「2050年ネットゼロ」で電気代は2倍になり、製造業は消える

2021年05月17日 10:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

第6次エネルギー基本計画の検討が始まった。本来は夏に電源構成の数字を積み上げ、それをもとにして11月のCOP26で実現可能なCO2削減目標を出す予定だったが、気候変動サミットで菅首相が「2030年46%削減」を約束してしまったので、それと整合的な電源構成を考えるのは大変だ。

46%削減は「2050年ネットゼロ」(温室効果ガス排出実質ゼロ)の論理的な帰結だが、それを資本主義で実現するのは不可能だ。地球環境産業技術研究機構(RITE)の計算した2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(中間報告)では、次のようなシナリオが提示されている。

電力コストについては、2020年の13円/kWh程度の2倍程度に増加すると予想している。計算のくわしい前提条件は報告書を読んでいただくとして結論だけみると、コスト最小なのはシナリオ③の原子力50%の場合だが、それでも電力コストは19.5円/kWhと現在の1.5倍。小売りの電気代は、これに約10円の託送料が上乗せされる。

コストが最大なのは再エネ100%のシナリオ①(参考値から除外)で、電力コストは53.4円になる。それは論外としても、グリーン成長戦略で描いている再エネ50~60%のシナリオで、電力コストが2倍になる影響は大きい。

他方、現在の中国の電気代(売電価格)は6.45円/kWhと日本の1/3。2030年までには原発を100基稼働し、電気代が3円ぐらいになる見通しだ。日本の電気代が30円以上になると、10倍以上の差がつく。

製造業の生産拠点は国内から消える

そうなると確実に起こるのは、製造業の空洞化である。トヨタ自動車の豊田社長が警告しているように、日本車が輸出できなくなると、自動車関連産業の雇用550万人のうち100万人が失われるおそれがある。

自動車だけではなく、電力集約型産業の多くが国際競争力を失う。鉄鋼では石炭を使う高炉は撤退するが、電炉も電力コストが2倍になると、国内では生産できなくなる。それ以外の精錬業も全滅し、シリコン製造業も日本から消えるだろう。

かつて日本には世界第2位の生産量を誇るアルミ精錬業があったが、石油ショックで電気代が1973年の4円/kWhから1980年に17円まで上がったため、国内から撤退し、1987年にはほぼゼロになった。

日本のアルミ供給の変遷(日本アルミニウム協会)

電気代がこれ以上あがると、同じことがすべてのエネルギー集約産業に起こる。1980年代には日本の重厚長大産業は、エネルギー価格の変化に海外移転で対応し、空き地になった京浜工業地帯はウォーターフロントとして再開発されたが、その夢はバブルとともに消えた。

2000年以降の空洞化では雇用が失われ、賃金が下がって「デフレ」が続いた。それが失われた30年の最大の原因だが、空洞化を促進するネットゼロは、日本経済を停滞から衰退に追い込むだろう。

This page as PDF

関連記事

  • 先日、朝日新聞の#論壇に『「科学による政策決定」は隠れ蓑?』という興味深い論考が載った。今回は、この記事を基にあれこれ考えてみたい。 この記事は、「世界」2月号に載った神里達博氏の「パンデミックが照らし出す『科学』と『政
  • 国連気候変動枠組み交渉の現場に参加するのは実に2 年ぶりであったが、残念なことに、そして驚くほど議論の内容に変化は見られなかった。COP18で、京都議定書は第2約束期間を8年として、欧州連合(EU)・豪などいくつかの国が参加を表明、2020年以降の新たな枠組みについてはその交渉テキストを15年までに固めることは決定した。
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 日本では「ノーベル賞」は、格別に尊い存在と見なされている。毎年、ノーベル賞発表時期になるとマスコミは予想段階から大騒ぎで、日本人が受賞ともなると、さらに大変なお祭り騒ぎになる。
  • 台湾が5月15日から日本からの食品輸入規制を強化した。これに対して日本政府が抗議を申し入れた。しかし、今回の日本は、対応を間違えている。台湾に抗議することでなく、国内の食品基準を見直し、食品への信頼感を取り戻す事である。そのことで、国内の風評被害も減ることと思う。
  • アゴラ・GEPRは、NHNJapanの運営する言論サイトBLOGOS 、またニコニコ生放送を運営するドワンゴ社と協力してシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を11月26、27日の2日に渡って行いました。
  • 小型モジュラー炉(Small Modular Reactor)は最近何かと人気が高い。とりわけ3•11つまり福島第一原子力発電所事故後の日本においては、一向に進まない新増設・リプレースのあたかも救世主のような扱いもされて
  • 4月の日米首脳会談では、炭素税(カーボンプライシング)がテーマになるといわれています。EU(ヨーロッパ連合)は今年前半にも国境炭素税を打ち出す方針で、アメリカのバイデン政権も、4月の気候変動サミットで炭素税を打ち出す可能
  • 以前にも書いたが、米国共和党は、バイデンのグリーン・ディールが米国の石油・ガス産業を弱体化させ、今日の光熱費高騰、インフレ、そしてロシア依存を招いたことを激しく批判している。 今般、ノースダコタ州のダグ・バーガム知事をは

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑