プーチンが高笑いした米国のエネルギー自滅

Juanmonino/iStock
プーチンにウクライナ侵攻の力を与えたのは、高止まりする石油価格だった。
理由は2つ。まず、ロシアは巨大な産油国であり、経済も財政も石油の輸出に頼っている。石油価格が高いことで、戦争をする経済的余裕が生まれた。
のみならず、石油価格が高ければ、欧米はロシアへの経済制裁に二の足を踏む。ロシアの石油供給が停まれば、いっそうの原油価格高騰が起きて、インフレが昂進し、それは欧米の政権にとって命とりになるからだ。
だが石油価格の高騰を招いたのは、「脱炭素」ばかりを優先する愚かな米国の政策だった。バイデン政権が、どれほど米国の石油(およびガス)産業を痛めつけてきたが、ヘリテージ財団が10項目をまとめているので紹介しよう。
- Build Back Better 法案は、アラスカと外縁大陸棚における石油・ガス開発のためのエネルギー資源へのアクセスを制限する一方で、保証金要件、ロイヤリティ率、手数料を引き上げるものだ。
- 環境保護庁による、既存および将来の、石油生産・自動車およびトラックからのメタン排出、粒子状物質、オゾンに関するより厳しい規則(環境上の利益がほとんどない割にコストが高くなる)、および2022年以降もエタノール使用義務化の実施を継続する計画。
- 内務省は、アラスカ、連邦所有地、外縁大陸棚での石油掘削権のリースについて、分析による麻痺状態(=考えすぎによる思考停止状態)にあり、これは複数年の禁止に相当する。内務省はバイデン政権下で連邦所有地での石油・ガス掘削権のリースを一度も行っておらず、裁判所からの強要によりメキシコ湾で一度だけ行っただけである。さらに、連邦所有地での従来型エネルギーの探査と生産を厳しく制限する計画を発表した。
- 証券取引委員会は、上場企業による気候変動に関する追加的な情報開示の規制案を発表した。
- 労働省は、連邦年金投資計画に対し、従業員へのリターンよりも気候や「環境、社会、ガバナンス」の要素を優先させるよう求める規制案を提示した。
- 運輸省の燃費規制強化、インフラ法案による州の二酸化炭素削減義務化
- 連邦政府の規制・許認可プロセスを通じた「影の炭素税」としての、炭素およびその他の温室効果ガスの社会的コスト。
- 環境品質審議会が、連邦環境審査許可プロセスの合理化と改善のための改革を削除したことにより、エネルギーインフラの建設が困難になること。
- 石油やその他の化石燃料プロジェクトのために、他国への技術支援や納税者が補助する国際金融の利用を禁止する計画。
- 民間銀行に圧力をかけ、石油企業への融資を差し控えさせるという、政権のメンバーによる非公式な行動。
ヘリテージ財団は、「バイデン政権は、アメリカの石油産業を廃業させるつもりであることを明確にしてきた」とまとめている。
さていまウクライナでの戦争を受けて、欧米のロシア依存を減らすために、米国はどれだけ石油・ガスの増産に踏み切れるだろうか。これまでやってきたことを覆すのは、誤りを認めることだから、政権が交代しない限り難しいのかもしれない。
■

関連記事
-
アゴラ研究所は、9月27日に静岡で、地元有志の協力を得て、シンポジウムを開催します。東日本大震災からの教訓、そしてエネルギー問題を語り合います。東京大学名誉教授で、「失敗学」で知られる畑村洋太郎氏、安全保障アナリストの小川和久氏などの専門家が出席。多様な観点から問題を考えます。聴講は無料、ぜひご参加ください。詳細は上記記事で。
-
(GEPR編集部より)原発ゼロの夏を否定的に見る意見もある。日本の鋳造業と電力危機の関係を聞いた。
-
アメリカは11月4日に、地球温暖化についてのパリ協定から離脱しました。これはオバマ大統領の時代に決まり、アメリカ議会も承認したのですが、去年11月にトランプ大統領が脱退すると国連に通告し、その予定どおり離脱したものです。
-
アメリカでは地球温暖化も党派問題になっている。民主党系は「温暖化は深刻な脅威で、2050年CO2ゼロといった極端な温暖化対策が必要だ」とする。対して共和党系は「それほど深刻な問題ではなく、極端な対策は必要ない」とする。
-
2023年は、気候学にとって特別な年であった。世界各地の地上気象観測地点で、過去に比べて年平均気温が大幅に上昇したからである。 ところが残念なことに、科学者はこの異常昇温を事前に予測することができなかった。 CO2などに
-
7月17日のウォール・ストリート・ジャーナルに「西側諸国の気候政策の大失敗―ユートピア的なエネルギーの夢想が経済と安全保障上のダメージをもたらしているー」という社説を掲載した。筆者が日頃考え、問題提起していることと非常に
-
少し旧聞となるが、事故から4年目を迎えるこの3月11日に、原子力規制庁において、田中俊一原子力規制委員会委員長の訓示が行われた。
-
(GEPR編集部より)GEPRは民間有識者などからなるスマートメーター研究会(村上憲郎代表)とともに、スマートグリッドの研究を進めている。東京電力がスマートメーターを今年度300万台、今後5年で1700万台発注のための意見を募集した。(同社ホームページ)同研究会の意見書を公開する。また一般読者の方も、これに意見がある場合に、ご一報いただきたい。連絡先は info@gepr.org この意見書についての解説記事
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間