日本最大のメガソーラーは建築確認なしで買取価格40円の無法地帯

2024年04月16日 08:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

長崎県の宇久島で計画されている日本最大のメガソーラーが、5月にも着工する。出力は48万kWで、総工費は2000億円。パネル数は152万枚で280ヘクタール。東京ディズニーランドの5倍以上の巨大な建築物が、県の建築確認なしで建設される。民主党政権が太陽光発電を建築基準法の適用除外にしたからだ。

宇久島メガソーラーのイメージ(公式ホームページより)

2012年度の買取価格40円で発電開始

当初はドイツ企業が土地を取得し、京セラと九電工とオリックスが事業主体となって2013年3月末に事業認可を取ったことになっているが、実はこのとき用地取得は終わっておらず、6801筆の「賃貸証明書」がかわされただけだった。交渉が難航したためドイツ企業とオリックスは撤退したが、残った企業が交渉を続け、2019年に賃貸契約が完了した。

電力会社と接続して発電開始するのは今年末の見込みだが、宇久島メガソーラーのFIT買取価格は2012年度の40円のままである。2017年に改正された再エネ特措法では、買取価格の決定は電力会社との接続契約の終わった後になったが、それ以前に事業認定を取った物件は例外とされたからだ。

FITの買取価格(資源エネルギー庁の資料)

民主党政権が駆け込みで出した「裏口認定」

これについて地元の組坂善昭氏が住民訴訟の準備を進めている。彼によると、経産省は2013年に用地買収も賃貸契約も終わっていなかったのに、見込みだけで裏口認定した疑いがあるという。

2012年度に経産省はこの事業認可にあたって「報告徴収」したことになっているが、組坂氏が経産省に報告徴収の情報公開請求をしたところ、経産省は「書類はすべて廃棄した」と回答した。これは報告徴収をしなかったためだと彼はみている。

発電所の事業認可は接続が終わってから行なうのが普通だが、2012年に再エネ特措法ができたとき、再エネ業者が「大手電力が接続契約を延ばしてサボタージュする」と主張し、民主党政権が「認定見込み」だけで買取価格を決め、発電開始の期限も決めなかった。

このため認定だけ取って野ざらしになっている物件がたくさんある。経産省はこのような状況に批判を受けて特措法を改正し、2019年9月までに工事計画書が受理される必要があった。この期限はぎりぎりでクリアしたが、実際には用地取得が終わっていなかった。

組坂氏の時系列表

建築確認も環境アセスも消防法の規制もなし

さらに問題なのは、このメガソーラーには建築確認も環境アセスメントもないことだ。民主党政権が「原発が止まって電力が不足しているので少しでも早く発電開始が必要だ」という理由で、建築基準法の適用除外の「電気工作物」とした結果である。そんなことをしなくても、原発を通常通り動かせばよかったのだ。

おかげで宇久島の面積の1割以上を占めるメガソーラーは、集中豪雨が起きたら土砂崩れを起こすおそれがある。2019年からメガソーラーには環境アセスメントが義務づけられたが、それ以前に認定された物件は(建設する前でも)適用除外とする抜け道ができた。住民の反対運動で業者は一部で「自主的に」アセスメントをやったが、住民は納得していない。

危険なのは山火事である。メガソーラーで火災が起こったとき放水すると感電するため、消防士が消火できない。建築基準法の適用除外なので消防法の対象にもならず、長崎県も規制できない。和歌山県すさみ町の山火事では自衛隊ヘリが出動したが、4日間燃え続けて15ヘクタールが焼けた。宇久島の280ヘクタールのメガソーラーが燃えたら、大惨事になるだろう。

「太陽光転がし」の利益は電力利用者の負担

このように民主党政権が政権末期に駆け込み的に決めた抜け道だらけの規制とバカ高い買取価格に安倍政権も手をつけなかったため、再エネは無法地帯となり、認定だけ取って発電できない積み残し物件が大量に発生した。

これを安く買い取り、反社を使って借地人を追い出して高く転売するビジネスが横行した。これが三浦瑠麗氏の夫が詐欺容疑で逮捕された太陽光転がしである。彼らの利益は、すべて電力利用者が再エネ賦課金として負担するのだ。

「無法メガソーラー」の建設を止めよ

その後、再エネ特措法は一部改正されて大規模なメガソーラーには環境アセスメントが義務づけられたが、規制や買取価格は事業認定の時点の法令で決まるので、事業認可から11年たって現在の4倍の売電価格で発電が始まる。

新しい特措法では宇久島のメガソーラーの買取価格は2023年の10円以下になるはずだが、40円で20年間も買い取られる。価格はkWhあたり30円も違うので、年間5億kWh発電する宇久島メガソーラーでは、20年間で3000億円も高い買取価格になる。これはすべて国民負担だ。

このような抜け道をふさぎ、今年発電開始するメガソーラーには、今年の規制を適用すべきだ。長崎県は条例を制定して宇久島メガソーラーの建設工事を差し止め、建築確認と環境アセスメントをおこない、FIT買取価格を発電開始のときの価格に変更すべきである。

経産省はこのような抜け道だらけの再エネ特措法を改正してFITを廃止し、過去に認定した物件も発電開始のときの買取価格に改めるべきだ。またメガソーラーに建築基準法を適用し、土砂崩れや山火事の危険がある物件は撤去させる必要がある。

This page as PDF

関連記事

  • 3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、格納容器の外部での水素爆発により、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。 しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。チェルノブイリでは、原子炉全体が崩壊し、高熱で、周囲のコンクリ―ト、ウラン燃料、鋼鉄の融け混ざった塊となってしまった。これが原子炉の“メルトダウン”である。
  • 日本の福島第一原子力発電所からの放射能漏れ事故についての報道は、安全について明らかに恐ろしいメッセージを伝えた。そして世界中の産業界、政府そして市民は決してこのような事故を起こしてはならないという反応を示した。
  • 福島原子力事故を受けて、日本のエネルギー政策の見直しが進んでいます。それはどのような方向に進むべきか。前IEA事務局長であり、日本エネルギー経済研究所特別顧問である田中伸男氏に「日本のエネルギー政策見直しに思う」というコラムを寄稿いただきました。
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 「地球温暖化が想定を上回るスピードで進んでいる。」と言った前振りが、何の断りもなく書かれることが多くなった。筆者などの感覚では、一体何を見てそんなことが言えるのだろうと不思議に
  • 東京電力福島第一原子力発電所の1号機から4号機においては東日本大震災により、①外部電源および非常用電源が全て失われたこと、②炉心の燃料の冷却および除熱ができなくなったことが大きな要因となり、燃料が損傷し、その結果として放射性物質が外部に放出され、周辺に甚大な影響を与える事態に至った。
  • エネルギーをめぐる現実派的な見方を提供する、国際環境経済研究所(IEEI)所長の澤昭裕氏、東京工業大学助教の澤田哲生氏、アゴラ研究所所長の池田信夫氏によるネット放送番組「言論アリーナ」の議論は、今後何がエネルギー問題で必要かの議論に移った。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク「GEPR」(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 反原発を訴えるデモが東京・永田町の首相官邸、国会周辺で毎週金曜日の夜に開かれている。参加者は一時1万人以上に達し、また日本各地でも行われて、社会に波紋を広げた。この動きめぐって市民の政治参加を評価する声がある一方で、「愚者の行進」などと冷ややかな批判も根強い。行き着く先はどこか。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑