IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない

2021年09月29日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

courtneyk/iStock

地球温暖化が起きると、海水が熱膨張し、また氷河や南極・グリーンランドなどの氷が溶けて、海面上昇が起きると予測されている。

IPCC報告の気候モデルは図1(Figure SPM.8 )のような結果を出している。

図1

これを見ると、海面上昇は2020年には25cmだった(1900年比)。

2100年時点の海面上昇は、2050年の排出ゼロといった極端に脱炭素を進めるシナリオ(SSP1-1.9)では55cmぐらいになっている。

他方で、高い排出の場合はどうか。

SSP5-8.5とSSP3-7.0は、何れも排出量が多すぎて現実的ではないことは論点①で述べた。2019年以降、特段の温暖化対策強化をしなくても、SSP2-4.5とSSP3-7.0の中間ぐらいになる。2100年時点で両者の中間を読むと海面上昇は75cmぐらいになっている。

すると、極端な脱炭素に励むことで、2100年の海面上昇は75cmから55cmへ、20cmばかり抑制される訳だ。

20cmの差というのは僅か過ぎて、脱炭素に伴う莫大なコストを正当化することは出来ない。

なぜなら、我々は海面の高さの変化には慣れており、安価に対応出来るからだ。

海面の高さは毎日干満で何メートルも変わる。エルニーニョの影響などによる海流の変化によっても50cmぐらいは変わる。地盤沈下は世界各地で起きていて、東京では50年で4mに達したところもある。これは事実上の海面上昇だ。また日本では地震もあってそのたびに陸地は1mぐらいは隆起沈降する。(詳しくは拙著「地球温暖化のファクトフルネス」を参照)。台風の時の高潮は数メートル、津波はそれ以上の高さになる。

20cmの差が問題になると思うなら、堤防を高くしたり、陸地を造成してかさ上げすればよい。他の災害に対しても強靭になるだろう。2100年までなら、時間はたっぷりある。

ちなみに、どんなに脱炭素に励んでも海面上昇が止まらないのは、そもそも自然現象として氷河の融解などにより海面が上昇してきたこと、および、過去に人類がCO2等を排出してきたことによる。図2を見ると、CO2排出が遥かに少なかった1950年以前も海面は(主に自然現象として)上昇してきていて、2000年以降はそのペースがやや上がったに過ぎないことが分かる。図1を再び見ると、今後起きることは、このペースが更にやや上がるかもしれない、ということだ。

なお最後に付言すると、論点③で述べた様に、気候モデルは明らかに温暖化を過大評価しているものが多くある。図1にその計算結果は混じっているから、海面上昇も過大評価になっていると思われる。

図2

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

次回:「IPCC報告の論点⑱」に続く

【関連記事】
IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

 

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • AIは急速に進歩しているが、ポリコレを教え込まれている。気候変動についてもそれが酷い、という面白い論文(無料)が発表された。 Artificial Intelligence Systems (AI) Are Progra
  • 福島原子力事故について、「健康被害が起こるのか」という問いに日本国民の関心が集まっています。私たちGEPRのスタッフは、現在の医学的知見と放射線量を考え、日本と福島で大規模な健康被害が起こる可能性はとても少ないと考えています。GEPRは日本と世界の市民のために、今後も正しい情報を提供していきます。
  • 前代未聞の原発事故から二年半を過ぎて、福島の被災者が一番注意していることは仲間はずれにならないことだ。大半が知らない土地で仮の生活をしており、親しく付き合いのできる相手はまだ少ない。そのような状況では、連絡を取り合っている元の町内の人たちとのつながりは、なにより大切なものだ。家族や親戚以外にも従来交流してきた仲間とは、携帯電話やメールなどでよく連絡を取り合っている。仕事上の仲間も大切で、暇にしていると言うと、一緒に仕事をやらないかと声を掛けてくれる。
  • 日本経済新聞は、このところ毎日のように水素やアンモニアが「夢の燃料」だという記事を掲載している。宇宙にもっとも多く存在し、発熱効率は炭素より高く、燃えてもCO2を出さない。そんな夢のようなエネルギーが、なぜ今まで発見され
  • 4月5日、ロバート・F・ケネディ・ジュニアが、2024年の大統領選に立候補するために、連邦選挙委員会に書類を提出した。ケネディ氏は、ジョン・F・ケネディ元大統領の甥で、暗殺されたロバート・F・ケネディ元司法長官の息子であ
  • 20世紀後半から、人間は莫大量の淡水を農工業で利用するようになった。そのうち少なからぬ量は海に還ることなく蒸発して大気中に放出される。それが降水となることで、観測されてきた北半球の陸地における2%程度の雨量増加を説明でき
  • 北極の氷がなくなって寂しそうなシロクマ君のこの写真、ご覧になったことがあると思います。 でもこの写真、なんとフェイクなのです! しかも、ネイチャーと並ぶ有名科学雑誌サイエンスに載ったものです! 2010年のことでした。
  • 日本の温室効果ガス排出量が増加している。環境省が4月14日に発表した確報値では、2013 年度の我が国の温室効果ガスの総排出量は、14 億 800 万トン(CO2換算)となり、前年度比+1.2%、2005年度比+0.8%、1990年度比では+10.8%となる。1990年度以降で最多だった2007年度(14億1200万トン)に次ぐ、過去2番目の排出量とあって報道機関の多くがこのニュースを報じた。しかし問題の本質に正面から向き合う記事は殆ど見られない。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑