CO2は中国問題だとの認識こそ日米会談で共有すべきだ

2021年04月28日 11:11
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

菅首相の16日の訪米における主要議題は中国の人権・領土問題になり、日本は厳しい対応を迫られると見られる。バイデン政権はCO2も重視しているが、前回述べた様に、数値目標の空約束はすべきでない。それよりも、日米は共有すべき重要な認識がある。

Naeblys/iStock

第1に、CO2は中国の問題だ、という事だ。

中国の第14次5カ年計画の草案が3月に発表されて、CO2については2025年までの5年間でGDPあたりの排出量を18%削減する、としている。経済成長が年率5%とすると、2025年の排出量は2020年に比べて10%増大する、という意味になる。この増加量は12億トンもあり、日本の現在の年間排出量とほぼ同じである(1)。

図1 CO2等の温室効果ガス排出量。左から順に、中国の2020年の年間排出量、2025年の年間排出量、その間の増加量、そして日本の2020年の年間排出量。

中国は膨大な石炭を使って、安価な電力を供給し、鉄鋼やセメントを生産している。これによって道路、ビル、工場などのインフラを建設している。太陽光発電パネルや電気自動車用のバッテリーも、石炭を大量に利用した結果として安価に製造され、世界中に輸出されている。

バイデン政権がCO2を減らしたいなら、中国こそが問題なのだ。人権・領土問題と共に、CO2も中国の問題として論じ、その異形の台頭を挫くべきだ。

第2に米国と共有すべきは、温暖化対策が日本と自由諸国に及ぼす害の認識だ。

日本のCO2数値目標を深堀りすると、石炭利用が困難になる。石炭の主な用途は発電と製鉄だ。

日本の石炭火力は全て合計しても約5000万キロワットだが、中国はこれを上回る石炭火力を僅か1年で建設している。日本がCO2を理由に石炭火力を減らすのは馬鹿げている。粗鋼生産量では中国は日本の10倍以上もあるのみならず、日本の製鉄業は年々空洞化している。日本がコストをかけてまでCO2を減らすのは愚策だ。

日本は中国と対峙している。自由、民主といった普遍的価値を守り、領土を保全するためには、経済力を含めた総合的な国力が必要だ。このためには、安定・安価な石炭火力発電や製造業の基幹である製鉄業は堅持すべきだ。

民主党のケリー気候変動特使は海外の石炭火力事業からの日本の撤退も求めている模様だが、これも有害だ。そもそも貧しい国々の経済開発の機会を奪うことは道義にもとる。のみならず、既に世界の石炭火力事業の半分以上を手掛けている中国に乗じる機会を与えてしまう。既に、中国を除く世界全体の石炭火力の4分の1は中国によってファイナンスされている、との報告がある(2)。日本などの自由諸国の石炭火力事業からの撤退は、単に中国に事業を譲るだけになってしまう。

化石燃料を使用するなという理不尽を米国が宣教師的に押し付ける程に、権威主義的な諸国はますます中国に傾斜し、自由主義的な諸国は経済開発できず弱体化する。何たる愚策であろうか。

図2 石炭火力に対する中国のファイナンス(赤マル)

2019年時点で、中国は102ギガワット(原子力発電所約102基分)の海外事業に360億ドル(約3.6兆円)のファイナンスをしていた。これは中国以外の世界で進行中だった事業の4分の1以上にあたる。図はIEEFAによる

 

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • このところ小泉環境相が、あちこちのメディアに出て存在をアピールしている。プラスチック製のスプーンやストローを有料化する方針を表明したかと思えば、日経ビジネスでは「菅首相のカーボンニュートラル宣言は私の手柄だ」と語っている
  • 鹿児島県知事選で当選し、今年7月28日に就任する三反園訓(みたぞの・さとし)氏が、稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)について、メディア各社に8月下旬に停止を要請する方針を明らかにした。そして安全性、さらに周辺住民の避難計画について、有識者らによる委員会を設置して検討するとした。この行動が実現可能なのか、妥当なのか事実を整理してみる。
  • 前回お知らせした「非政府エネルギー基本計画」の11項目の提言について、3回にわたって掲載する。まずは第1回目。 (前回:強く豊かな日本のためのエネルギー基本計画案を提言する) なお報告書の正式名称は「エネルギードミナンス
  • 「ございません・・・」 28日の両院議員懇談会を終えても、石破首相の口から出てくるのは〝(続投の意思に変わりは)「ございません」〟の一点張りである。 選挙3連敗、意固地な石破氏の元に自民党はその中核部分からどんどんじわじ
  • 朝日新聞に「基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均」という記事が出ているが、送電線は8割も余っているのだろうか。 ここで安田陽氏(風力発電の専門家)が計算している「利用率」なる数字は「1年間に送電線に流せる電気の最
  • 東京で7月9日に、新規感染者が224人確認された。まだPCR検査は増えているので、しばらくこれぐらいのペースが続くだろうが、この程度の感染者数の増減は大した問題ではない。100人が200人になっても、次の図のようにアメリ
  • イタリアがSMRで原子力回帰 それはアカンでしょ! イタリアがメローニ首相の主導のもとに原子力に回帰する方向だという。今年5月に、下院で原発活用の動議が可決された。 世界で最初の原子炉を作ったのはイタリア出身のノーベル物
  • やや古くなったが、2008年に刊行された『地球と一緒に頭を冷やせ! ~ 温暖化問題を問いなおす』(ビョルン・ロンボルグ著 ソフトバンククリエイティブ)という本から、温暖化問題を考えたい。日本語訳は意図的に文章を口語に崩しているようで読みづらい面がある。しかし本の内容はとても興味深く、今日的意味を持つものだ。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑