福島第二原発を再稼動せよ

2023年09月19日 07:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

世界的に化石燃料の値上がりで、原子力の見直しが始まっている。米ミシガン州では、いったん廃炉が決まった原子炉を再稼動させることが決まった。

アメリカではシェールガスの価格が下がったため、原子力の競争力がなくなったが、ウクライナ戦争以降の化石燃料の値上がりで、ミシガン州は原発を動かす方針に転換した。今回はこれを受けて、いったん廃止されたパリセード原発(出力85.7万kW)を再稼働し、その電力を地元の発電組合に売ることが決まったものだ。

世界最大のストレステストに耐えた福島第二原発

日本では原子力規制委員会の審査を受けないまま廃炉になった原子炉が24基、未申請を含めると33基もある。その原因は新規制基準に適合させるコストが高すぎたためだが、LNGの価格が大幅に上がった今、その採算性も見直す必要がある。

資源エネルギー庁の資料

特に問題なのは、2013年に廃炉が決まった福島第二原発の1~4号機(合計440万kW)である。これは福島第一と同時に地震と津波の被害を受け、同じく非常用電源が使えなくなったが、作業員の決死の作業で電源が復旧し、冷温停止した。いわば世界最大のストレステストに合格したわけだ。

ところが地元市町村から「第一・第二原発はすべて廃炉にしろ」という要望が出たため、東電は廃炉を決めた。政府から廃炉にしろという命令が出たわけではないが、地元の「お気持ち」に配慮して東電経営陣が決めたのだ。

福島第二の売電収入を福島第一の廃炉費用に

しかし状況は変わった。LNGのスポット価格は10年前の2~5倍になり、東電の電気代はウクライナ戦争前の1.5倍になった。動かせる原発を止める機会費用が、当時より大きくなったのだ。原子力規制委員会の審査コストより、今後の経費節減効果のほうがはるかに大きい。

当時もう一つ問題になったのは、40年ルールだった。福島第二の1号機の運転開始は1982年なので、2022年には満40年だ。規制委員会がOKすれば運転を延長できるが、当時の空気ではそれが見通せなかった。「再稼動に投資するには不確定要因が大きすぎる」というのが東電経営陣の判断だった。

これも岸田政権が40年ルールを改正して、不確実性はなくなった。少なくとも耐震性については、1000年に1度の震災で実証ずみである。予備電源を浸水しない高さに設置すれば、同じような事故が起こることはありえない。

福島第二原発の廃炉作業(東電ウェブサイトより)

廃炉の作業はすでに始まっているが、まだ汚染を除去している段階で、パリセード原発のように再稼動することは、技術的には容易である。これによって地元にも雇用が生まれ、発展の余地ができる。その売電収入を福島第一の廃炉費用にあててはどうだろうか。

他にも技術的には十分運転できるのに、審査適合費用が大きすぎて廃炉が決まった原子炉が多い。脱炭素化を進めるには、これを再稼動するのがコスト最小である。エネルギー政策の正常化は、岸田政権の数少ない功績だ。今後は安倍政権の負の遺産を取り戻してほしい。

This page as PDF

関連記事

  • 今回は気候モデルのマニア向け。 気候モデルによる気温上昇の計算は結果を見ながらパラメーターをいじっており米国を代表する科学者のクーニンに「捏造」だと批判されていることは以前に述べた。 以下はその具体的なところを紹介する。
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 これまで筆者は日本の水素政策を散々こき下ろし、そのついでに「水素を燃やすのが勿体ないならば、その水素を原料に大量のエネルギーを使って合成するアンモニアを燃やすのは更に勿体ない、
  • キマイラ大学 もしかするとそういう名称になるかもしれない。しかしそれだけはやめといたほうが良いと思ってきた。東京科学大学のことである。東京工業医科歯科大学の方がよほどマシではないか。 そもそもが生い立ちの異なる大学を無理
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • きのうのアゴラシンポジウムでは、カーボンニュートラルで製造業はどうなるのかを考えたが、やはり最大の焦点は自動車だった。政府の「グリーン成長戦略」では、2030年代なかばまでに新車販売の100%を電動車にすることになってい
  • 3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、格納容器の外部での水素爆発により、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。 しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。チェルノブイリでは、原子炉全体が崩壊し、高熱で、周囲のコンクリ―ト、ウラン燃料、鋼鉄の融け混ざった塊となってしまった。これが原子炉の“メルトダウン”である。
  • 電気自動車(EV)には陰に陽に様々な補助金が付けられている。それを合計すると幾らになるか。米国で試算が公表されたので紹介しよう(論文、解説記事) 2021年に販売されたEVを10年使うと、その間に支給される実質的な補助金
  • 2018年4月全般にわたって、種子島では太陽光発電および風力発電の出力抑制が実施された。今回の自然変動電源の出力抑制は、離島という閉ざされた環境で、自然変動電源の規模に対して調整力が乏しいゆえに実施されたものであるが、本

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑