嫌われ者になったドイツの風力発電は危機的状況に

2021年09月06日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

kamisoka/iStock

ドイツの風力発電産業は苦境に立たされている(ドイツ語原文記事英訳)。新しい風力発電は建設されず、古い風力発電は廃止されてゆく。風力発電業界は、新たな補助金や建設規制の緩和を求めている。

バイエルン州には新しい風車と最寄りの住宅地との距離が風車の高さの10倍でなければならないという「10Hルール」がある。最近の風車は高さ200メートルなので、2キロの距離が必要となる。これで多くのプロジェクトが実施不可能になる。

他の州でも、無数の自然保護団体や市民グループが、景観が損なわれていること、低周波音などの騒音があること、それによって健康が脅かされていること、希少な鳥類が危険にさらされていること等を理由として、規制や訴訟などあらゆる手段を講じて風車の新設に反対している(朝日新聞記事)。

風力発電の停滞は統計にはっきり表れている。2016年にドイツで新たに設置された風力発電容量は4625メガワット(MW)に達し、2017年は更に増えて5334MWであった。だが2018年には2402MW、2019年には僅か1078MWにまで落ち込んだ。昨年も、1431MWで、連邦政府が目標としている年間2800MWを大きく下回った(図)。

(なお1000メガワットとは100万キロワットで、だいたい原子力発電所1つ分にあたる。ただし原子力発電はほぼフル出力で動き続けるが、風力発電は風任せで、相当に風が強いときしかフル出力にはならない点は違う)。

図 ドイツにおける風量発電設備容量(単位:MW)
棒グラフは毎年の新規建設設備容量(右軸)、折れ線グラフは累積の発電設備容量(左軸)

さらに悪いことに、多くの風力発電所が閉鎖の危機に瀕している。2000年から施行されているドイツの再生可能エネルギー法は、風力発電事業者に20年間の確実な補助金を保証してきた。だがこれは今後数年で切れる。補助金がなければ収益性はない。2025年までには、ドイツの陸上風力発電の4分の1以上に相当する15000MWの風力発電プロジェクトが失われる恐れがあるという。連邦政府には、操業継続のための資金援助を求める声が上がっている。

風力発電業界と緑の党は規制緩和を求めるが、多くの自治体や州の政治家は、風力発電の規制緩和に反対している。一度ここまで嫌われ者になってしまうと、復権は難しいだろう。

ドイツは2030年までに洋上風力発電を20000MW建設するとしているが、こちらは環境問題をクリアして順調に行くのだろうか。

洋上とは言っても岸から近ければ景観をそれなりに害するし、渡り鳥は衝突して死ぬかもしれない。深い海に立地すればコストも嵩む。

仮に洋上風力が上手く開発できても、陸上での閉鎖が相次げば、風力発電全体では減少に向かうのかもしれない。

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 停電の原因になった火災現場と東電の点検(同社ホームページより) ケーブル火災の概要 東京電力の管内で10月12日の午後3時ごろ停電が発生した。東京都の豊島区、練馬区を中心に約58万6000戸が停電。また停電は、中央官庁の
  • 先日アゴラで紹介されていた動画を見ました。12月19日の衆議院国会質疑で、質問者は参政党北野裕子議員。質疑の一部を抜粋します。 日本の脱炭素政策に疑問! 北野裕子議員が電気料金高騰を追及 北野議員:2030年46%削減、
  • 3月18日、「新型コロナウィルスと地球温暖化問題」と題する小文を国際環境経済研究所のサイトに投稿した。 状況は改善に兆しをみせておらず、新型コロナ封じ込めのため、欧米では外出禁止令が出され、行動制限はアジアにも波及してい
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、「IPCC報告の論点⑥」で、IPCCは「温暖化で大
  • 経営方針で脱炭素やカーボンニュートラルとSDGsを同時に掲げている企業が増えていますが、これらは相反します。 脱炭素=CO2排出量削減は気候変動「緩和策」と呼ばれます。他方、気候変動対策としてはもうひとつ「適応策」があり
  • NHKニュースを見るとCOP28では化石燃料からの脱却、と書いてあった。 COP28 化石燃料から「脱却を進める」で合意 だが、これはほぼフェイクニュースだ。こう書いてあると、さもCOP28において、全ての国が化石燃料か
  • ところが規制委員会では、この運用を「原子力発電所の新規制施行に向けた基本的な方針(私案)」という田中俊一委員長のメモで行なっている。これはもともとは2013年7月に新規制が実施された段階で関西電力大飯3・4号機の運転を認めるかどうかについての見解として出されたものだが、その後も委員会決定が行なわれないまま現在に至っている。この田中私案では「新規制の考え方」を次のように書いている。
  • 福島県内で「震災関連死」と認定された死者数は、県の調べで8月末時点に1539人に上り、地震や津波による直接死者数に迫っている。宮城県の869人や岩手県の413人に比べ福島県の死者数は突出している。除染の遅れによる避難生活の長期化や、将来が見通せないことから来るストレスなどの悪影響がきわめて深刻だ。現在でもなお、14万人を超す避難住民を故郷に戻すことは喫緊の課題だが、それを阻んでいるのが「1mSvの呪縛」だ。「年間1mSv以下でないと安全ではない」との認識が社会的に広く浸透してしまっている。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑