EUの炭素関税が破綻必至な理由を示す図表を公開します

Yastaj/iStock
前回の記事で、①EUが実施しようとしている国境炭素税(CBAM)は、世界を敵に回す暴挙で、世界諸国によって潰されることになる、②このCBAMへの対応を理由に日本は排出量取引制度法案を今国会で審議しているが、経済自滅を招くだけなので否決すべだ、と述べた。
EU国境炭素税はBRICSが潰す:国会は排出量取引法案を否決せよ
今回は、CBAMの税率と対象となる国家についての計算結果を紹介する。
1. CBAMが課す国境炭素税の税率は何%になるか。
EU ETS価格を€80/t-CO₂として、代表的な埋込排出原単位(製品製造時のCO2排出原単位のこと) × EUETS(欧州の排出量取引制度)の排出権価格 ÷ 製品の代表的国際価格として、CBAMの税率を計算したのが表1である(為替は 1€ = US$1.10とした)。
結果は20%から79%と、極めて高い税率になることが分かる。トランプ税率なみといったところか。

表 CBAM対象品目ごとの税率推計値
なお留意点として、
- EUは 原産国で既に課された炭素価格を控除するとしているため、実効税率は国ごとに変わる(ただしこの控除の是非はEUの審査による)。
- 表は文献に基づく典型的な生産プロセスと製品を想定して計算した。各企業は実測値(例えば製鉄所単位でのLCA計算)を提出できれば、税率を下げることができる。
- ETS価格が €100/t に上昇すれば、表中の関税換算率は 1.25倍になる。
2. CBAMの矢面に立つ国々はどこか(日本ではない)
さて、この高い税率の矢面に立つのは日本ではない。EUの輸入量全体を100%として、それに占める輸出国のシェアを、以下で6枚の図に示す。図は順に、鉄鋼、アルミ、セメント、窒素肥料、水素及び希ガス、電力である。
日本のシェアといえば、もっとも多い鉄鋼でも4%であり、中国、韓国、インドなど多くの国に続く11位である。鉄鋼以外の製品については、日本は殆ど輸出していない。EUは、世界を敵に回すことになるので、このCBAMは腰砕けになるだろう。日本へ深刻な悪影響を及ぼすことになるとは、考え難い。
■

関連記事
-
福島における原発事故の発生以来、世界中で原発の是非についての議論が盛んになっている。その中で、実は「原発と金融セクターとの関係性」についても活発に議論がなされているのだが、我が国では紹介される機会は少ない。
-
米軍のイラク爆撃で、中東情勢が不安定になってきた。ホルムズ海峡が封鎖されると原油供給の80%が止まるが、日本のエネルギー供給はいまだにほとんどの原発が動かない「片肺」状態で大丈夫なのだろうか。 エネルギーは「正義」の問題
-
日本最大級の言論プラットホーム・アゴラが運営するインターネット放送の「言論アリーナ」。6月25日(火曜日)の放送は午後8時から1時間にわたって、「原発はいつ再稼動するのか--精神論抜きの現実的エネルギー論」を放送した。
-
17の国連持続可能目標(SDGs)のうち、エネルギーに関するものは7番目の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」である。 しかし、上記の資料は国連で採択されたSDGsの要約版のようなものであり、原文を見ると、SDG7は
-
グローバル・エネルギー・モニターという団体が石炭火力発電動向に関する報告書を発表した。 分かり易い図がいくつかあるので紹介しよう。 まず2023年の1年間で、追加された石炭火力設備容量と(赤)、退役した石炭火力設備容量(
-
「核科学者が解読する北朝鮮核実験 — 技術進化に警戒必要」に関連して、核融合と核分裂のカップリングについて問い合わせがあり、補足する。
-
外部電源喪失 チェルノブイリ原子力発電所はロシアのウクライナ侵攻で早々にロシア軍に制圧されたが、3月9日、当地の電力会社ウクルエネルゴは同発電所が停電していると発表した。 いわゆる外部電源喪失といって、これは重大な事故に
-
「もしトランプ」が大統領になったら、エネルギー環境政策がどうなるか、これははっきりしている。トランプ大統領のホームページに動画が公開されている。 全47本のうち3本がエネルギー環境に関することだから、トランプ政権はこの問
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間