SDGsウォッシュを見極める方法
SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)については、多くの日本企業から「うちのビジネスとどう関連するのか」「何から手を付ければよいのか」などといった感想が出ています。こうした悩める企業への回答として、SDGsのコンサルタントからは「どの目標に貢献しているかを整理すればよいのです」「御社はすでに3つもSDGsに貢献していることが分かりましたね!素晴らしい!」などの指導がなされます。その後、その企業は何も行動を変えることなく、胸に17色のバッジを着けるだけで高額なコンサル料を支払って満足しているのが実態です。

SB/iStock
さて、SDGsの前文には有名なこの文章があります。
すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する。我々は、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒やし安全にすることを決意している。我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。
(外務省webサイトより抜粋。太字は筆者が追加。)
「誰一人取り残さない」がクローズアップされがちですが、筆者は「緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとる」ことこそがSDGsの本質だと考えています。つまり、現在の人類の行動や企業活動は持続可能ではないので、行動を変革することこそがSDGsの目的のはずなのです。しかしながら、現実には何ら行動変革を伴わず、「我が社はSDGsに貢献しています」と喧伝する事例ばかりが再生産されています。
このように、何ら行動が変わっていないのにwebサイトやサステナビリティ報告書等でSDGsの17項目と自社の活動の星取表を付けたり(以下、SDGsタグ付けと呼ぶ)、役員や従業員が胸にSDGsバッジを付けるだけでSDGsに貢献していると喧伝している企業は「SDGsウォッシュ」と言われても反論ができないはずです。SDGsウォッシュとは、SDGsに取り組んでいるように装っているが実態が伴っていない組織や活動について指摘されるものであり、元来は企業の環境活動に対して指摘する「グリーンウォッシュ」として広く使われてきた用語です。
ただし、このSDGsウォッシュやグリーンウォッシュには統一された定義がありません。そこで、SDGsウォッシュに関しては以下の定義を提案します。
SDGsに取り組んでいると自称している企業や、胸にSDGsバッジを付けている人に以下の2つを質問します。
① その活動(事業、ビジネス等)は2015年9月以降に開始したものですか。
② 2015年9月以降に始めた場合、その活動はSDGsがあったから生まれたものですか。
この両方を満たさなければ、SDGsウォッシュと言われる可能性があることを、企業は肝に銘じるべきです。この①②の質問は、SDGsによる行動変革や付加価値の有無を問うています。仮に2015年8月以前から行っていた活動であれば何も行動が変わっておらず、またSDGsがなくても生まれた・成立した活動であればSDGsによる付加価値は何もないはずです。この①②を満たさない活動は、後付けで上塗りしたSDGsタグ付けなのです。
企業でSDGsを推進している事務局担当者は、改めて自社の活動をこの①②に照らしたうえで、両方を満たす活動であれば今後も胸を張ってドンドン進めてください。一方で、もしも①②を満たさない場合、勇気を持って自社のwebサイトからSDGsマークを外し、役員や従業員からSDGsバッジを回収すべきではないでしょうか。SDGs推進の事務局であれば、実効性が伴わない環境広報やイメージ戦略はグリーンウォッシュに当たることを認識しているはずですが、不思議なことに近年SDGsに関してだけはこの意識が企業から消えてしまっています。国やSDGsコンサルが推進しているのだからよいだろうと考えるのではなく、地球環境問題や社会課題に対する各社・各担当者の倫理感に照らして考えていただきたいものです。

関連記事
-
ある政府系財団の科学コミュニケーションセンターで、関係者がTwitterで「専門家による意義深い取り組みです」と、学者が科学知識を伝える組織の活動を紹介していた。科学技術と社会の関係は関心のある領域で、私はこうした情報をウォッチしている。しかし、ちょっと腹が立った。そこには「福島」「原発事故」という文字がない。挑発はよくないが、私はその関係者に次の皮肉を送ってしまった。
-
トランプ次期政権による「パリ協定」からの再離脱が噂されている中、我が国では12月19日にアジア脱炭素議員連盟が発足した。 この議連は、日本政府が主導する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想をさらに推進させ、
-
前2回(「ごあいさつがわりに、今感じていることを」「曲解だらけの電源コスト図made by コスト等検証委員会」)にわたって、コスト等検証委員会の試算やプレゼンの図について、いろいろ問題点を指摘したが、最後に再生可能エネルギーに関連して、残る疑問を列挙しておこう。
-
以前、海氷について書いたが、今回は陸上の氷河について。 6000年前ごろは、現代よりもずっと氷河が後退して小さくなっていた(論文、紹介記事)。 氷河は山を侵食し堆積物を残すのでそれを調査した研究を紹介する。対象地点は下図
-
本年5月末に欧州委員会が発表した欧州エネルギー安全保障戦略案の主要なポイントは以下のとおりである。■インフラ(特にネットワーク)の整備を含む域内エネルギー市場の整備 ■ガス供給源とルートの多角化 ■緊急時対応メカニズムの強化 ■自国エネルギー生産の増加 ■対外エネルギー政策のワンボイス化 ■技術開発の促進 ■省エネの促進 この中で注目される点をピックアップしたい。
-
私は42円については、当初はこの程度の支援は必要であると思います。「高すぎる」とする批判がありますが、日本ではこれから普及が始まるので、より多くの事業者の参入を誘うために、少なくとも魅力ある適正利益が確保されればなりません。最初に高めの価格を設定し、次第に切り下げていくというのはEUで行われた政策です。
-
監督:太田洋昭 製作:フィルムボイス 2016年 東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から5年間が過ぎた。表向きは停電も電力不足もないが、エネルギーをめぐるさまざまな問題は解決していない。現実のトラブルから一歩離れ、広
-
菅首相の所信表明演説の目玉は「2050年までに温室効果ガス排出ゼロ」という目標を宣言したことだろう。これは正確にはカーボンニュートラル、つまり排出されるCO2と森林などに吸収される量の合計をゼロにすることだが、今まで日本
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間