日本企業はESG対応を理由に金融機関を逆選別すべきだ
7月2日に掲載された杉山大志氏の記事で、ESG投資の旗を振っている欧米の大手金融機関が人権抑圧にはお構いなしに事業を進めていることを知り衝撃を受けました。企業のCSR/サステナビリティ担当者は必読です。
欧米金融機関が、人権抑圧にはお構いなしに香港に投資を続け、結果として香港における人権抑圧を容認してしまっている。
この欧米金融機関の行動が中国に送っているメッセージは深刻だ。「人権侵害をしても、香港ひいては中国の経済に悪影響は無い」というメッセージを送ってしまっているのだ。
ESGのSは社会であり、人権は当然含まれる。ESGのGは企業ガバナンスであり、企業経営の健全性が問われる。
日頃、日本企業にESG対応と称してSやGを迫っている金融機関も所詮この程度の倫理観しか持ち合わせていないということです。我々企業人が深刻に受け止めなければならないのは、これらの金融機関を経由して、間接的に日本企業や個人投資家が香港における人権抑圧を容認し「香港での人権抑圧は問題ない」という中国へのメッセージに加担していることにつながる点です。

CHUNYIP WONG/iStock
もしも、自社のウェブサイト上でESG、SDGs、サステナビリティ等をうたっているのであればこれは看過できないはずです。
そこで、少なくともここに挙がっている欧米金融機関から今後ESGに限らずあらゆる調査表やエンゲージメントの要請が届いても回答を拒否すべきではないでしょうか。また、さらに一歩進んだ対応を選択するのであれば、自社が投資銘柄に組み込まれているかを調べて、全て外すよう要請してはどうでしょうか。ダイベストメントの逆で、資金提供を受ける側が金融機関を逆選別するのです。自社の経営戦略や長期目標などでESG、SDGsを掲げているのであれば、間接的であっても人権抑圧に加担することはできないはずです。
一時的に株価は下がるかもしれませんが、従業員の会社に対するロイヤルティや業務への士気は格段に上がり生産性の向上につながります。そして、連日報道されているように株主や投資家全体がESGを志向しているのであれば、他の投資家が殺到して株価もすぐに戻るはずですし、従前よりも上がることだって期待できます。
「当社は人権抑圧に与する金融機関からの融資なんて結構。本気で持続可能な社会の構築をめざす金融機関としか取引しない。」
これくらいのことを言える気骨のある経営者が出てきてほしいものです。

関連記事
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難②) 田中 雄三 ドイツ事例に見る風力・太陽光発電の変動と対策 発展途上国で風力・太陽光発電の導入は進まない <問題の背景> 発展途上国が経済成長しつつGHGネットゼロを目指すな
-
ロシアによるドイツ国防軍傍受事件 3月2日の朝、ロシアの国営通信社RIAノーボスチが、ドイツ国防軍の会議を傍受したとして、5分間の録音を公開した。1人の中将と他3人の将校が、巡航ミサイル「タウルス」のウクライナでの展開に
-
3月11日に行われた日本自動車工業会の記者会見で、豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は「今のまま2050年カーボンニュートラルが実施されると、国内で自動車は生産できなくなる」と指摘した。キーワードはライフサイクルアセスメン
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあった
-
「2年10ヶ月の懲役刑」というのが、ノートライン=ヴェストファーレン州のボッフム州立裁判所が7月1日に下した判決だった。被告は、医師であるハインリヒ・ハービク氏、67歳。裁判長ペトラ・ブライヴィッシュ=レッピング氏によれ
-
世の中には「電力自由化」がいいことだと思っている人がいるようだ。企業の規制をなくす自由化は、一般論としては望ましいが、民主党政権のもとで経産省がやった電力自由化は最悪の部類に入る。自由化の最大の目的は電気代を下げることだ
-
「複合災害の記憶と教訓を将来に引き継ぐ」 こう銘打たれ、2020年9月20日に「東日本大震災・原子力災害伝承館」が福島県双葉郡双葉町にオープンした。 原子力災害と復興の記録や教訓の「未来への継承・世界との共有」 福島にし
-
米国農業探訪取材・第3回・全4回 第1回「社会に貢献する米国科学界-遺伝子組み換え作物を例に」 第2回「農業技術で世界を変えるモンサント-本当の姿は?」 技術導入が農業を成長させた 米国は世界のトウモロコシ、大豆の生産で
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間