再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か④

2024年03月28日 06:40
アバター画像
一般社団法人 火力原子力発電技術協会 エンジニアリングアドバイザー

metamorworks/iStock

(前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か③

結局、火力発電を活かすことが最も合理的

再エネの出力制御対策パッケージをもう一度見てみよう。

需要側、供給側、系統側それぞれの対策があるが、多くの項目が電力需給のバランスを維持したり周波数制御を行ったりするのに欠かせない「調整力」の拡大を念頭にしたものだ。

図1 出力制御対策パッケージ
出典:経済産業省

さまざまな対策がある中で、供給側の対策のひとつとして「火力等発電設備の運用高度化」という項目があるが、これは既存の設備・技術の潜在力を引き出すことであり、実効性・即効性の高い対策である。では、具体的にどういう内容であろうか。

火力機の最低出力引下げもその一つなのではあるが、それ以外にも出力変化速度の向上や起動時間の短縮などがあり、これらを組み合わせることで、日暮れや天候の急変による再エネ出力変動による需給ギャップへの対応力を向上させることができる。

このように、火力機の性能向上を図ることによって調整力を拡大することができ、安定供給確保と再エネ出力抑制低減の両立が可能となるのである。

図2 火力設備の調整力一覧

調整力については、従来送配電事業者の公募により調達されていたが、2021年度より順次需給調整市場へ移行し、2024年度から全面的に市場からの調達へと切り替わる。

火力設備の運用高度化をすれば調整力を安定確保することができるが、そのためには機能追加のための改造費用や頻繁な起動停止など過酷な運転を強いられることによるメンテナンス費用の増加がコストアップの要因となってしまう。

もし仮に、上記の様なコストを市場で回収できないことになれば、調整電源を運用する火力発電事業者はいなくなってしまうだろう。

前回も指摘した通り、調整力が足りなければ電力の安定供給が確保できず、再エネの拡大も阻害されてしまう。

送電線や蓄電池を今すぐ増やせば良いとの声もあるが、設備の建設に相応の時間がかかるだけでなく、コスト面で比較した場合、既存の設備や技術を活用する火力設備の運用高度化の方が有利であり、社会的コストである系統維持費用を低く抑えるという視点で見た場合、火力機を当面有力な調整電源として活用することが素直な市場メカニズムというものだ。

齋藤経産相が言うように、電力の安定供給を維持しながら再エネの導入を進めるためには、今すぐ脱炭素電源へのシフトに拘るのではなく、足下では火力発電の調整力を最大限に活用する方が合理的ということになる。

再エネの出力制御が増加する状況を見て、「はしごを外された」と再エネ業者が嘆いているとの報道もあったが、間欠性という特徴を持つ自然変動電源を主力電源にするのであれば、電力が余剰となる断面が増えるのは自然の理であり従前から分かっていたことだ。再エネの出力制御は、もったいないと考えるのではなく、電力系統の安定運用に寄与していると理解すべきなのである。

これから2050年のカーボンニュートラルを目指していくためには、技術の進展などを見極めながら再エネの拡大、蓄電池・揚水の増強、火力発電の設備更新と脱炭素化改造、デマンドレスポンスの拡大、安全性を確保した原子力発電など様々な方策をバランスよく組み合わせることが必要となる。

現段階では、どのように組み合わせるのがベストであるかは特定できないが、取組を着実に進めていくためには、いずれにしても先ずは足元の供給力・調整力不足の懸念を払しょくすることが大前提であることを正しく理解して欲しい。

その上で、大きな変革を地道に成し遂げるためには地に足の着いたロードマップが必要であり、それを自由化の下で進めるには、事業者の行動を促す市場制度の整備が求められる。

電力を含むエネルギーは、目に見えなくても物質としての「量」があり、自然科学の法則に従わざるを得ないとともに不連続な変化をすることはできない。

カーボンニュートラル実現のために非連続なイノベーションが不可欠だと言われるけれども、そこには、やはり科学的な裏付けと連続性が必要なのだ。

今年はエネルギー基本計画改定の議論も行われることになるが、威勢がいいばかりの野心的目標に引きずられ、絵に描いた餅にならないことを祈るばかりである。

(了)

【関連記事】
再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か
再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か②
再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か③

This page as PDF
アバター画像
一般社団法人 火力原子力発電技術協会 エンジニアリングアドバイザー

関連記事

  • 米国ラムスセン社が実施したアンケート調査が面白い。 一言で結果を言えば、米国ではエリートはCO2の規制をしたがるが、庶民はそれに反発している、というものだ。 調査は①一般有権者(Voters)、②1%のエリート、③アイビ
  • 4月の日米首脳会談では、炭素税(カーボンプライシング)がテーマになるといわれています。EU(ヨーロッパ連合)は今年前半にも国境炭素税を打ち出す方針で、アメリカのバイデン政権も、4月の気候変動サミットで炭素税を打ち出す可能
  • 東京都知事選投票日の翌朝、テレビ取材のインタビューに小泉純一郎氏が晴れ晴れとして応えていた。この歳になってもやれると実感したと笑みをこぼしていた。なんだ、やっぱり寂しい老人の御遊びだったのか。インタビューの随所からそんな気配が読み取れた。
  • オックスフォード大学名誉教授のウェイド・アリソン氏らでつくる「放射線についての公的な理解を促進する科学者グループ」の小論を、アリソン氏から提供いただきました。
  • シェブロン、米石油ヘスを8兆円で買収 大型投資相次ぐ 石油メジャーの米シェブロンは23日、シェールオイルや海底油田の開発を手掛ける米ヘスを530億ドル(約8兆円)で買収すると発表した。 (中略) 再生可能エネルギーだけで
  • 福島における原発事故の発生以来、世界中で原発の是非についての議論が盛んになっている。その中で、実は「原発と金融セクターとの関係性」についても活発に議論がなされているのだが、我が国では紹介される機会は少ない。
  • 1月12日の産経新聞は、「米マクドナルドも『多様性目標』を廃止 トランプ次期政権発足で見直し加速の可能性」というヘッドラインで、米国の職場における女性やLGBT(性的少数者)への配慮、『ポリティカルコレクトネス(政治的公
  • 池田信夫氏は「概算要求の『強く豊かな日本』投資枠はクールジャパン機構の拡大版」で、政府が「成長投資」と呼ぶなら、そのリターンを示すべきだと指摘した※1)。 まったくその通りである。民間企業であれば、投資によって将来どれだ

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑