エセ科学に基く脱炭素はサブプライムローンに似る(上)
「2030年までにCO2を概ね半減し、2050年にはCO2をゼロつまり脱炭素にする」という目標の下、日米欧の政府は規制や税を導入し、欧米の大手企業は新たな金融商品を売っている。その様子を観察すると、この「脱炭素ブーム」はサブプライムローンのブームとよく似ている。となると、その結末も同じことになるかもしれない。
2回に分けて書こう。なお、以下文中の青いボックス内記述がサブプライムローンの話、緑のボックス内記述が脱炭素の話になっている。
<上巻・歴史編>
1. 主役は欧米の金融機関
以下、両者の共通点を見てゆこう。まず、何れも主役は欧米の投資銀行などだ。
サブプライムローンで巨額の損失を抱えたのは、シティグループ、JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザースなどの欧米の投資銀行や証券会社などだった。
同じような顔ぶれの企業が、ESG投資ファンドやグリーンボンドなど「CO2の削減に資する」とされる金融商品を次々と開発して販売している。環境に優しいという触れ込みで富裕層には人気があるらしい。年金ファンドなどの公的金融機関もそのような金融商品を購入している(以上の経緯は藤井良広著「サスティナブルファイナンス」に詳しい)。
2. 似非科学で人を煙に巻く
サブプライムローンは、所得が低くて返済能力が乏しい人に無理に巨額の住宅ローンを勧めるものだった。銀行とは本来は慎重な審査をするもので、そのような危なっかしい融資はしない。
だが怪しげなローンを多数まとめて証券化すればリスクが低くなるという金融工学の理論によってそのような貸し付けが正当化された(山崎元氏記事、加藤峰弘氏記事)。
格付け機関はそのような怪しげな証券の格付けを高くした(根津利三郎氏記事)。
多くの投資家がその中身も解らずに格付けを信じて証券を購入した。
“地球温暖化の「科学は決着」しており、このままだと地球温暖化が暴走して破局が訪れる。これを避けるためには2030年にCO2を半減、2050年にCO2をゼロにしなければならない”――という説が流布されているが、そんな極端なCO2削減を正当化するほどの科学的知見はどこにもない。
これまでのところ、台風やハリケーンは激甚化などまったくしていないことは統計を見れば明らかだ。将来予測はコンピューターシミュレーションによるものだが、過去もろくに再現できないシミュレーションであり、将来を予言する能力など無い。
3. ホラ話でブームを煽る
サブプライムローンは、「素晴らしい金融工学の発明のおかげで、所得の低い人でも豪華なマイホームを購入できるようになり、投資家には新たな低リスク・高リターンの投資が提供されるようになった」と宣伝された。
「気候変動は起きており、災害は激甚化しており、このままでは地球が破滅する」という不吉な予言は、BBC、ドイツ国営放送、CNN、NHKなどのリベラルメディアによって振りまかれ、それを信じる人々が多くなってしまった。
サブプライムローンも脱炭素も、本当に良いことだと思って推進してきた人も大勢いる。けれども、私利私欲で推進してきた人も大勢いる。そして、知ってか知らずか、結局のところは集団幻想を振りまき、社会の害毒となっている。
4. 政府に圧力をかけて自分が儲かるようにする
欧米の金融機関は、閣僚や高級官僚にも人を送り込み、サブプライムローンに対する監督強化を行わせなかった。むしろ、規制を少しでも緩和して、利益が増えるように圧力をかけた。
“市場秩序の維持や情報開示の徹底を図るべき米国証券取引委員会(SEC)や英国金融サービス機構(FSA)が,自国の金融市場の振興役になった。規制監督当局は,金融業者による制度裁定の脅しに屈し政府自身の役割を放棄した(渡部亮氏記事)“。
いま多くの金融機関が、CO2削減のために炭素税を導入し、再生可能エネルギーと電気自動車には莫大な補助金をばらまくよう、政府に要望をしている。これは、庶民の負担のもとで、自分たちが儲ける構図を作ることに他ならない。
ESG投資に関しては金融機関への規制を緩めるべきだという意見も出ている。ただしこれは金融システムの安定性を損なうとして、まだ慎重論も多いようだ。
次回は下巻・未来編を書く。
■

関連記事
-
福島第1原発事故以来、日本では原発による発電量が急減しました。政府と電力会社は液化天然ガスによる発電を増やしており、その傾向は今後も続くでしょう。
-
国際環境経済研究所(IEEI)版 衝撃的な離脱派の勝利 6月24日、英国のEU残留の是非を問う国民投票において、事前の予想を覆す「離脱」との結果が出た。これが英国自身のみならず、EU、世界に大きな衝撃を与え
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
環境団体による石炭火力攻撃が続いている。昨年のCOP22では日本が国内に石炭火力新設計画を有し、途上国にクリーンコールテクノロジーを輸出していることを理由に国際環境NGOが「化石賞」を出した。これを受けて山本環境大臣は「
-
IPCC報告には下記の図1が出ていて、地球の平均気温について観測値(黒太線)とモデル計算値(カラーの細線。赤太線はその平均値)はだいたい過去について一致している、という印象を与える。 けれども、図の左側に書いてある縦軸は
-
昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。 何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。 気候モデルが過去を再現できないという話は何度
-
1996年に世界銀行でカーボンファンドを開始し、2005年には京都議定書クリーン開発メカニズム(CDM)に基づく最初の炭素クレジット発行に携わるなど、この30年間炭素クレジット市場を牽引し、一昨年まで世界最大のボランタリ
-
先日、グテーレス国連事務総長が「地球は温暖化から沸騰の時代に入った」と宣言し、その立場を弁えない発言に対して、多くの人から批判が集まっている。 最近、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の新長官として就任したジム・ス
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間