トランプ政権はエネルギードミナンス重視だが日本は脱炭素という愚行

2025年01月24日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

トランプ政権の猛烈なスタートダッシュに世界が圧倒されている。ホワイトハウスのHPには、サインしたばかりの大統領令が、即日、続々とアップされた。下手な報道を見るよりも、こっちを見た方がよほど正確で早い。

トランプ政権はエネルギー政策をたいへんに重要視している。ホワイトハウスHPの「われわれの優先事項(Our Priorities)は僅か5行の簡潔なものだが、この中の5項目は「コストを下げる、国境を護る、エネルギードミナンスを解き放つ、強さによる平和を確立する、米国を安全にする」となっていて、エネルギードミナンスは、5つの主要課題の1つとなっている。

エネルギードミナンスとは、以前書いたように、米国の埋蔵する莫大なエネルギーを採掘し、大量かつ安価に供給することで、自国と友好国の経済力を高め、敵(中国やロシアなど)に対する優勢(ドミナンス)を構築する、という考え方だ。

https://agora-web.jp/archives/240206063735.html

この「READ MORE」をクリックすると、さらに説明があるが、ここも4項目しかない。

「アメリカを安全にする、コストを下げエネルギードミナンスを確立する(Make America Affordable and Energy Dominant Again)、行政機構を改革する、アメリカの価値を取り戻す」である。

ここでもまたエネルギードミナンスが4つの主要課題のうちの1つとなっており、しかももっとも多くの行数を割いて説明している。その内容を訳すと以下の通りだ:

  • 気候過激主義に基づくバイデンの政策を廃止し、許認可手続きを合理化し、エネルギー生産や利用に過剰な負担を強いる規制(燃料以外の鉱物の採掘や加工を含む)をすべて見直し無効化することで、米国のエネルギーを解き放つ。
  • エネルギー政策において、自動車、シャワーヘッド、トイレ、洗濯機、電球、食器洗浄機などにおける消費者の選択肢を拡大する。
  • エネルギー緊急事態を宣言し、必要なあらゆる資源を活用して重要なインフラを構築する。
  • 自然景観を損ない、米国のエネルギー消費者への奉仕に失敗する大規模な風力発電所へのリースを終了する。
  • パリ気候協定から離脱する。
  • すべての政府機関は生活費削減のための緊急対策を実施する。
  • アメリカ第一の貿易政策を発表する。
  • 米国企業を罰するような国内の税制の改正について、外国の組織の意向に囚われることはしない。

さて、日本はまさに「気候過激主義に基づくバイデンの政策」に擦り寄ってきたが、それはここで、トランプ政権によって全否定されている。

今後の日本政府の予定としては、1月27日には「地球温暖化対策計画(案)」へのパブコメを締め切る。この案には、2035年50%削減、2040年73%削減(2013年比)というCO2排出目標が書きこまれている。政府はこれを閣議決定して、パリ気候協定の事務局に対して、締め切りとされる2月10までに提出することになっている。

石破政権はただでさえトランプ政権に相手にされていないと報じられている。そこにきて、出来るはずのない数値目標を設定し、パリ協定に提出などしたら、ますます、その愚かさをさらけだすことになる。

日本は2月10日のパリ協定事務局への数値目標提出を無期延期すべきだ。米国が離脱したいま、そのまま提出しなければ、パリ協定は空文化する。

その上で、日本はトランプ政権からエネルギーを買えばよい。トランプ政権は、エネルギー・ドミナンスの一貫として、エネルギーを友好国に輸出する、ということもはっきりと打ち出している。

日本にとっても、中東も台湾周辺も不穏ないま、強力な同盟国であるアメリカからのエネルギー輸入は、安全保障上このましい。またトランプ政権は貿易赤字削減を目的として、日本にも交渉を仕掛けてくることは必定だが、そのときには、エネルギー輸入はよいディールの材料にもなる。

いまエネルギー政策の方針を大きく転換しないと、これから日本のエネルギー、そして対米関係は修復することが大変になってしまう。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 日米原子力協定が自動延長されたが、「プルトニウムを削減する」という日本政府の目標は達成できる見通しが立たない。青森県六ヶ所村の再処理工場で生産されるプルトニウムは年間最大8トン。プルサーマル原子炉で消費できるのは年間5ト
  • はじめに 世界の脱炭素化の動きに呼応して、今、世界中の自動車メーカーが電気自動車(EV)に注力している。EV化の目的は走行中のCO2排出を削減することにあり、ガソリンエンジンなどの内燃機関を蓄電池駆動のモーターに切替えて
  • エネルギー危機が世界を襲い、諸国の庶民が生活の危機に瀕している。無謀な脱炭素政策に邁進し、エネルギー安定供給をないがしろにした報いだ。 この年初に、英国の国会議員20名が連名で、大衆紙「サンデー・テレグラフ」に提出した意
  • 6月27日から30日にかけて、東京電力管内では広域ブロック予備率が5%を切る時間帯が生じると見込まれ、政府より「需給ひっ迫注意報」が発出された。SNS上では「かつてはこのようなことは起きなかった」「日本の電力の安定供給体
  • 福島県で被災した北村俊郎氏は、関係者向けに被災地をめぐる問題をエッセイにしている。そのうち3月に公開された「東電宝くじ」「放射能より生活ごみ」の二編を紹介する。補償と除染の問題を現地の人の声から考えたい。現在の被災者対策は、意義あるものになっているのだろうか。以下本文。
  • 今年のCOP18は、国内外ではあまり注目されていない。その理由は、第一に、日本国内はまだ震災復興が道半ばで、福島原発事故も収束したわけではなく、エネルギー政策は迷走している状態であること。第二に、世界的には、大国での首脳レベルの交代が予想されており、温暖化交渉での大きな進展は望めないこと。最後に、京都議定書第二約束期間にこだわった途上国に対して、EUを除く各国政府の関心が、ポスト京都議定書の枠組みを巡る息の長い交渉をどう進めるかに向いてきたことがある。要は、今年のCOP18はあくまでこれから始まる外交的消耗戦の第一歩であり、2015年の交渉期限目標はまだまだ先だから、燃料消費はセーブしておこうということなのだろう。本稿では、これから始まる交渉において、日本がどのようなスタンスを取っていけばよいかを考えたい。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 英国の研究所GWPFのコンスタブルは、同国の急進的な温暖化対策を、毛沢東の大躍進政策になぞらえて警鐘を鳴らしている。 Boris’s “Green Industrial Revolution” is Economic L

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑