革新軽水炉「iBR」は東芝起死回生の一打となるのか

Eoneren/iStock
岸田政権はGXの目標達成のために、原子炉のリプレース・新設を打ち出した。そのリプレース・新設を担うことになるのが〝革新軽水炉〟である。
革新の要は、安全性と経済性である。日本でいえば、現行のABWR(改良型沸騰水型軽水炉))やAPWR(改良型加圧水型軽水炉)を凌ぐ安全性と経済性が求められる。つまり、改良の先をゆく革新が求められる。
三菱が掲げる革新炉であるSRZ−1200についてはすでに報じた。
iBR:東芝の打ち出した革新軽水炉
iBRとは、innovative-intelligent-inexpensive BWR の略であるらしい。つまり、革新的であり知的であり高価ではないという。具体的な設計としては出力135万キロワットのiB1350がある。

iB1350
日本原子力学会 原子力安全部会セミナー「新型炉の安全と安全規制」より
この設計のベースにあるのは柏崎・刈羽6、7号機などですでに建設と運転の実績があるABWRである。
なにが革新なのか:7日間のグレースピリオド
革新の要は2つある。一つめは安全性である。安全性のポイントは、事故によって炉心が溶けるような事態が発生する確率とその際に環境に放出されうる放射性物質の量である。いずれも従来の(つまり3.11後の追加的安全対策を施さない)ABWRに比べて2桁以上改善されるという——100分の1以下になるのである。
安全性の革新の設計上の特徴は大量の冷却水を原子炉の周辺に配備して万が一の時には運転員の操作や電動式の機械を介さなくても炉心を冷やし続けることにできる〝受動的〟安全を手厚くしたことである。
その結果、人が介入せず放っておいても炉心を冷やし続けることができる期間、これをグレースピリオド(grace period)という、が7日間になるという。従来の原子炉は型によって異なるが、せいぜい保っても数日。福島第一の3号機は運転員の必死の操作を介しながらも事故発生から3日後の3月14日には水素爆発を起こしている。であるから、実際にシビアアクシデントの危機が迫った場合に、7日間の余裕が見込めるというのは安全確保のためには非常に大きな利点である。
経済性はどうか
革新の要のもう一つは経済性である。経済性向上のポイントは、特別重要施設(いわゆるテロ対策施設)が合理化できるという。
どういうことかというと、原子炉をすっぽりと覆う格納容器の壁が二重化される(従来は一重)ので耐性が増す。そのことによって航空機などの飛来物に対しての堅牢さが増すので特別重要施設が合理化できるとのことであるが、この点の詳細は必ずしも詳らかでない。
では一体どのくらい安くなるのか?この点はさらに詳らかでない。最近の参考例でいえば、欧州型加圧水型軽水炉(EPR)がフィンランドに建造されているが、シビアアクシデント対策を万全にした結果建造費は2兆円にまでなった。
これはiB1350に限ったことではないが、一説によれば、これからつくる大型の革新的軽水炉はわが国では1.5兆円ほど掛かるのではないかと言われている。
起死回生の一打となるのか
東芝の原子力事業はウエスティングハウスの買収をめぐる粉飾決算の一件以来全くもって精彩を欠いている。長年のビジネスパートナーであった東京電力が3.11以降原子力業界での威力を失ってることも大きく影を落としていると思う。
さて、起死回生の一打となるためには、タマが飛んでこないことにはどうにもならない。東芝はすでにバッタボックスに立っている。しかし、待てど暮らせどタマは飛んできそうにないのだ。タマを放つべき投手はマウンドに姿を見せていないどころか、どうやらブルペンにもまだいないようである。
タマとは金である。タマ、つまり資金がなければいくら良い設計が手元にあっても、それを元手に革新的原子力発電所をつくることはできない。
岸田政権はそこをどう考えているのだろうか?
タマが飛んでこなければ、起死回生の一打を打つことすら絵空事なのである。
関連記事
-
アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党
-
世の中には「電力自由化」がいいことだと思っている人がいるようだ。企業の規制をなくす自由化は、一般論としては望ましいが、民主党政権のもとで経産省がやった電力自由化は最悪の部類に入る。自由化の最大の目的は電気代を下げることだ
-
2018年4月全般にわたって、種子島では太陽光発電および風力発電の出力抑制が実施された。今回の自然変動電源の出力抑制は、離島という閉ざされた環境で、自然変動電源の規模に対して調整力が乏しいゆえに実施されたものであるが、本
-
ロシアへのエネルギー依存を脱却すべく、欧州が世界中からエネルギーを買い漁っている。この影響で世界のエネルギー価格は暴騰した。これに耐えかねて、開発途上国では石炭の増産と石炭火力発電の利用計画が次々と発表されている。 ニュ
-
日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
-
水素が「筋の悪い」エネルギーであり、経済性が成立する見込みはないことは、この連載でも松田智氏が何度も説得的に述べていた。 水素は失敗すると分かっているのに… 水素先進国が直面する種々の現実的困難と対応 vs. 日本の脳天
-
SDGsの前身は2000年に国連で採択されたMDGs(Millennium Development Goals、ミレニアム開発目標)です。2015年を最終年とし、貧困や乳児死亡率の削減、環境問題など8分類21項目を掲げた
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCCでは北半球の4月の積雪面積(Snow
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















