衆院選から見えた:若年層は脱炭素やSDGsなど望んでいない

2021年11月19日 07:00

Chalabala/iStock

企業で環境・CSR業務を担当している筆者は、様々な識者や専門家から「これからは若者たちがつくりあげるSDGs時代だ!」「脱炭素・カーボンニュートラルは未来を生きる次世代のためだ!」といった主張を見聞きしています。また、脱炭素やSDGsを唱える人たちが選挙のたびにSNS上で「政権選択選挙!」「与党に国民の審判を!」「若者よ投票に行こう!」などと呼びかける姿を目にします。今回に関しては、脱炭素や原発・エネルギー政策の比較なども盛んに拡散されており、これまで以上に脱炭素・SDGs界隈では政権交代への熱が高かったように感じます。

今回の衆院選で政権交代を実現する場合の受け皿は共産党と連携した立憲民主党だったわけです。つまり、普段脱炭素やSDGsを推進している人たちは共産党が協力する政権を誕生させたかった、ということになります。そして、現実に起きた国民の審判は真逆の結果でした。

日本経済新聞がまとめた年代別の投票先を見てみると、自民は世代を問わずまんべんなく支持されていますが(2017年は若年層の支持率が高い)、立民や共産の支持層は高齢化しているようです。

出典:日本経済新聞

ところで、今回の衆院選で10代〜30代の若年層は環境・気候変動対策をまったく重視しなかったようです。日テレNEWS24の出口調査によれば、18・19歳が重視した政策の上位は①新型コロナ対応(25.2%)、②子育て・教育政策(13.7%)、③景気対策(11.4%)でした。同じく20代では①景気対策(19.0%)、②子育て・教育政策(18.6%)、③新型コロナ対応(18.1%)、30代は①子育て・教育政策(30.8%)、②景気対策(20.6%)、③新型コロナ対応(11.9%)と、上位3項目は同じ傾向でした。

社会全体の課題である新型コロナ対応を除けば、若年世代にとって差し迫った課題である「子育て・教育政策」「景気対策」を重視するのは当然と言えます。

一方、「環境・気候変動の対策」については、グラフに数値が記載されていないもののおおよそ18・19歳で3%程度、20代・30代では2%程度に見えます。いずれの年代でも、「社会全体のデジタル化の推進」(1%程度)に次いで重視しない政策でした(ちなみに、10代~30代では憲法改正よりも低い結果)。

若年層で環境・気候変動対策への関心が低い理由は分かりませんが、上位が「子育て・教育政策」「景気対策」であることを裏返せば、日々の生活に直結する電気代の高騰を招きかねない点を考慮した可能性はありそうです。

出典:日テレNEWS24

繰り返しになりますが、多くの識者や専門家が「脱炭素やSDGsは次世代のため!」「若者が投票に行って政権交代を実現しよう!」と訴えていましたが、少なくとも上記の日経、日テレNEWS24のグラフからは、実際に投票所へ足を運んで選挙に参加した若年層は政権交代を望んでおらず、環境・気候変動対策にも関心がない、と言えそうです。

むしろ、上記2つのグラフからは50代以上の高齢層ほど政権交代を望んでおり、かつ投票においては環境・気候変動対策を重視したように見えます。

同様の傾向は英国でも見られます

“年齢別にみると、じつは18~24歳という若い人たちが最も気候変動の心配をしていない。気候変動と答えたのはわずか15%だ。

よく「海外の若者が気候変動対策を強化するよう求めてデモをしている、これは若者と大人という世代間の戦いだ」と主張する映像が報道されているが、どうも違うようだ。”

脱炭素を訴えるグレタさんも、学校をサボって気候マーチを行う日本の若者たちも、声は大きいのですが実は少数派なのかもしれません。日頃からこうした若者たちと活動を共にしている脱炭素・SDGsを唱える大人たちには大きなブームに見えているのでしょうか。むしろ学校に行って勉強している若者たちこそが脱炭素について冷静に受け止めており、今回の衆院選の結果にも表れたのだと考えられます。

多くの若年層にとっては子育てや景気対策こそが重要であり、その土台となる経済を縮小する脱炭素やSDGsなど望んでいないのではないでしょうか。

SDGsの不都合な真実-「脱炭素」が世界を救うの大嘘-』(宝島社)

This page as PDF

関連記事

  • 原子力基本法が6月20日、国会で改正された。そこに「我が国の安全保障に資する」と目的が追加された。21日の記者会見で、藤村修官房長官は「原子力の軍事目的の利用意図はない」と明言した。これについて2つの新聞の異なる立場の論説がある。 産経新聞は「原子力基本法 「安全保障」明記は当然だ」、毎日新聞は「原子力基本法 「安全保障目的」は不要」。両論を参照して判断いただきたい。
  • 規制委の審査、判断の過程はそれによって不利益を受ける側の主張、立証の機会が法律上、手続的に保障されていないのである。従って規制委ないしは有識者会合において事業者側の資料の提出を受けつけなかったり、会合への出席や発言も認めなかったりしても形式上は何ら手続き違反とはならないという、おかしな結果になる。要するに対審構造になっていないのである。
  • 関西電力の高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを滋賀県の住民29人が求めた仮処分申請で、大津地裁(山本善彦裁判長)は3月9日に運転差し止めを命じる決定をした。関電は10日午前に3号機の原子炉を停止させた。稼働中の原発が司法判断によって停止するのは初めてだ。何が裁判で問題になったのか。
  • きのうの言論アリーナは民進党の高井崇志議員に話を聞いたが、後半はやや専門的な話なので、ちょっと補足しておきたい。核拡散防止条約(NPT)では非核保有国のプルトニウム保有を禁じているが、日本は平和利用に限定することを条件に
  • いよいよ、米国でトランプ政権が誕生する。本稿がアップされる頃には、トランプ次期大統領が就任演説を終えているはずだ。オバマケア、貿易、移民、ロシア等、彼に関する記事が出ない日はないほどだ。トランプ大統領の下で大きな変更が予
  • 評価の分かれるエネルギー基本計画素案 5月16日の総合資源エネルギー調査会でエネルギー基本計画の素案が了承された。2030年の電源構成は原発20-22%、再生可能エネルギー22-24%と従来の目標が維持された。安全性の確
  • よく日本では「トランプ大統領が変人なので科学を無視して気候変動を否定するのだ」という調子で報道されるが、これは全く違う。 米国共和党は、総意として、「気候危機説」をでっちあげだとして否定しているのだ。 そしてこれは「科学
  • ドイツ政府は社民党、緑の党、自民党の3党連立だが、現在、政府内の亀裂が深刻だ。内輪揉めが激しいため、野党の発する批判など完全に霞んでしまっている。閣僚は目の前の瓦礫の片付けに追われ、長期戦略などまるでなし。それどころか中

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑