「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文②

2022年12月23日 06:40
松田 智
元静岡大学工学部化学バイオ工学科

Artur Nichiporenko/iStock

前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。

(前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当な論文①

2.1. エネルギーを代替するための必要量

この節では、表1の化石燃料分(489.7 EJ)の60%をCO2フリーのエネルギーで代替するための各種必要量を見積もっている。

表1

以下、数字はすべて本文そのままの値を使うが、前稿で述べた通り、ここでは1EJ=277.8TWhつまり1kWh=860.6 kcal=3597kJで電力を一次エネルギー換算しているので、電力の一次エネルギー換算値は小さく出ることに御注意いただきたい。

筆者の考えでは、1kWh=2074kcal=8669kJを使うべきである(前稿ではMJとすべき所をkJと書き間違えていたので、お詫びして訂正します)。

繰り返しになるが、860.6 kcal分の石油から1kWhの電力は決して作れず、1kWhの電力を実際に得るには2074kcal分の石油が必要になるから、電力の石油換算一次エネルギ−の値は、物理表(1 kWh=860.6kcal)は使えないのである。つまり換算値が約2.4倍違う。現在の世界総計一次エネルギー値で言えば、電力の一次エネルギー比率は約2倍ほど違ってくる(17%→34%)。

しかし、本論文の議論には大筋変更の必要はない。なぜなら、現状では化石燃料の比率が圧倒的に大きいので、電力の一次エネルギー換算値が2〜3倍違っても、結論は大きく変わらないからである。ただし将来的に、化石燃料以外の電力が増えてくれば、この「誤差」は無視できなくなる。

さて、化石燃料分(489.7EJ)の60%(=293.8EJ)を、CO2フリーのエネルギーで代替するための各種必要量に戻る。なお本文ではその前に、60%をCO2フリーのエネルギー代替で賄い、残り40%はエネルギー効率の向上、生活様式の変更(住宅の断熱化など)、あとはオフセット(植林やCO2吸収など)で賄うとしているが、これは著しく楽観的な見積もりだと釘を刺している。実際、その通りだろう。

本文では、293.8EJの一次エネルギーを供給するための電力設備容量を9320GWとしているが、この数字はいきなり出ており、算出根拠は示されていない。表1の値をそのまま用いれば、世界総計で、風力824.9 GW、太陽光843.1GWの容量(合計1668GW)で102.47EJの発電をしているのだから、必要容量は1668GW/102.47EJ × 293.8EJ=4782GWとなるはずだが?さらに、筆者の換算法を使うと、電力の一次エネルギー石油換算値は約2倍、つまり上式の分母が2倍になるので、結果は1/2になるから、さらに値は小さくなるけれど。

それはともかく、9320GWとは3GWの原発3110箇所分だと書いてある。GWは100万kWのことであるから、100万kW級原子炉を3基保有する発電所が3110箇所要ると言う意味である。ちなみに、2021年末時点で運転可能な原子炉は世界で436基、発電容量は396GWであるから、この数字の巨大さは分かるだろう。

これを風力でカバーしようとすると、前稿(図4)に書いたCapacity Factors、つまり設備稼働率が世界平均で25%程度なので、これを大幅に改良して40%に向上したとしても、9320/0.4=23300 GWの容量が必要になる。現在の世界総計風力発電容量824.9 GWの約28倍である。

図4

なお、上記したように、この数字は現在の化石燃料の60%分に過ぎないことをお忘れなく。水力や太陽光で賄うとすれば、広大な面積が必要になることも自明であろう。

本論文の著者は、世界各地で原発の新設には大きな抵抗があることを認めている。沿岸部での大規模な風力発電の建設も同様である。さりとて、潮力や地熱では供給できるエネルギーが限られる。従って、沖合での洋上風力または太陽光が現実的な選択肢になると著者は言う。

その場合の建設費は、米国で4000〜6000ドル/kW、欧州では約4000ポンド/kW程度かかり、279GWの風力発電設備の建設に英国では約1兆ポンドかかる計算になる。実際には、蓄電や負荷平準化などの付帯設備費がかかるので、建設コストはさらに上がる。

蓄電設備のコストは、640MWhの設備に2億ポンドかかるが、この程度ではロンドンのピーク負荷8GWを5分間賄うのにも足りない。また、こうした大型蓄電設備には火災や爆発の危険性も伴う。従って、水を汲み上げて蓄電する(揚水発電と同じ原理)とか化石燃料のバックアップなど他の選択肢も考える必要があると著者は述べている。これも現実的な考察と言うべきだろう。

2.2. 風力と太陽光発電のための環境負荷と資源必要量

この節ではまず、前節で述べた23300GWの風力発電設備を建設するのに必要な資源量を見積もっている。以下に列挙する。

  • 鉄:25億トン(2500×106 tons)
  • コンクリート:120億トン(12000×106 tons)
  • 銅:0.7億トン(70×106 tons)← 2021年の世界の銅生産は0.21億トン
  • グラスファイバー:1.63億トン(163×106 tons)
  • プラスチック・アルミその他:2.20億トン(220×106 tons)

もちろん、建設に必要なエネルギーも膨大な量が必要になる。

いずれも、とんでもなく莫大な資源量である。元々、23300GWと言う規模がトンデモないわけだが(化石燃料の60%だけの代替で!)。注目すべきは、鉄やコンクリートの必要量の多さだろう。製鉄業や窯業はCO2多排出産業として、温暖化・脱炭素論者には目の敵にされる場合が多いけれども、彼らが当てにしている風力発電でさえも、これら「CO2多排出産業」に大きく依存している現実を深く嚙みしめるべきだ。

これらが20〜25年後の寿命を迎えたときには、その廃棄やリサイクルが大きな問題になる。プラスチックの中にはリサイクル困難なものがあるし、太陽光パネルに含まれるカドミウム・銅・ガラスなどが深刻な環境汚染を招く心配もある。

原子力や石炭発電が減り風力と太陽光が増えるに伴い、電力の安定供給には大きな問題が生じてくると著者は述べている。これも、別にこの著者特有の意見ではなく、心ある識者が繰り返し警告してきた事柄である。

2.3. 他の、規模の問題が評価されないように見える、または正直に見積もられない事例

分かりにくい表題だが、この節では各種の「CO2フリー燃料」について述べている。例えばCO2と水素から作るe-fuel。これを再生可能エネルギー電力を使って製造すると、エネルギー効率は44%に下がる(元の電力の熱量換算値と製造された燃料の保有エネルギーを比べると44%しかない、と言う意味。筆者に言わせれば、この見積もりは少し甘いと思う)。

表2でJet/Keroseneは航空用液体燃料と解してよいが、1日当り0.0379EJであるから1年当たりでは約14EJになる。これを効率44%のe-fuelで供給すると、一次エネルギー石油換算14/0.44=31.8≒32EJが必要で、これには1000GWの追加電力が必要、設備稼働率0.4の風力発電だと容量は2500 GWになると。

表2

なお、ここでも、筆者の計算では、表1の風力+太陽の1668GWで102.47EJの発電をしているのだから、32EJを得るには1668/102.47×32=520.9 GWあれば良いはずだが、ここでも約2倍合わないのである(本文には算出過程が書かれていない)。

本文では次に、水の電気分解で得られる水素を取り上げ、e-fuelよりは効率が良いと述べているが、これは当たり前である。

そもそも、再エネから作るe-fuelと言うのは、再エネ電力で水から水素を作り、これでCO2を還元しているからで、もう一段還元工程を進める分、効率は下がるからである。つまり、e-fuelなど使うくらいなら、水素を直接使う方がエネルギー的には得である。

ただし水素は気体で漏れやすく爆発しやすいので、効率は悪くとも液体のe-fuelを好むことになる。アンモニアを使うのも同様である。エネルギー的にはかなり損でも、使いやすさと安全性を重視すると、こうなる。

本文では、過剰電力の保存方式としての水素やe-fuelについてあれこれ述べているが、筆者はこの問題は重要性を待たないと考えるので詳細は省く(筆者の考えでは、電力の保存方式としても水素やe-fuelは損が大き過ぎて、将来的にも実用性はない。そもそも再エネ電力で水素を作るのが愚かであって、その電力を直接使えばよいのである!)。

次に、バイオ燃料を取り上げている。あるカーボンオフセットの資料によれば、1年に3トンのCO2を固定するのに192本の樹木と0.12haの土地が要るとある(日本国林野庁の資料では、36〜40年生のスギ人工林1 haが固定するCO2は約8.8トンとあるから、上記0.12haで毎年3トンは1ha当り毎年25トンとなり、林野庁資料の約3倍の固定量になる。ちょっと甘すぎる見積もりではなかろうか?)。一方、表2より航空用燃料は1日当り6.2 MBOE、年間では2263 MBOEとなる。これをCO2換算すると9.90億トン(990×106 tons)となる。故に、これを固定するのに必要な面積は、

0.12 ha × 990×106 t/年 ÷ 3 t/年= 39.6×106 ha

となる。故に、化石燃料全体(489.66 EJ)の僅か2.8%に過ぎない航空用液体燃料をバイオ燃料で賄うとすれば、毎年、ドイツ(35.7×106 ha)よりも広い面積に樹木を植え続けなければならない。しかもこの見積もりは、林野庁資料より面積当り固定量が約3倍も大きい前提でなされている。

日本でも、航空用燃料の「ネットゼロ化」が盛んに宣伝されて、廃食用油の転用やら藻類からのジェット燃料やら囃し立てられているが、いずれも、真面目に必要量や必要面積などを見積もったら、コスト計算に至るまでもなく実現困難と分かるような話である。しかしマスコミは多くの場合「課題はコスト面」と言うばかりで、規模や量の問題を真面目に採り上げていない。

航空関係ではまだ面白い話もあるが、字数も尽きたので、続きは次回に(ここまで11頁、約半分まで来た)。

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松田 智
元静岡大学工学部化学バイオ工学科

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