太陽光発電を増やせばCO2排出が減るという幻想

2021年07月20日 07:00
櫻井 三紀夫
エネルギー問題に発言する会 元日立製作所

政府が「2030年温室効果ガス46%削減」という目標を発表したことで、責任を感じた?小泉環境相が、「2030年までに太陽光発電の規模を2000万kW積み増して、1億800万kW以上にする」という方針を提示した。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーはCO2削減策の中心に置かれているが、その効果に関しては多くの誤解、あるいは、幻想がある。

この機会に、誰でもできる四則演算で、どういう幻想が潜んでいるのかを探ってみたい。

DiyanaDimitrova/iStock

まず第1点目は、まさに、太陽光発電を増やせばCO2排出が減る、という幻想である。そもそも、太陽光発電とは、天気が良ければ発電し電力量(kWh)が稼げるが、天気が悪くなれば発電しなくなり電力不足を生じ、それを補うために火力発電がスタンバイしていなければならない。1億800万kWの太陽光発電があれば、1億800万kWの火力がスタンバイしていなければならない。そして、毎日夜があり、週の半分は曇り・雨だから、火力は本当に稼働している。つまり、いくら太陽光発電を大量に建設しても、それと同量の火力発電の運転が必要になるので、CO2は減っていかない。これが現時点の実情である。ドイツがあれだけ太陽光を推進してもCO2排出が減っていないのはこのためである。

数字的には、1990年ごろ太陽光発電がゼロだった時期の日本のCO2排出量は年間11.6億トン、それが、2020年現在、日本では太陽光発電が6000万kW建設されて、世界第3位(*)の太陽光発電大国になり、全発電設備量2億7000万kWの22%を占める状態になっても、CO2排出量はやはり年間11.1億トンで、4%しか低減されていない。

    (*)1位:中国 2位:アメリカ 3位:日本 4位:ドイツ 5位:インド

第2点目は、火力のバックアップを使わずに、蓄電池で夜間・曇り・雨の日の送電を賄えるという幻想である。将来、蓄電池技術が向上して、生産量的にもコスト的にも国家規模で蓄電池が使えるようになるだろうから、火力無しでやっていけるという考え方である。その考えを数字で示すと以下のようになる。

まず、1日分の電力で考えてみる。昼間の太陽光1億800万kWの内、半分(=5400万kW)を直接送電に回し、残り半分(=5400万kW)を充電に回して、それを夜の電力として送電することにする。この場合、昼・夜の時間を年間平均で12時間づつと近似して、5400万kWで昼12時間分(=6億4800万kWh)充電できる蓄電池が必要である。蓄電池は、5kgで0.5kWh程度の蓄電能力であることから、6億4800万kWh/(0.5kWh/5kg)=64億8000万kg=648万トンの蓄電池を必要とする。

1日分の電力でこれだけ必要だが、天候は通常、1週間程度の周期で変化しているので、週に4日の晴れ、3日は曇り・雨と考えると、4日の昼間12時間が発電可能、4日の夜間12時間と3日の24時間が発電不可能となるので、必要な蓄電池の量は以下のような数字になる。

晴れの4日の12時間の発電(=48時間分)で、夜と曇り・雨の時間(=4日x12時間+3日x24時間)=120時間分の電力を蓄える必要がある。これを実現するには、(1週間=168時間の内、48時間=28%、120時間=72%であるから)昼間の1億800万kWの内、28%(=3000万kW)を直接送電に回し、残り72%(=7800万kW)を充電に回して、それを夜・曇り・雨の日に送電することになる。この場合、7800万kWで48時間分の電力=37億4000万kWh充電できる蓄電池が必要である。それは、37億4000万kWh/(0.5kWh/5kg)=374億kg=3700万トンの蓄電池を必要とする、ということである。

3700万トンの蓄電池がどのくらい大量なものかを実感するには、電気自動車と比べてみるのが良い。例えば、テスラの電気自動車1台に乗せる蓄電池がおよそ0.5トンであるから、3700万トンは電気自動車7400万台分の蓄電池が必要ということになる。テスラの車生産台数は2020年に約58万台だったので、これは130年分の蓄電池ということである。

テスラ 電気自動車搭載の蓄電池(1台分) TESLA MOTORS CLUB資料より

つまり、太陽光発電は、1億800万kWの発電設備と3700万トンの蓄電池を備えても、昼夜・晴雨を通した送電能力は(上記のように)3000万kWにしかならない。強烈に高い電力料金が国民を待ち受けていることだろう。

加えて、3700万トンの蓄電池を造るには、その原料となるコバルト酸リチウムやリチウム電解質が大量に必要であり、コバルトやリチウムという稀少金属を何百万トンも集めなくてはならない。

コバルトは、コンゴで中国資本が採掘(世界シェア70%)し、中国で精錬(同70%)しており、世界の生産量は年11万トン(2016年)である(それしか無い)。リチウムは、チリ・オーストラリア・中国などで採掘し、中国で精錬(同80%)という寡占状態にあり、世界の生産量は年22万トン(2017年)である(それしか無い)。

チリのリチウム採掘現場(アタカマ塩原) SankeiBiz資料より

世界中が蓄電池に頼る動きをしていて需要が40倍に膨らむだろうと考えられるコバルト・リチウムを、日本が独占的に購入できるはずはなく、政治力競争・価格競争の争奪戦を演じてどれだけの原料を確保できるか、に掛かってくる。

まさに、「コロナワクチン敗北」してワクチン接種に後れを露呈した日本は、まもなく、「エネルギー・蓄電池敗北」して、蓄電池の不足する社会、すなわち、晴れた日だけフルパワー・フル操業、曇り・雨の日は停電あるいは時短操業、という産業失速社会を露呈することになるだろう。

第3点目は、昼間太陽光が発電した分、化石燃料の消費が確実に減る(=CO2の排出が減る)という幻想である。確かに晴れの日には、1億800万kWの発電が行われ、その時化石燃料の消費は減っている。しかし、充分な蓄電ができない段階にある今後何十年間は、ずっと夕方には、1億800万kW分の火力を立ち上げなければならない。高温機械である火力は昼間も暖機運転しておく必要があるし、運転員も一日単位で発電所に詰めていなければならない。(実は、曇り・雨対応のため、時間単位で詰めている)。

そういう、電力料金収入にならないスタンバイ状態の維持に多大なコストが掛かるので、発電会社は、火力発電設備の維持経営ができなくなってきている。つまり、火力のスタンバイが不足する状況になりつつある(ドイツでは、既に火力のスタンバイは期待できないところまできている)。

火力の維持ができず停止されれば、太陽光の曇り・雨・夜を救う電源が不足するので、太陽光発電自身を減らさなければならなくなる。つまり、太陽光発電の拡大で一旦はCO2排出が減ったように見えても、それは火力を撲滅する方向に機能するので、まもなく太陽光自身を減らさざるを得ない方向に働く力となる。従って、CO2の排出が減る状況は持続できないのである。

以上3つの点から、「太陽光発電を増やせばCO2排出が減るというのは幻想」であることが分かる。2030年、2050年温暖化ガス削減目標は、このような幻想を中心軸において計画されており、温暖化防止に何の効果も出ないまま未完に終わることが目に見えている。

なお、ここまで風力発電については触れて来なかったが、風まかせな風力は天気まかせな太陽光とほとんど同じ現象を呈する。故に、同じ火力スタンバイ問題と蓄電池の問題に帰結する。

以上のことより、CO2排出を目標目指して削減するためには、安定電源でCO2排出がない原子力発電を本格的に稼働させること(寿命延長・増設・新設を含めて)が必要不可欠なのである。

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櫻井 三紀夫
エネルギー問題に発言する会 元日立製作所

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