまで及ぶのか、今後の展開が気になるところである。各電源の発電コストについて、いま一度確認しておきたい。 2021年8月経済産

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑