今後の動力源とエネルギーを考える
18世紀半ばから始まった産業革命以降、まずは西欧社会から次第に全世界へ、技術革新と社会構造の変革が進行した。最初は石炭、後には石油・天然ガスを含む化石燃料が安く大量に供給され、それが1960年代以降の急速な経済成長を支える土台となった。石油危機以降の1980年代以後、世界的な成長速度は減退したが、今でも現代社会は、基本的にはこの「化石燃料依存社会」であることを再確認したい。

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「地球温暖化問題」も、化石燃料の使い過ぎの反省、と言った意味合いがある。現代のエネルギー問題とは「化石燃料問題」でもある(=化石燃料にどの程度依存すべきか、そこから如何にして脱却できるのか・・?)。
現代社会のエネルギー源は、大きく分けて動力源と熱需要に使われている。動力源はさらに、電力と熱機関に分けられる。熱機関は、熱を動力に変換するメカの総称で、蒸気機関などの「外燃機関」と、エンジンなどの「内燃機関」に大別される。原子力発電も、熱源は原子炉であるが、発電は蒸気タービンを使うので、大別すれば火力発電と同様、外燃機関に属する。外燃機関は、文字通り熱源が外側にあるため、燃料の制約がなく、熱源がありさえすれば動く。熱が逃げやすい性質のため、大型ほど熱効率が高い。故に、現代でも残っている外燃機関は、火力・原子力の発電設備程度しかない(ごく一部では蒸気機関車も走っているそうだが、交通機関としては大型)。
今の交通機関は、電車と電動自動車(EV)以外は、大半エンジンで動く。小型バイクから各種自動車、大型旅客機、巨大タンカーまで。現代社会の交通・物流の大きな部分は、内燃機関で支えられている。内燃機関は一般に、熱効率(=熱を動力に変換する効率)は低く、市中を走る車の熱効率は10〜20%程度である。「自動車用ガソリンエンジンの平均的な最高熱効率は30%台であり、40%台前半が限界」とされている中、日産は熱効率50%を実現する目処が立ったと発表したが、燃費データでも分かるように、これらはごく恵まれた条件下での測定値である。
内燃機関は、熱効率がさほど高くないだけでなく、一般に作動音が騒がしい。小型バイクから大型ジェット機まで。にも拘わらず内燃機関が現代の主流である理由は、何を置いてもその機動性にある。小型化でき、どこでも動力を生み出せる利便性が強みだった。
ただし、内燃機関はその本性上、流体燃料(液体か気体の燃料)しか使えない(ロケットでは固体燃料型もあるが、一度着火したら消せないので、一般交通機関には使えない)。気体はエネルギー密度が低いため、当然液体燃料が望ましい。石油類と液化天然ガスが主たる燃料になったのは必然だった。また、20世紀にはこれらの燃料が比較的安価だったこともある。
しかし時代が変わり、化石燃料の枯渇が見え始め、また「脱炭素」のうねりもあって、内燃機関の旗色は悪くなりつつある。事実、世界的な自動車の電動化の動きはすさまじい。
EVは電池材料の資源問題その他、いくつかの課題を抱えていることは事実だが、技術的合理性の観点からは、自動車の電動化は必然的と思える。モーターの電力→動力の効率は90%台と抜群に高く、発電・送電・蓄電ロスを割り引いても内燃機関より効率的である。制御もしやすく、車の構造も単純化できる。今後カートリッジ型の電池が普及すれば、スタンドで簡単に交換できて充電を待つ必要もなくなる。
ただし、筆者は自動車の全部を今すぐ電動化せよと言うつもりはない。燃費の良いハイブリッド車には、まだまだ大きな存在意義があると思う(筆者は「脱炭素」の意義を認めないので、化石燃料を排斥する気はない。使える間は使うのが良い)。

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しかし一方、水素を燃やす「水素エンジン」となると、首をかしげたくなる。そもそも、その水素を何から得るのか? 繰り返しになるが、水素を天然ガスから得るのであれば、元の天然ガスを燃料に使うのが良い(水蒸気改質で天然ガスから水素を得ると、エネルギーが半減するから)。水素を再エネ電力から得るのなら、その電力で直接EVを走らせるのが当たり前である(電力→水素→燃焼の過程でエネルギーは1/4に減ってしまう)。また、水素直燃よりは、燃料電池を使う方が効率的だが、燃料電池車(FCV)はEVやハイブリッド車よりどうしても高くつくから不利である。
やはり、水素を燃料とするのが無理なのである。当然、その水素を原料にCO2からメタンを作るメタネーションとか、アンモニア、液体燃料をつくるe-Fuelなども、内燃機関にしがみつくための無理に無理を重ねる試みであり、早く諦めた方が得策だろう。
本来内燃機関は、安い液体燃料が入手できることを前提としている。液体燃料が高価になったら、いずれ諦めなければならない。トヨタの社長は「選択肢を増やす」ためと言っているが、選択肢は技術的合理性や経済性により選択され、刈り込まれる運命にある。
ついでに言えば「空飛ぶ車」なども、時代の趨勢に逆らう選択肢だろう。機械的に空中に浮かぶためには大きな動力が必要で、地上を走る車の何倍ものエネルギー消費が要る。また、小型のドローンでさえ都市域では飛行が制限されているのに、人間を載せた大型ドローンのような「車」を飛ばせる場所がどこにあるのか?おそらく、少なくとも日本では海上・水上用にしか用途はないだろう。「地上の渋滞を尻目にひとっ飛び」など、夢のまた夢である。
さらに言えば、超音速旅客機や宇宙旅行なども、これからエネルギーや資源が乏しくなって行く人類にとって、無用の存在だと思う。貧乏人の筆者などは、大金持ちがたかが数分の無重力状態を体験するために多額の費用、多量のエネルギーと資源を浪費するのを見るのは、実に不愉快だ。こうした行為は「人道への罪」として非難されるべきだと思う。囃し立てるマスコミも同罪である。それだけの資金と資源があったら、地上でやれる有意義な事業がたくさんあるだろうに。
宇宙開発は、軍事技術開発でもあると言う側面も、見落としてはならない。「宇宙へのロマン」などの甘言に騙されるのは愚か者である。世界各国が宇宙技術開発にしのぎを削っているのは、第一には軍事目的である。「スター・ウォーズ」に勝つために、各国は血まなこになっている。
宇宙での観測や実験の意義を否定するものではないが、そんなものはAIロボットで出来る。人間が宇宙空間に出かけて行かねばならない必然性は見当たらない。壁1枚向こうは真空の死の世界である宇宙空間で、人間は長く暮らせないし、地上から常に支えられている。宇宙での数人のクルーを支えるために、地上で一体どれだけの人数とエネルギーが割かれていることか。宇宙開発を無人化すれば、費用も相当節約できるはずである。すでに地球の周囲は「宇宙のゴミ」で一杯である事実も、我々に重くのしかかる。
こうして見ると、これまでの人類の技術的発展の大きな部分が、熱機関、特に内燃機関の活用で支えられてきたことが分かるだろう。小型バイクから、自動車、船、飛行機、ロケットまで、人間の移動手段は主に内燃機関に頼ってきた。これから、石油や天然ガスが乏しくなって行くにつれ、内燃機関は次第に「贅沢品」になって行く。今後、地上での人流・物流の大きな部分は電車が担うだろうから、鉄道網の維持・整備は優先度の高い課題になる。
船の動力には、風と石炭(蒸気機関)で当分何とかしのぐとして、飛行機だけはかなり後まで液体燃料に頼るしかなさそうだ。水素飛行機など、止める方が良い。結局は、その水素を何から得るか?になってしまうから。
太陽光だけで飛ぶ飛行機も作られたが、一人を運ぶのに結構な大きさが必要だった。何百人も運ぶのは、いつになるだろう?バイオ燃料にも、過大な期待は禁物である。大型ジェット機1機を国際便で飛ばすのに必要な燃料用の培養面積や所要時間を考えたら、分かりそうなものである。そもそも、航空部門のエネルギー消費は、交通全体で見れば大きくないので、脱炭素化などに力を入れる意義自体が小さいのである。
このように具体的に見てくると、人類の大きな課題は、熱機関、特に内燃機関に代わる動力源を開発できるかどうかであることが分かる。これは実は頭の痛い問題で、そう簡単には解決策を見つけ出せそうにない。化石燃料がなくなるまでの、宿題と言える。再エネの出力が主に電力だから、何か電磁気的な動力発生手段になると思うのであるが。
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