「2035年の新車販売はEV!」への邁進は正しい選択なのか?①

2022年08月23日 06:40
アバター画像
技術士事務所代表

deepblue4you/iStock

先進国では、気候変動対策の一つとして運輸部門の脱炭素化が叫ばれ、自動車業界を中心として様々な取り組みが行われている。我が国でも2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」宣言の中で、2035年以降の新車販売は電気自動車(EV)とすべきという発表がなされた。

一般的にEVについては、車両価格は高いが補助金もあり、図1に示されるように使用時のランニングコストも低いため利用者にとってはメリットがあると言われている。

図1  EVとガソリン車の年間維持費の比較
出典:TEPCO

一方、気候変動対策のCO2排出削減の観点から、EV化への邁進は合目的なものだろうか。

先ず、内燃機関自動車(ICV)の生産に比べ、EVの生産では、平均で2倍のエネルギーを消費し、2倍の地球温暖化の可能性があると言われる。これは、主に搭載するバッテリーの製造に起因する。

バッテリー製造には、原材料の採取から製造時の電力消費まで多くのエネルギーが使われる。EVが大きくなり走行距離が長くなればなるほど、より多くのバッテリーセルが必要となり、より多くのCO2を排出することになる。

第二に、EVはライフサイクルの初期にはCO2排出量が多くなるが、使用段階では相対的に排出量も少なくなり、時間が経てば、ICVに追いつくが、それはEVの走行距離に関係する。

EVが環境に優しいと言われるのは、どういう一次エネルギーにより発電・走行し、バッテリー製造を行っているのかに依る。政府は、よりグリーンなエネルギーへの移行を加速させることによって、輸送部門の取り組みを支援することができる。

世界経済フォーラムのレポートによれば、ドイツではエネルギーの約40%を石炭、30%を自然エネルギーで生産しているという。CO2排出の観点から、中型EVがディーゼル車と並ぶには平均125,000km、年間平均走行距離を13,500kmと仮定すると、EVが環境に優しくなるには9年かかる。ガソリン車の場合は60,000km走行する必要があるとのこと。EVの環境ポテンシャルを引き出すには、単に生産台数を増やすだけでは不十分であり、EVが稼働する社会システムも持続可能でなければならないとも。

また、2019 年にマツダから出された報告書では、ガソリン車(GE)、ディーゼル車(DE)、バッテリー電気自動車(BEV)に関するCO2排出量を試算している。BEVのCO2排出係数を177kg- CO2/kWhとし、GE、DE、BEVの線が交差する点を交差距離点(DIP: Distance of Intersection Point)と定義している。

図2  CO2 emissions during life cycle for GE, DE, and BEV.
(a) EU; (b) Japan; (c) US; (d) China

図2では、GE、DE、BEVのCO2排出量と走行距離の関係が示されているが、走行距離が短い間は、BEVに搭載するバッテリー製造時のCO2排出の影響が大きいため、BEVが他の車種を上回っている。

(a)のEUのDIPが109,415km以下ではBEVがDEを上回る。109,415km~16万kmでは逆転するが、16万km以上になるとBEVの排出が再度上回る。これはバッテリー交換により、バッテリー製造時のCO2が加算されたためである。

(b)の日本のDIPが111,511kmまではBEVがGEを上回り、そこから16万km までは逆転、その後バッテリー交換したために、再度、BEVが上回っている。

(c)米国の場合、大型のGEが多いためか、DIPが60,779kmという早い段階でBEVとGEが交差し、それ以降もGEが上回った状態が継続する。

現在、バッテリー寿命について、使用後8年か走行距離16万kmのうちの早い方で交換することになっている。日本での年間走行距離を1万kmと想定すると、EV購入後8年で車の買い替えということになる。新しいバッテリーに交換して、さらに乗り続けるということもあるが70万から100万円程度はするし、長く乗ってもCO2削減効果も限定的である。

環境にやさしいと喧伝されるEVに8年間乗っても、米国を除いてBEVから排出される累積CO2の方が大きいわけで、果たして「2035年の新車販売はEV!」という大号令を掛け550万人とも言われる自動車産業の雇用を危うくし兼ねないEV化に邁進することが正しいことなのだろうか。

結局、車種の選択はCO2排出やコストのみから為されるものではなく、乗り心地やエンジン音など多くの個人的な嗜好の組合せ、自由度の上に決定されるものであり、政府から押し付けられるものではなかろう。

(続く)

This page as PDF

関連記事

  • バイデン政権で気候変動特使になったジョン・ケリーが米国CBSのインタビューに答えて、先週全米を襲った寒波も地球温暖化のせいだ、と言った。「そんなバカな」という訳で、共和党系ウェブサイトであるブライトバートでバズっている。
  • コロナの御蔭で(?)超過死亡という言葉がよく知られるようになった。データを見るとき、ついでに地球温暖化の健康影響についても考えると面白い。温暖化というと、熱中症で死亡率が増えるという話ばかりが喧伝されているが、寒さが和ら
  • 前稿で触れた「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については、このアゴラでも既に杉山大志氏とノギタ教授の書評が出ており、屋上屋を架すの感なしとしないが、この本体価格2200円の分厚い本を通読する人は少ない
  • 政府は電力改革、並びに温暖化対策の一環として、電力小売事業者に対して2030年の電力非化石化率44%という目標を設定している。これに対応するため、政府は電力小売り事業者が「非化石価値取引市場」から非化石電源証書(原子力、
  • 苦しむドイツ ウクライナ紛争に伴ったロシア制裁と、その報復とみられるロシアによる欧州への天然ガス供給の縮小により、欧州の天然ガス価格は今年に入って高騰を続け、8月半ばには1メガワットあたり250ユーロと、3月の水準から約
  • 先日のTBS「報道特集」で「有機農業の未来は?」との特集が放送され、YouTubeにも載っている。なかなか刺激的な内容だった。 有機農業とは、農薬や化学肥料を使わずに作物を栽培する農法で、病虫害に遭いやすく収穫量が少ない
  • 高校生がスウェーデンで感じたこと 今年の夏、全国の高校生13人がスウェーデンの〝核のごみ〟の最終処分に関わる地下坑道施設や研究所を視察した。約1週間の行程で私はアドバイザーとして同行した。 この視察の中で、高校生たちは様
  • デモクラシーの歴史は長くない。それを古代ギリシャのような特権階級の自治制度と考えれば古くからあるが、普通選挙にもとづく民主政治が世界の主流になったのは20世紀後半であり、それによって正しい意思決定ができる保証もない。特に

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑