米国エネルギー長官が英国・ドイツの脱炭素政策を猛批判
ゴールドマン・サックス主催の会議で、クリス・ライト米国エネルギー長官は、バイデン政権、イギリス、ドイツが推進してきた脱炭素政策を猛烈に批判している。英国シンクタンクのNetZeroWatchが紹介している。
An absolute takedown of the whole Net Zero agenda by U.S. Energy Secretary @SecretaryWright.
Britain is crying out for an energy secretary that is driven by rationality and not zealotry. pic.twitter.com/kpHrAk8d4U
— Net Zero Watch (@NetZeroWatch) January 8, 2026
要点は以下の通り。
- 石油、天然ガス、石炭は、これまでも、これからも、エネルギーの主役だ。衰退産業などではない。
- イギリスもドイツも莫大な再エネ投資をしたが、産業空洞化しただけで、気候変動対策にすらなっていない。これは人類史上最大の誤った投資(マルインベストメント)だ。合理性のかけらも無い。
クリス・ライト大臣、日本にも同じことを言ってやって下さい。
歯切れの良い、パンチの効いたスピーチなので、以下に全文を訳出しておこう。
人々がほとんど耳にしない事実があります。アメリカの一次エネルギー消費の総量のうち、現在72%以上が石油と天然ガスという二つのエネルギー源から来ているということです。量だけでなく、市場シェアとしても過去最高水準です。ここ15年ほど私が聞かされ続けてきた「衰退産業」というイメージとは、どう考えても一致しません。
しかし電力部門となると、話はまったく違ってきます。石油・ガス生産部門では、資本集約度は低下し、効率は向上し、生産量は急増しています。だが一方で、電力部門では何が起きているでしょうか。投資は急増し、莫大な資金が流れ込んでいる。ところがその結果はどうか。電力の生産量はほとんど増えていないにもかかわらず、電力価格は大幅に上昇しているのです。(訳注:再エネを批判している)
電力料金を高くし、しかもその政策がどこへ向かうのか分からなければ、どうなるか。エネルギー多消費型産業は国を出ていく。これは、イギリスやドイツがまさに得意技にしていることです。ドイツでは、5,000億ドルを投資し、電力網の設備容量を2倍以上に増やしたにもかかわらず、発電量は投資前より20%も少ない。しかも、その電力を3倍の価格で売っている。これは勝てるモデルではありません。世界が真似するようなモデルでもありません。
私たちは完全に道を踏み外してしまいました。本来、私たちの産業は賢く、詳細な分析を行い、物理、数学、数値を重視します。しかし気候変動の話となると、合理性を置き去りにしてしまう。「ここではそれは関係ない」と言わんばかりです。話題は脱炭素だけになり、「我々はエネルギー転換の真っ只中にいる」と主張する。しかし私は、これは人類史上最大の誤った投資(マルインベストメント)だと思います。
世界全体で、名目で10兆ドルが気候変動対策に投じられてきました。では、その10兆ドルで何が得られたのでしょうか。エネルギー源という点で非常に具体的に言えば、太陽光は世界のエネルギーの1.2%、風力は1.4%に過ぎません。合わせても2.6%です。この2.6%のために10兆ドルが投資されてきたわけです。そして、導入比率が高い地域では、例外なく電力価格が上昇し、その結果として、私が言ったように、ドイツ、イギリス、カリフォルニアでは脱工業化が進んだ。産業は単に移動しただけです。
それは排出削減にはなりません。もしイングランド中部の工場が閉鎖され、アジアに移転し、天然ガスではなく石炭で稼働し、製品をディーゼル船で運ぶことになったら、それは気候変動対策にはなっていません。それは、自国を脱工業化し、政府が脱炭素を声高に唱えながらも、「それは本当に機能しているのか」という計算を一切していない、というだけの話です。
もういくつかデータを挙げましょう。ヨム・キプール戦争(訳注:第4次中東戦争、1973年)の当時、世界のエネルギーの85%は炭化水素(石油・ガス・石炭)でした。原油価格が3倍に跳ね上がり、その後も1970年代に再び上昇し、「エネルギーシステムを変えなければならない」と世界が目覚めた。それが、50年以上前に始まったエネルギー転換運動です。では今日どうか。今も85%が炭化水素です。
現実と向き合いましょう。石油、天然ガス、石炭が世界を動かしている。以上です。私たちは、石油・ガス・石炭を大量に使わなければ、風力タービンも、太陽光パネルも、原子力発電所も作ることはできません。それが世界の現実なのです。
■
関連記事
-
(前回:米国の気候作業部会報告を読む②:地球緑色化(グローバル・グリーニング)) 気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月2
-
日本の防衛のコンセプトではいま「機動分散運用」ということが言われている。 台湾有事などで米国と日本が戦争に巻き込まれた場合に、空軍基地がミサイル攻撃を受けて一定程度損傷することを見越して、いくつかの基地に航空機などの軍事
-
日米の貿易・投資交渉の影響もあり、日本企業が関与する米国エネルギー関連投資が相次いで発表されている。ガス火力、送電網、石油・ガスの採掘、原油輸出インフラ、製鉄、さらに原子力関連まで、金額は巨額である。 対米投資そのものの
-
ユダヤ人は祈りのときにヒラクティリーという帽子をかぶる。そこから出た紐が右手と左手に結ばれる。右手はユダヤでは慈愛を象徴し「あなたの行いが慈愛に満ちるように、そしてそれが行き過ぎないように」、左手は正義を象徴し「あなたが正義を振りかざしすぎないように」という意味を込めているそうだ。
-
過激派組織IS=イスラミックステートは、なぜ活動を続けられるのか。今月のパリでのテロ事件、先月のロシア旅客機の爆破、そして中東の支配地域での残虐行為など、異常な行動が広がるのを見て、誰もが不思議に思うだろう。その背景には潤沢な石油による資金獲得がある。
-
ジャーナリスト 明林 更奈 風車が与える国防上の脅威 今日本では、全国各地で風力発電のための風車建設が増加している。しかしこれらが、日本の安全保障に影響を及ぼす懸念が浮上しており、防衛省がその対応に苦慮し始めているという
-
アゴラチャンネルで池田信夫のVlog、「炭素税がやってくる」を公開しました。 ☆★☆★ You Tube「アゴラチャンネル」のチャンネル登録をお願いします。 チャンネル登録すると、最新のアゴラチャンネルの投稿をいち早くチ
-
東京都の資料「2030年カーボンハーフに向けた取り組みの加速」を読んでいたら、「災害が50年間で5倍」と書いてあった: これを読むと、「そうか、気候変動のせいで、災害が5倍にも激甚化したのか、これは大変だ」という印象にな
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
- 秋田に2兆円AIデータセンター:「風力発電が決め手」は本当か
- AfD排除で進む「ドイツ民主主義の侵食」:ベーメ=ネスラー教授の警告
- COPの理想論に冷水:S&Pグローバルが描く2060年のエネルギー
- データが示す石油輸入の中東依存度の実態
- 廃棄物もCO2も捨てたら価値はゼロになるのか? 炭素というレンズで読む思想史
- スコープ3に代わる新たな炭素会計?「E-ledgers/E-liability」とは
- トランプが気候変動は「いかさま」だという理由
- 正確だった国の“脱線”:ドイツ鉄道という国家の縮図
- 系統用蓄電池の問題点とはなにか?
- 全世界の町工場まで炭素簿記を義務化? E-ledgersという無理ゲー

















