COP28を前にして化石燃料で潤う米国のかかえた自己矛盾

2023年11月29日 06:50
アバター画像
国際環境経済研究所主席研究員

Darwel/iStock

COP28が11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される。そこで注目される政治的な国際合意の一つとして、化石燃料の使用(ならびに開発)をいつまでに禁止、ないしはどこまで制限するか(あるいはできないか)という問題がある。

気候変動対策で世界を主導してきた欧米では、パリ協定の目標である1.5℃を達成するには注1)、化石燃料の生産や使用を2030年までに大幅に制限し、なかでもCO2排出量の大きな石炭の使用を早急に止めていく必要があるとの論調が強く叫ばれている。

実際今年5月に広島で開催されたG7サミットの首脳コミュニケでも、

我々は、2035年までに電力セクターの完全又は大宗の脱炭素化の達成及び気温上昇を1.5℃に抑えることを射程に入れ続けることに整合した形で、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた、具体的かつ適時の取組を重点的に行うというコミットメントを再確認し、他の国にも参画することを求める。(下線は筆者追加)

として、世界各国に石炭の段階的廃止を求めていくとされている。

しかし一方で、この11月になって、こうした議論をリードしてきた米国バイデン政権の政府機関である米国エネルギー情報局(EIA)から、大変興味深いレポートが発表されている。

11月2日に公表されたレポート注2)では、米国の石炭輸出統計について、ウクライナ紛争を受けて欧州においてロシア制裁の一環として開始されたロシア産の石炭輸入禁止措置が、猶予期間を経て全面的に適用され始めた2022年8月以降の1年間(23年7月まで)の、米国産石炭の欧州への輸出が、その以前の1年間の実績を22%上回る3310万トン注3)に拡大したことが報告されている。

その内訳を見ると発電用石炭が1440万トン(51%増)、製鉄用原料炭が1860万トン(6%増)ということであり、主に石炭火力発電向けの燃料炭の輸出が急増している。仮にこの間の石炭価格が平均で$300/トン程度だったとして概算すると、年間で米国にとっての石炭の輸出額は100億ドルにのぼることになる(その前の期に比べて20億ドルもの売り上げ拡大)。

つまり米国は現状で世界有数の石炭輸出国なのであり、気候変動政策の国際交渉の場で石炭火力の廃止を訴えながら、一方で石炭の輸出で巨額の富を稼いでいることになり、ウクライナ紛争でロシア産石炭の輸出が減る中でそれがさらに拡大しているという実態が見えてくる。

一方EIAの11月13日のレポート注4)では、さらに興味深いデータが示されている。北米において液化天然ガスの輸出基地の建設が急拡大しており、2027年までにLNGの輸出能力が、現状と比べてほぼ倍増する見込みというのである(図参照)。

今後新規に北米地域で立ち上がる輸出基地の能力が129億Bcf/日であり、その内訳はメキシコが11億Bcf/日、カナダが21億Bcf/日に対して、米国が97億Bcf/日と、米国が輸出能力拡大の太宗を占めている。

もともと2010年代に入り、いちはやくシェールガス開発が進んだ米国は、既に天然ガス生産ではロシアを抜いて世界最大の産出国になっており、2018年にはそれまでのガス輸入国から純輸出国に転じている。こうして新規に立ち上がるLNG輸出基地は、投資回収のため2027年以降も、数十年にわたって稼働するものと思われ、2030年代を通して米国は世界最大級の天然ガス(=化石燃料)輸出国として国際エネルギー市場に君臨し、巨額の国益を獲得することが期待されているということがこのレポートから読み取れる。

一方同じ米国でもバイデン政権下にある米国の金融当局は、金融規制を通じた化石燃料の開発、生産、利用への資金流入の抑制を指向しており、金融安定監督評議会は「気候変動に関するリスクが金融システムの安定上の重大懸念である」と表明しており、また米国政府は世界銀行や米州開発銀行などの国際開発金融機関を通じた、化石燃料資源開発への資金供給を絞り、国際金融の流れの脱炭素化を図っている。

こうした米国政府の言動を、経済成長に向けて今後エネルギー供給の確保が必要となる新興国、途上国の立場から見たときにどう見えるか?

米国は国内で民間資金による天然ガス開発と輸出インフラ投資を大きな利益をもたらすビジネスチャンスとして拡大する一方で、国際交渉の舞台では化石資源開発の抑制を訴え、公的資金や国際的な援助資金の流れを止めようとしている。その結果起きるのは、米国が国内で潤沢に産出する天然ガスや石炭といった化石燃料に、世界が依存せざるをえなくなる未来なのではないか?

この二枚舌とも見える米国の現実と主張の乖離、自己矛盾したスタンスに世界、特に今後経済八手のためにエネルギー需要が拡大することが必至の途上国がどのように反応するかが、COP28における注目点の一つになる。

注1)ここでいうパリ協定の目標を正確に示すと「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2高い水準を十分に下回るものに抑えること、並びに世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも1.5高い水準までのものに制限するための努力を、この努力が気候変動のリスク及び影響を著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ、継続すること。」(パリ協定2条1(a)、外務省公式翻訳 下線筆者追加)となる。パリ協定自体では1.5℃は「努力目標」に留まり、合意された目標は2℃になっているのだが、1.5℃をパリ協定の目標と強調する世間の通り相場は、英国グラスゴーで開催されたCOP26における欧米のスタンスによって形成された政治的な拡大解釈である。

注2)“EU sanctions on Russia’s coal increase U.S. coal exports to Europe”, Today in Energy, November 2, 2023, EIA

注3)これは米国の単位ショートトンなので、通常のトン単位より1割ほど少なくなる

注4)“LNG export capacity from North America is likely to more than double through 2027”, Today in Energy, November 13, 2023, EIA

This page as PDF
アバター画像
国際環境経済研究所主席研究員

関連記事

  • 大手メディアは無視したが、ハフィントンポストが「福島の子供の甲状腺がん発症率は20~50倍」という津田敏秀氏の外人記者クラブでの発表を報じている。私は疫学の専門家ではないが、Togetterで専門家から多くの批判が出ている。
  • 【Vlog】ペットボトルは分別しないで燃やせばいい アゴラチャンネルで池田信夫のVlog、「ペットボトルは分別しないで燃やせばいい」を公開しました。 ☆★☆★ You Tube「アゴラチャンネル」のチャンネル登録をお願い
  • 猪瀬直樹氏が政府の「グリーン成長戦略」にコメントしている。これは彼が『昭和16年夏の敗戦』で書いたのと同じ「日本人の意思決定の無意識の自己欺瞞」だという。 「原発なしでカーボンゼロは不可能だ」という彼の論旨は私も指摘した
  • アメリカ人は暑いのがお好きなようだ。 元NASAの研究者ロイ・スペンサーが面白いグラフを作ったので紹介しよう。 青い曲線は米国本土48州の面積加重平均での気温、オレンジの曲線は48州の人口加重平均の気温。面積平均気温は過
  • イタリアのトリノで4月28日~30日にG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催され、共同声明を採択した。 最近のG7会合は、実現可能性がない1.5℃目標を前提に現実から遊離した議論を展開する傾向が強いが、トリノの大臣会合
  • これが日本の産業界における気候リーダーたちのご認識です。 太陽光、屋根上に拡大余地…温室ガス削減加速へ、企業グループからの提言 245社が参加する企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は7月、GH
  • 福島第一原子力発電所事故の後でエネルギー・原子力政策は見直しを余儀なくされた。与党自民党の4人のエネルギーに詳しい政治家に話を聞く機会があった。「政治家が何を考えているのか」を紹介してみたい。
  • アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」を公開しました。今回のテーマは「地球温暖化に適応するインフラ整備」です。 今年は大型台風が来て「地球温暖化が原因ではないか」といわれましたが、台風は増えているのでしょうか。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑