食料安全保障の脅威は台湾有事より気候変動なのか

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政府「不測時における食料安全保障に関する検討会」のとりまとめが発表された。
その内容は、不測の事態によって食料が不足するときに、政府が食料の配給をしたり、価格を統制したり、コメやサツマイモなどの高カロリーの作物への生産の転換を促す、といった内容だ。
確かにこれ自体は必要なことだが、「不測の事態」の認識がどうもおかしい。
「とりまとめ」を読むと、不測の事態のトップになっているのが「気候変動による食料生産への影響」である。
たしかに旱魃(かんばつ)で作物に被害が出ることはある。だが旱魃が「人為的な気候変動のせい」で起きたと証明されたことなど無い。
IPCCの報告を見ても、旱魃については、極めてCO2排出量が高く推移したとしても2100年に至るまで人為的な影響は自然変動と区別できない、となっている。つまり旱魃が起きるとしても誤差の内なのだ。洪水についても同様で、IPCCを信じても、2050年に至るまでは人為的な影響は自然変動と区別できず、誤差の内、となっている。
その一方で、「とりまとめ」では、「地政学的な情勢の不安定化」についてはごく短く触れているだけだ。引用すると「地政学的な情勢の不安定化は、輸入依存度の高い我が国の食料供給に深刻な影響を及ぼす可能性がある。」これだけだ。
だがこれで大丈夫か? 台湾有事が迫っている。日本周辺の海域も安全な航行が出来なくなるかもしれない。すると食料輸入もエネルギー輸入もストップしてしまう。
いくら食料を配給したり、作物の転換をすると言っても、そもそも配る食料がなくなる。エネルギーが輸入できなければ、作物の転換といっても生産すらできず、また食料の輸送もできない。冷蔵も冷凍も使えないので食料は腐ってしまう。
台湾有事まで考えれば、飢えないために必要なことは、まずは玄米などの食料を充分に備蓄することであり、またエネルギーの備蓄である。
だが今回の政府「とりまとめ」では、そもそも台湾有事は「想定外」、シーレーンの遮断も「想定外」、食料だけでなくエネルギーが同時に不足することも「想定外」のようだ。
これで「不測時における食料安全保障」になっているのだろうか。国民が飢え死にすることは避けられるのか。
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筆者は1960年代後半に大学院(機械工学専攻)を卒業し、重工業メーカーで約30年間にわたり原子力発電所の設計、開発、保守に携わってきた。2004年に第一線を退いてから原子力技術者OBの団体であるエネルギー問題に発言する会(通称:エネルギー会)に入会し、次世代層への技術伝承・人材育成、政策提言、マスコミ報道へ意見、雑誌などへ投稿、シンポジウムの開催など行なってきた。
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